iPad vs Galaxy Tabの料金プラン

アップデート

ドコモが言っている2年契約で4万円強について、情報源等を追記します。
2年契約と言っているのは例えばPC Onlineの記事で確認できます。またこの場合、ドコモのスマートフォン割引価格と同様のものが適応されてはじめて4万円強の価格になるだろうとぼくは考えています。


ドコモから発売されるGalaxy Tabの本体価格も料金プランもまだ正式には発表されていませんが、本体価格がだいたい4万円強になるということ、それと料金プランがドコモの他のスマートフォンのプランに準ずること(通話料金も必要そうだということも)が言われています。

そこで予備的ではありますが、iPadとの料金プラン比較をしてみました。iPadもGalaxy Tabの2年縛りがあるので、24ヶ月使った場合の料金を比較しています。

ipad galaxy tab plans.png

なおSamsung Galaxy Tabの本体価格は¥40,000として計算し、月々の支払いはこれを単純に24等分しました。またスマートフォンの料金プランはドコモのスマートフォン料金プランイメージを使いました。3G タブレットとしての通常の使い方を想定して、パケ放題ダブルの上限価格を使いました。Galaxy Tabでは通話料金を払う必要があるという話がウェブで散見されているので、スマートフォン料金プランイメージに記載のタイプSSバリュープランを使いました。

またiPadの料金はiPad販売価格一覧表iPad専用データ定額プランを使いました。

結論

ドコモのサービスとソフトバンクのサービスは単純に比較できないのは周知のことですが、それでも2年間でそれぞれ¥214,720と¥135,720ですので、ずいぶん差があると言えます。これがiPhoneとXperiaの差とかなり似た水準だというのも興味深いです。

少なくともここの勉強不足の記者が言っているように「価格で(Galaxyタブに)軍配」とは到底、言えません。

このブログで繰り返し紹介していますよう(1, 2, 3, 4)に、世界的に見てもGalaxyタブはiPadより高くなってしまいそうで、そもそもの製造原価が高いと想像されます。

ドコモから公式の価格と料金プランが発表されたとき、高くて愕然とする人がたくさん出てくると思うのですが、どうなるでしょうか。シャープのガラパゴスも然りです。

オープンの方が高い理由

「オープンな規格にして、競争を促進した方が安くなるはずだ!」

多くの人がこのことを信じています。

でもこれはかなり間違っているのではないでしょうか。

確かにオープンで競争が激しかったものが「たまたま」安かったというケースはあります。しかしオープンであることと競争が激しいこと、そして価格が安いことは実際にはかなり独立した事柄であって、オープンであることの結果として競争が激しくなる訳でもなければ、オープンであることによって価格が安くなる訳でもありません。逆にクローズドであれば価格が高くなる訳でもなく、競争が阻害される訳でもありません。

タブレットはApple iPadが安い?

最近で言えばAndroidタブレットとして発表されたSamsung Galaxy Tabの例があります。まだ日本でのGalaxy Tabの価格は正式に発表されておらず、情報があるのはイギリスだけですが、iPadの方がSamsung Galaxy Tabより高くなってしまっているのです。

Samsungが使用しているAndroid OSはオープンソースであり、無償で使うことができます。Samsungは独自のOSを開発しなくてすんだのです。しかもiPadが発売されたのは一年近く前なので、後発として成功するためには積極的な価格戦略が重要です。しかもAppleはブランド力が強く、多少高くても製品が売れます。AppleのiPadはクローズドなシステムであり、競合他社からある程度遮蔽されています。その上Appleは利益幅を大切にしますので、無理な価格設定はしません。

以上を踏まえ、「オープンな方が安くなるはずだ」という考え方に立つと、どう考えてもSamsungの方が安くてしかるべきです。Android OSはオープン、それもパソコンにおけるマイクロソフトのWindowsよりもさらにオープンです。相変わらずクローズド戦略をとるAppleより当然安くならなければなりません。

でもそうなっていないのです。逆にApple iPadの方が安いのです。

どうして理屈通りにいかないのでしょうか。どうしてオープンなのに安くならないのでしょうか。

理由は簡単です。

理屈が間違っているのです。

価格はどうやって決まるの?

詳しいことを抜きにして、常識的な話だけをします。

価格を決める要因は大きく

  1. 競合価格
  2. 製造コスト要因
  3. 戦略的要因

です。

この中でも1.の競合価格は常に非常に意識されます。別名、市場価格です。末端顧客にとっては非常に分かりやすいのが競合価格ですので、価格設定のときはまず最初にこれを意識するのが一般的です。よほど明確な差別化ができていない限り、あるいは競合のブランド力が弱くない限り、競合価格を無視するということはあり得ません。逆に競合価格だけで価格設定をすることは珍しくありません。

製造コストはもちろん大きな要因です。しかし通常は「守り」的な意味を持ちます。価格は基本的には競合を元に考えるのですが、ここで設定した価格で本当に利益が出るかどうかを確認するときに製造コストを確認することになります。特に日本のように伝統的に製造現場が強く、マーケティングが弱い場合は、製造コストは最後に確認しがちです。

最近のちゃんとしている企業であれば、製造コストを元に最終的な価格を設定するのではなく、逆に最終的な価格を最初に決めて、そしてその価格で十分な利益が出るように製造方法を組みます。つまり製造コストが価格を決定するのではなく、価格と製造コストが先に決まっていて、それから製造方法が決めます。AppleがiPadの開発を行ったときはこの方法をとったと語っていました。

戦略的価格というのは、「今は仕方ないから赤字でも我慢しよう」という状態の別名です。顧客を囲い込んで、後で別の方法で利益を改修できる見込みがあるときにとられる価格戦略です。携帯電話の本体を安く売って、後で通信費でその分を回収する場合等にとる価格設定戦略です。

さてGalaxy Tabの場合は1.の競合価格を強く意識したはずです。しかし2.の製造コストが十分に下げられず、泣く泣くiPadよりも高い価格にせざるを得なかったと推測されます。Galaxy Tabは後発であり、Apple iPadとは大して差別化できていないので、これ以外は考えられません。

もちろん戦略的価格戦略も考えられます。しかしAndroidは完全にオープンなので、顧客の囲い込みは困難です。ですからSamsungはこの戦略をとることはできませんでした。

どうしてSamsungは製造コストを下げられないのか

これもかなり単純だと予想しています。Appleの方がスケールが断然大きいのです。

iPadのOSはiPhone, iPod Touchと同じiOSで、CPUなどの部品も共通です。Apple
が出荷するであろうiPad + iPhone + iPod Touchの台数と、Samsungが今後出荷するであろうAndroid携帯 + Androidタブレットの数はどれぐらい違うでしょうか。想像するだけでも数倍は違うはずです。一桁違うかもしれません。(iPod Touchの販売台数はiPhoneと同レベルです。iPhone対Androidのシェアは情報源によってはかなり競っているというものもありますが、僕はNielsenのデータに信頼を置いています。もちろんAndroid携帯は複数メーカーから販売していますので、各メーカーのシェアはAndroid全体のシェアの数分の一です。)

これだけスケールが違うと、部品の調達力に大きな違いがあります。自然と大きな値引きが引き出せます。数年前の話ですが、SamsungがAppleにiPod用のflashメモリを50%程度値引きしているということで、競合のiRiverが抗議したということもありました。iPadについても同程度に調達コストを抑えられている可能性があります。

Androidのようなオープンな規格だと、どうしても市場が分断されます。独自のOSを開発するという参入障壁がないことにより、多数のメーカーが参入します。その結果として、各メーカーの取り分が小さくなり、部品を調達する際の交渉力が弱くなってしまいます。これはオープンであることによって却って価格が高くなってしまう例です。

他にも原因はたくさんあると思います。今回はこの一例だけ紹介しますが、オープンの方が価格は高くなり、一般の常識に反してクローズドの方が価格を下げやすいこともあるのを理解していただければと思います。

オープンによって価格が下がるのはどういうとき?

オープンにすることによって価格が下がる例はもちろんあります。パソコン等が良い例です。でもこうなるためには条件があります。

それはクローズド戦略をとっていた企業が、その立場にあぐらをかいて顧客から利益を搾り取っている場合です。先に書いた例でも紹介したように、クローズド戦略をとりつつ大きなマーケットシェアを獲得した企業は、本来は有利な価格戦略を展開しやすいはずです。低価格戦略に打って出る余裕はあるはずです。しかしマーケットシェアが大きくなると、ほとんどの経営者は顧客を搾取することを始めます。価格を下げる努力を忘れ、新技術の開発の手を緩め、取れるだけ利益をとろうとするのです。ほとんどの経営者は短気目標を重視し、長期目標を軽んじる傾向があるので、これはある意味合理的な判断ではあります。通常の方法で株主利益を最大化するのであれば、このやり方が正解です。マーケティングではこのような戦略をしばしば「milking」と言います。

これに対してオープンな市場であれば、企業は顧客を搾取することができません。価格競争が起きますので、各企業はがんばって価格を下げます。だからオープンな市場は価格が安くなるのです。

さてAppleがとっている戦略は、クローズド戦略でありながら、そして巨大なマーケットシェアをとりながらも、決して顧客を搾取しない戦略です。膨大な利益が出ても価格を下げる努力を続け、そして新しいイノベーションを忘れていません。利益を最大化することを考えるのではなく、どうやったらより多くのイノベーションを起こし、より多くの人の人生に好影響を与えられるか。Appleは株主利益ではなく、Steve Jobsの妄想によって駆り立てられている会社です。こういう会社のクローズド戦略に勝つのは簡単ではありません。

確かにマッキントッシュはウィンドウズに負けましたが、あれはクローズドvsオープンの戦いではなかったのです。最大限に顧客を搾取するため、昔のマッキントッシュはべらぼうに高価でしたし、そして新しいOSの開発がうまく出来ない等、イノベーションも起こせませんでした。いくら昔とはいえ、パソコン一台で167万円って信じられますか?。Jobsを追い出した後のAppleの経営者はそういう販売戦略をとったのです。単なるクローズド戦略ではなく、顧客を搾取するクローズド戦略をとったのです。そういうのはオープン戦略に簡単に負けます。

Galaxy Tabの正式価格

日本の価格ではなくイギリスでの価格ですが、昨日公式なものが公開されたようです。

Samsung Galaxy Tab Gets Official UK Price

正式な価格(希望小売価格: recommended retail price)は£799です。以前から公開されていたAmazon.co.ukの情報が正確だったようです。£799というのはべらぼうに高く、¥105,500 円に当たりますです。ただAmazonでは£599.99(¥79,200)で販売していますので多少はマシです。

ただそれでも同等のiPad 3G (16G )が£529.00(¥69,900)です。

先にブログに書いた通りだったようです。

Galaxy TabのDocomoの価格

NTTドコモから発売されるGalaxy Tabの価格について、まだ正式発表はありませんが、NTTドコモの山田社長からコメントがありました。

毎日.jpより

 山田社長は「Sは、世界で500万台販売されている。どこからみても高精細で、2機種ともスマートフォン新時代にふさわしいモデルだ」と語った。価格は「S」が新規、2年契約で3万円弱、「Tab」が同条件で4万円超の見込み。

さて、専用のデータプランの価格がまだ発表されていませんので、iPadとの比較は簡単ではありません。しかしドコモは通常、ソフトバンクのように分割支払金を割り引くようなことはやりませんので、Galaxy Tabの場合もそうなると予想します。

iPadの場合、3G, 16Gモデルでデータ定額プランを申し込むと、分割支払金は ¥2,430です。そしてデータ定額プランは毎月 ¥4,410ですが、iPadで新規加入から24ヶ月間は¥1,500の割引があります。したがって、分割支払金は実質 ¥930。そして24ヶ月となると¥930 x 24 = ¥22,320ということになります。(XperiaとiPhoneの料金比較の資料ですが、料金システムの違いを理解するのに参考にしました)

つまりiPad 3G, 16Gをソフトバンクのデータプランと合わせて購入した場合、ハードを購入するための実質負担金は¥22,320となります。

これだと山田社長が言っていたGalaxy Tabの4万円はずいぶんと高い感じになってしまいます。倍近い価格です。

最終的なGalaxy Tabの価格が発表されれば、うんと詳しい評論家が解説してくれるでしょうが、とりあえずいまのところの感覚からすると、日本でもGalaxy TabはiPadよりもずいぶんと高価になってしまいそうです。

ちなみにイギリスやオーストラリアでは一部のサイトでGalaxy Tabの価格が漏れていますが、同様にiPadよりも高価になってしまっています。ドコモだから高いということでは無さそうです。

アップデート

sak’s Android Avenueより

電話もできるようで料金プランも通常のスマートフォント同様ということらしいですが、通話はいらないので2台目用途のデータ通信端末専用の安価な料金プランを設定してもらいたいところです。

本体価格を下げるには料金プランを高くしないといけないので、だれも使わなくてもこれを付けなければならなかったのでしょう。

尖閣諸島に関する意見の面白い関係

2010年9月26日(日)付けの朝日新聞を読んでいたら、尖閣諸島問題関連の記事がかなり興味深かったです。特に海外識者の意見と、その眼力の確かさを証明するような「天声人語」の関連が期せずして見事にはまっていました。

まずは米戦略国際問題研究所(CSIS)上級研究員のボニー・グレイサーさんの記事。

中国指導部は権力移行の準備段階に入り、国内世論の圧力にもろくなっている。このため、領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない。軍部の発言力もより強まっているうえ、国力も自信が出てきた。歴史的にも他国、とりわけ日本から受けた屈辱を晴らすときが来たと感じる人たちもいるだろう
(太字は僕が付けました)

そしてロシア極東研究所主任研究員のアレクサンドル・ラーリンさんの記事。

もっと早く釈放していれば、せめて面子は保つことができた。

日本の強硬な姿勢は、北方領土問題を抱えるロシアに対しても悪いイメージを与えた。ロシアは1960年代には武力衝突にまで発展した中国との領土問題を、係争地を2等分する方法で2004年に解決した。ノルウェーとの間では今年、豊富な地下資源が埋蔵されていると見られる大陸棚の強化画定問題を、やはり2等分することで解決した。

共に長年の懸案だったが、問題解決の強い願いがあったから、双方が政治的決断と譲歩ができた。今回の問題は、日本の政治家にはそうした熱意や交渉の意欲がなく、原則を押し通そうとするものだとの先入観を与えてしまった

「歴史的事実」を振りかざしても、領土問題は解決しない。今回の失敗で、日本も対話で実益を得ることの重要さを理解すると思う。
(太字は僕が付けました)

最後に「天声人語」

政治経済ばかりか、この国は司法までもが外圧で動く。
….
法治ならぬ人治の国、しかも一党独裁で思うがままだから始末が悪い。下手に出れば増長する。

多分「天声人語」のコラムが多くの日本人の気持ちを代弁していると思います。少なくともTwitterの僕のTLを見ていると、また新聞の報道を見ているとそう感じます(意外とテレビに出てくる有識者は冷静な意見が多いのがちょっと面白い)。

そして「天声人語」のコラムの気持ちがまさにアレクサンドル・ラーリンさんが言う日本人は「原則を押し通そうとする」ことを強烈に裏付けています。日本の政治家も中国の政治家同様、世論を無視することはできません。日本の世論が「原則を押し通そうとする」結果として、日本の政治家も問題解決への「熱意や交渉への意欲」が出せず、「原則を押し通す」ことしかできないのだと思います。

それと少なくともボニー・グレイサーさんは、中国が「一党独裁で思うがまま」(天声人語)だとは思っていないようです。中国も日本や米国と同様に「国内世論の圧力にもろい」く、やはりその世論の影響で日本と同様に「領土が絡む問題で柔軟な態度を示せない」とホニーさんは考えているようです。

構図としてはこうです。

アレクサンドルさん日本の「原則を押し通す」ような柔軟性のない態度では問題は解決していないとしています。ボニーさんは中国サイドの話として、中国の柔軟性のなさは世論の圧力の結果であると書いています。そして「天声人語」は日本サイドの世論にも柔軟性のかけらもないことを証明しています。

僕はアレクサンドル・ラーリンさんの意見に賛成ですね。日本人は概して実利よりも「原則を押し通す」のが好きな国民だと僕は感じてきました。日本の外交が下手な大きな要因は、実は世論に共通するこの考え方だと思います。

日本ってなんで今日の多数の問題を抱えているかを考えてみる

今流行の官僚バッシングとか政治バッシングをするのではなく、

諸行無常
盛者必衰

の観点から考えたいと思います。

つまり日本が多数の問題を抱えているのは決して官僚とか政治家が大バカな判断をしたからではなく、自然と「たけき者も遂には滅びぬ」ことになる力学が存在するという観点から見てみます。

なお、これは僕が好きなChristensen氏の考え方に通じます。Christensen氏は企業や市場においてInnovator’s Dilemmaがあって、正しい経営を続けていても「遂には滅びぬ」と解説しています。

さて本題です。今の日本が抱えている問題は日本固有の問題ではなく、自然と起こる問題なのかどうかを見て行きます。とりあえずは少子化問題と景気の問題を見ます。

少子化問題

日本が抱えている多数の問題の中でも、これが最も根源的なものだと僕は思っています。

さて現代の先進国が少子化問題を抱えやすいというのは、だいたいどこの国を見ても確かです。ヨーロッパ、そして韓国等のアジアの先進国がそうです。したがって少子化問題が起こっていること自体は「必衰」と言えると思います。なんでそうなってしまうのかは諸説あると思いますが。

出生率
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不景気

今の日本が不景気だという前に、そもそも何で日本は経済発展できたんだろうかを考えてみたいと思います。別の見方をすれば、日本が経済成長した頃の原動力は何だったんだろうかということです。

日本が経済成長できたのは勤勉だったからだとか、学力があったからだとか、技術力があったからだとか、モノ作りが得意だったからだとか、いろいろなことを言う人がいます。総合すると日本が経済成長できたのは日本国民が優秀だったからということです。でもこの考え方はただの下等なナショナリズムで、完全に間違っていると思います。

というのは、韓国にしても台湾にしてもシンガポールの成長を見ても、日本の高度経済成長期ぐらいのことはできているからです。少なくとも東アジア文化圏の国の大半は、日本国民と同じぐらいには優秀そうです。

日本が1950年代から1980年代にかけて経済成長できたのは、恐らくは韓国、台湾が経済成長できたのと同じ理由、そして今の中国が経済成長をしているとの同じ理由ではないかと思います。ひとことで言えば、安い人件費と強い上昇志向の組み合わせによって、先進国で売れる製品が安く作れたからです。1960年代までは日本製品は今の中国製品と同様、おおむね「安かろう悪かろう」だったことを忘れてはいけません。

日本が1970年頃から先進国の仲間入りをすると、だんだん今までのやり方が通用しなくなりました。それから20年間は価格勝負ではなく、とことん品質と性能を高め、差別化することによって成長を続けました。しかしChristensen氏がInnovator’s Dilemmaで解説しているように、この戦略で成功し続けられる時間は限られています。遅かれ早かれ、技術の発展により過剰品質になり、そして低価格製品に席巻されてしまいます。これが今の日本の経済問題の根源だと僕は考えています。

「おごれる人も久しからず 」そのままです。先進国の仲間入りを果たしたばかりの日本が、新興の先進国に国家のビジネスモデルを真似られ、凌駕されるのは時間の問題でした。国家として何か別のビジネスモデルを編み出せなければ。

解決の糸口

またしてもChristensen氏の話をします。彼はThe Innovator’s Dilemmaにおいて、経営判断を正しく行ったとしても、会社はいずれ衰退すると説いています。その運命から脱却する方法についてはThe Innovator’s Solutionで議論しています。もちろん企業の話をしていますが、国家の運営にも通じると思います。

そしてChristensen氏が言うのは、とにかく古いものや古いシステムにとらわれず、新しいものを生み出せるようにしなさいということです。

新しいものは古いシステムとうまく波長が合わないものです。生まれたてほやほやの新しいシステムは、既存のシステムよりどうしても見劣りします。ですから古いシステムの影響があると、新しいものは役立たずと断じられ、芽が摘まれてしまいます。新しいものは独立させなさいというのは、そういう意味です。新しいシステムは今は頼りなく見えるかもしれませんが、古いシステムはいずれは必ず取って代わられます。通常の経営判断とは別に、信念に基づいて新しいものをインキュベートしないといけないのです。

日本は平家物語を生んだ国ですから、諸行無常を理解し、盛者必衰を理解し、既存のものが今はどんなに優れていても、信念を持って新しいものに投資することができても良さそうな気がします。

でもできないんですよね。いつまでも古いものにしがみついてしまっています。

新しい世代への投資を積極的に行わない。新しい産業に投資を行わない。

代わりいつまでも古い産業(建設だけでなく、自動車や家電を含む)に国費を投じ、その分、医療や福祉や教育は後回し。

ちょっと悲しい。

Asymco: 企業内アナリストは虚しいからブロガーになった

Asymcoというハイテクの動向を追いかけたブログが非常に秀逸で、急速に話題になっているみたいですが(僕はJohn GruberのDaring Fireball経由で知りました)、著者のHorace Dediuが「存在の理由」(“the existential theory”)というこれまた面白い記事を書いていました。

簡単に言うとこうです。

  1. 会社にいるときは、主にデータの収集とそれをプレゼンテーションすることを行っていました。聴衆は最小で一人、最大でも数十人。そしていったん発表が済むと、記憶としてはだいたい3日持ちません。ひと月もすれば完全に忘れ去られます。
  2. なぜこうなるかというと、企業内では情報の伝達と貯蔵、消費は制限されるからです。この結果、企業内アナリストの仕事は限りなく無駄になってしまいます。
  3. もう嫌になってしまったきっかけは、経営陣のミーティングで発表する分析に2週間費やしたのにも関わらず、スケジュールの関係で議題から外されたときです。そのときの分析は誰にも発表する機会がありませんでした。
  4. そのときに悟ったのは、自分の分析はミーティングに必須ではなかったということ。それは「経営陣のための余興」だったのです。だったらと思って、自分のエンターテインメントスキルを磨くことを決心しました。そしてなるべく大きな聴衆に向かってブログを書くようになったのです。

Horaceの気持ちは痛いほど分かります。

僕はアナリストではありませんでしたが、経営陣に対して発表をするというのは常に虚しさがありました。ただただ、自分のチームのやっている仕事を評価してもらい、僕らが生命科学に貢献できるようにリソースを分配して欲しいと思ったからがんばったまでです。そうでもなければ、バイオテクノロジーの知識が無いのはむろんのこと、研究に貢献する喜びを感じず、使命感も持たない人たちのために時間をかけてプレゼンテーションを準備することはありません。

しかもせっかく分析をしても、Horaceが言うように、それを部下やその他の社員に公開することは原則としてしません。経営上部に対するプレゼンテーションの場合は。

The Smithsの”Heaven Knows I’m Miserable Now”の歌詞に

In my life
Why do I give valuable time
To people who don’t care if I live or die ?

というのがあって、すごく好きなんですが、経営陣のミーティングにたくさん参加するとこういう気持ちになります。

PS.
そういえば僕が最初に入社した製薬企業では、研究報告書というのがあって、研究の切りがつくとそれを書くことになっているのですが、この管理の仕方がまたすごかったです。原本は地下の倉庫にしまわれて、研究管理室に鍵をもらいに行かないと取りに行けません。しかもコピーは厳禁でした。

その上、どのような研究報告書があるかを知りたくて検索をしようと思っても、許可をもらって上でITチームに依頼を出さなければなりません。ですから結果として、研究報告書の内容はもちろん、そういう報告書があったかどうかもすぐに忘れられてしまうのです。

僕は自分の研究にすごく重要な情報をMedlineで検索して、論文を見つけて、驚いたことに自分の研究所の人間が10年前にそれをやったということを知って、ITチームに検索を依頼して、そして初めて研究報告書の存在を知ったということがありました。

会社って時々とてもおかしなことになってしまいます。

AppleがiTunes storeで新聞を配信する意義

AppleがiTunes storeでまもなく新聞の配信を始めるのではないかと噂されています。しかし売上げ低下に喘ぐ新聞社にとっても、全面的に都合が良いわけでは無さそうです。

このブログでその問題点を詳しく解説しています。

大きく問題になるのは、購読者の情報がAppleに握られてしまうということだそうです。購読者が了解しない限り(オプトイン)、顧客情報はAppleにとどまり、新聞社までは送られないそうです。

昨今の個人情報保護を背景に、Appleが小売業をやっていると考えれば、これは当たり前のことではあります。個人情報関連の法律では、了解無しに第三者に個人情報を譲ってはならないとなっていますので、Appleはこれをやっているまでだとも言えそうです。実際、スーパーで何を買ったかの情報が食品メーカーにまで行っていると言うことはないと思います。バイオの業界はちょっと微妙だったりしますが。ただし旧来の新聞社のビジネスモデルでは小売りまでも担当していましたので、問題となったのでしょう。

NewImage.jpg恐らくAppleが新聞社に言っているのは、「うちが小売りをやるから、あなたたちは良い記事を書いて、うちに卸してください」ということに近いのでしょう。Appleが小売りであれば当然小売価格の決定権はAppleに帰属します(そうしない法律的に問題になります)。新聞への広告の掲載にしても、Appleとしては「お金を集める活動はすべてうちが担当します」というスタンスかも知れません。

要するに、新聞社は今までは記事を書くところから初めて、印刷をし、配達をし、集金をし、販促をし、広告集めの活動までも行う、完全な垂直統合のビジネスをしていました。Appleの提案は、iTunes Storeを使えば、印刷、配達、集金、販促活動はうちがやります、ということでしょう。Appleにしてみれば、新聞社はとにかく記事を書くことにだけ集中すれば良いと考えているのだと思います。

もし新聞社がいつまでも垂直統合を続けていたらどうでしょう。果たして効率が良いでしょうか。果たしてインターネット配信の価格を印刷物よりも大胆に安くできるでしょうか。残念ながらそうではなく、いつまでたっても、そして印刷物の必要がなくなっても値段は下がらないでしょう。日経新聞の有料オンライン版が毎月4,000円、紙の毎月4,400円とほとんど変わらなかったのは記憶に新しいところです。垂直統合を解かない限り、旧来の組織と社内政治が大胆な施策を阻み、インターネット版の値段を押し上げてしまうでしょう。

別に配信はAppleだけに限る必要はありません。Appleも囲い込みを狙っているようには見えません。もし新聞社がAmazonと組みたければ、それを制限するようなことはしていなさそうです。Appleは独占を狙っているのではありません。

Appleは新聞社に大胆な構造変化を促し、インターネットの時代を生き延びられるような筋肉質なコスト構造にさせたいのでしょう。そうしない限り、今のままだと遅かれ早かれ新聞社は破産してしまいます。Steve JobsはAll Things Dのインタビューで言いました。「この国がブロガーの国になってしまうのは見たくない。健全な民主主義のためには編集を経た良質な記事が必要だ。新聞社が生き残れるように最大限のことをやって行く。」

一見違うように見えるかもしれませんが、少なくともいまAppleがやっていることは、Steve Jobsのこの言葉そのとおりだと思います。

Facebookが携帯電話を開発中?

Facebookが秘密裏に携帯電話を開発しているという噂が広がっています。

多分Androidでしょうね。

そういえばVerizonのAndroid App Storeがオープンするという話もあります。VerizonのApp Storeで売れた場合の手数料等(売上げの30%)は、GoogleではなくVerizonに入ります。

Androidはオープンにしているがために、好きなだけ利用されて、Googleにはお金が入らずに、他の業者にお金を稼がれてしまう可能性がありそうです。

オープンでお金を稼ぐのは一筋縄ではいかなさそうですね。

テレビってこのままでいいのかな… Apple TVなどに期待すること

我が家ではApple TVをそれなりに使っているのは以前にこのブログで紹介しました。ライフスタイルによりますが、結構良い製品だと思っています。

さて、Apple TVもしくはGoogle TVなどのようなデバイスは果たしてヒットするのだろうか?インターネットを観ていると多くの人がこの点を議論しています。

ほとんどの議論は細かい機能の各論です。でも多分それは意味がありません。非常に当たり前のことですが、顧客が買うのは機能ではなく、ニーズを満たすものです。どんなに優れたマーケティング活動をしても、どんなにたくさんの広告宣伝費をつぎ込んでも、どんなに優秀なセールスマンを雇っても、顧客のニーズを満たさない製品は売れません。ですからある製品がヒットするかどうかを議論するのに一つ一つの機能を比較したりするのはあまり価値がなく、ニーズがあるのかないのかを調べることが重要です。

とうことで、現在の日本のテレビシステムの問題点と満たされていないニーズを考えたいと思います。

番組がつまらない

日本のテレビは下らないコンテンツが多すぎます。もう敢えて解説するまでもないと思います。

面白いコンテンツがあれば、もっと番組を観てもらえるはずです。

東京のサラリーマンは通勤で毎日2〜4時間を過ごしている

その分、家でゆっくりテレビを見る時間がありません。ならば通勤中でも番組が観られるようになれば便利です。ワンセグはその方向に向かっていますが、完全な解答ではありません。

レンタルはネットでできるのが便利じゃない?

普通に考えれば、映画コンテンツ等のレンタルはネットでできるのが便利に決まっています。プロバイダによっては光インターネット接続を使って観られるものはあります。でも限定的です。またネット配信ではありませんが、いろいろな方法でDVDを物理的に届けてくれたりするサービスもあります。

それぞれ無いよりはマシですが、もうちょっと何とかならないのという気もします。限界の中で無理矢理やりくりをしているという感じが残ります。

今どき、なんでテレビだけオンデマンドじゃないの?

オンデマンドじゃないサービス、つまりあらかじめ決まった時間にだけ放送されるというサービスは基本的に消費者にとって不便です。ニュース番組やスポーツ生中継の場合はリアルタイムであることが重要なので、オンデマンドというわけにはいきません。しかしそれ以外のコンテンツがオンデマンドで放送されていない理由は、少なくとも消費者のニーズからはありません。

確かに20世紀は一斉に放送をする技術以外は現実的ではなく、ビデオをオンデマンドで配信することは困難でした。しかし21世紀の今、ブロードバンドインターネットがあればオンデマンドが簡単に実現できます。なのにそれがテレビで普通にできないのは明らかに問題です。

なんで録画しないといけないの?

確かに録画をすれば、見過ごした番組を後で見ることはできます。しかし録画を忘れるともう後の祭りです。なんで?

クラウドの時代なのに、そもそもなんでローカルで録画しないといけないのでしょう。どこかのサーバに保存されていれば、それを観ればいいんですよね。そんな感じでなんでできないんですか?

iPhone/iPadでなんで観られないの?

20世紀までは、動画が見られる画面はテレビしかありませんでした。パソコンでは動画の画質も悪く、観るのが大変でした。それが今では手元の100グラム強のスマートフォンで映画が見られます。しかも高画質です。

10年前の高画質テレビをしのぐ解像度のビデオが、今は手のひらの画面で鑑賞できるのです。なのにビデオコンテンツをそこに移してくるシステムが確立されていません。せっかくの高画質画面なのに、日本の場合は映像コンテンツがうまく観られないのです。

もちろんサードパーティーのソフトを使って、若干法律的にグレーな方法でDVDソフトを持ってくることはできます。でも面倒でしょう?それでは広く普及するはずがありません。

まとめ

現在のテレビシステムへの不満はまだまだあります。上に挙げたのはまだ一部ですが、それだけ見ても満たされていないニーズが多そうなのは分かります。

それにも関わらずApple TVなどがなかなか成功せず、未だにビデオコンテンツの消費の仕方が20年前から根本的に変わっていません。ですからヒットするのがApple TVなのかGoogle TVなのか、あるいは今後出てくる新しいものかどうかは分かりませんが、確実に何か根本的に新しいものが出てくるはずです。

Apple社は音楽について言えばiTunes Music Storeで音楽配信システムにかなり大きな変化を起こしました。ビデオについても何かやってくれることを期待しています。最後まで諦めなければ、いつかはヒットが生まれるでしょう。