Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由

昨日、「AmazonのAndroidタブレット Kindle のビジネスモデルは甘いんじゃない?」という題で、「ハードで赤字を出してソフトで儲ける」という戦略はKindle Fireには適応できないという議論をしました。したがって短期的にKindle Fireの売り上げは伸び、いったんは成功したように見えたとして、長期的には成功しないと判断しました。

昨日、AsymcoのHorace Dediu氏がブログを更新し、別の角度からKindleがタブレット市場に破壊的イノベーションをもたらさない理由を紹介しました(“The case against the Kindle as a low end tablet disruption“)。要点は以下の通りです。

  1. 破壊的イノベーションが起こるためには製品が継続的に改良されていく必要があります。しかしKindle Fireは赤字で販売され、ソフトの利益でそれを埋め合わせています。したがってKindle Fireの改良に投資するインセンティブは低く、継続的な改良は望めません。
  2. Kindle Fireを赤字で売る戦略が成功する要件は、タブレット市場が成熟し、”good enough”の状態になっていることです。タブレット市場が製品ライフサイクルの後期にいることです。しかし少なくともAppleはその正反対に捉えていて、タブレットのイノベーションは始まったばかりだとしています。Appleがイノベーションを続けることができれば、Kindle Fireが破壊的イノベーションを起こすことはありません。

Horace Dediu氏の分析はClayton Christensen氏のイノベーション論に基づいていますが、非常に的確であると思います。Kindle Fireが破壊的イノベーションとしてiPadの脅威になるとは思えません。

僕はさらに一歩踏み込んで、Kindle FireがAndroidのイノベーションを大きく阻害する危険性が高いことを以下に論じます。その一方でAppleはiPadのイノベーションを阻害することは考えにくいので、iOSとAndroidの差がますます広がるだろうと考えています。 Continue reading “Amazon Kindle FireがAndroidのイノベーションを阻害する理由”

東芝のルンバもどき(スマーボ)はなんであんなに高いんだ?

アップデート
少しGoogleで調べたら、iRobotは特許を積極的につかって競合をかなり牽制しているようです。
東芝がこれだけセンサーを使ったりしているのは、恐らくは特許回避のためでしょう。
iRobot Settles Patent and Copyright Infringement Lawsuit to Protect Roomba Floor Vacuuming Robot

Ah robo東芝が2つのCPU、38個のセンサー、カメラなどを搭載したロボット掃除機(名前は「スマーボ」。要するに「ルンバ」もどき)を10月1日に発売するそうです。実売予想価格は9万円前後。月次販売目標は5,000台だそうです(正確な数字はわかりませんが、それに対してルンバはおそらく2010年で年間10万台を販売)。

この掃除機、何がすごいかというと価格がすごい。これでルンバの半分ぐらい売れるかもという販売予想の大胆さもすごい。

Amazonで”roomba”を検索してみるとわかりますが、ルンバは¥34,780のルンバ530から¥82,800のルンバ780まであります。新しい東芝のロボット掃除機スマーボは、後発でありながら最上位機種よりも高い9万円のモデルだけを用意します。

数年経った後の後発メーカーなのに、うんと高い。常識では考えられないマーケティング戦略です。常識的に考えれば売り上げ目標は大幅未達で終わるでしょう(だから半年ぐらい待てば、在庫処分の大安売りがあるかも)。

何でこうなってしまったのでしょうか。 Continue reading “東芝のルンバもどき(スマーボ)はなんであんなに高いんだ?”

AndroidがEUで意匠権侵害で販売仮差し止めになって思うこと

GoogleのモバイルOS Androidが特許を侵害しているとして非常に多くの訴訟に巻き込まれ、またSamsungがGalaxy TabおよびGalaxy S IIで意匠権を侵害しているとして販売差し止めの訴えをAppleより起こされていることは、このブログで何回も取り上げています。

8月9日にはEUでSamsung Galaxy Tab 10.1がEUで販売仮差し止めになったということが報じられ、8月1日には同様の判断がオーストラリアでもくだされましたヨーロッパではMotorola Xoomも同じく意匠権で販売差し止めの訴えを起こされているようです。

一方でGoogleはこのような特許訴訟がイノベーションを阻害しているとブログで訴えています。ただGoogle自身が強力な特許に守られながら大きくなった会社であることや、特許以外の知的所有権に対するGoogleの姿勢にも甚だ疑問があることなどをあげて、Googleは単に自分に都合の良いことを言っているだけではないかという意見もあります。

携帯電話やソフトウェアに関する特許は確かに複雑なようで、各製品には多数の特許が含まれ、メーカーは互いに複雑なクロスライセンスをしているという現状はあるようです。そもそもソフトウェアには特許を与えるべきではないという議論もあるようです(私自身はその根拠が理解できませんが)。

さて私自身は製薬企業にいるときに、間接的に出はありますが、1990年代の半ばの遺伝子特許の問題を見てきました。この時代はシーケンス技術の発達のおかげでヒトゲノムプロジェクトなどが本格的に開始された時期です。それまでの時代と大きく変わったのは、A) 生命現象があって、それからその原因となっている遺伝子を特定するという研究のやり方に変わって、B) まずはシーケンスを闇雲にやり、遺伝子を片っ端から解読し、配列から有望そうだと推定されたものについて生命現象との関係を探っているというやり方が台頭してきたことです。いわゆる逆遺伝学(reverse genetics)と呼ばれる手法です。

しかしB)のreverse geneticsを行う際に、最後まで遺伝子と生命現象との関係を見つけるのは意外に困難です。1990年代半ばはRNAiもまだ知られていませんでしたので、ほ乳動物の細胞で遺伝子を欠損させるにはノックアウトマウスを作るしかなかった時代です。したがって現実的にせいぜいできることは、細胞に遺伝子を強制発現させることぐらいでした。遺伝子はいくらでも見つかるのに、その機能がわからないというものが山ほど出てきました。

それでも製薬企業にいる以上、見つかった遺伝子の特許が早く取りたいのです。でも特許は「有用性」が言えないといけません。そこで遺伝子配列からバイオインフォマティックスで導かれた推定機能だけで特許を申請してしまう企業も多く現れました。

果たしてそんないい加減な特許(つまり「有用性」がしっかり書かれていない特許)が成立してしまうのか。法律の世界は簡単に白黒がつくものばかりではないので、企業としては非常に不安でした。多分成立しないと思うけど、成立したら大変なことになってしまう。関係者はそんなことを案じていました。

なぜそんなに不安になるかというと、遺伝子配列そのもので特許を取られてしまうと、特許を所有している企業が非常に有利になると考えられていたからです。特許を申請するときは可能な限り多くの権利(クレーム)を書くことが当たり前のことですが、当時の遺伝子特許には i) その遺伝子配列から生産されたタンパク質はもちろんのこと、ii) そのタンパク質に結合する他のタンパク質を免疫沈降などで発見する実験、iii) そのタンパク質と結合する化合物(医薬品候補)をスクリーニングする実験さえもクリームされていました。したがって遺伝子配列の特許を持っていれば、他の製薬企業がそのタンパク質に作用する医薬品を発見したとしても(それがどんな方法で見つけたにせよ)、ほぼ特許侵害で訴えることができる訳です。

実際に遺伝子特許問題がどのように収束したかは、私もほどなくしてその分野から去ってしまいましたので詳しくは知りません。まだいろいろな問題が残っているという印象は受けています。

ただそういう問題を見てきた人間として感じるのは、ソフトウェア特許以外にも特許制度は非常に難しい問題を抱えているということです。もちろん独創的な発見やイノベーションを行った個人や企業は多いに奨励されるべきですし、特許のような強力な独占権を与えることも場合によって必要だとは思います。しかし科学技術の発展が速いだけに、また様々な利害関係が対立するだけに、法律が時代に追いつくのは難しいのです。そういう状況を考えれば、特許制度は決してベストが実現可能ではなく、「無いよりかなりマシ」ぐらいの存在であるような気もします。

遺伝子特許を議論していた印象からすると、Googleがやった行為が問題になるのはきわめて当たり前ですし、もしあれが許されるのであれば製薬企業やベンチャーが基礎研究をする価値はほとんど失われてしまうとさえ思えます。ベンチャーにとっての最大の資産が特許ということも珍しくないでしょうから、特許侵害まがいの行動が許されてしまったら、製薬産業のイノベーションの構造が覆されるでしょう。

私はそういう目でAndroidの訴訟を見ていますので、どうしてもAppleだとかMicrosoft, Oracleの側に立ちます。

Androidタブレットの終わりの始まり

Androidタブレットの中でも最も評論家の評判が良かったGalaxy Tab 10.1。Appleとの特許訴訟を背景にGalaxy Tab 10.1のオーストラリアでの販売が中断されました

同様の訴訟は9つの国で11の裁判所で起こされていて(東京の裁判所も含まれています)、一番注目される北カリフォルニアのものは10月中旬に結論が出る予定だそうです。Samsungが立場を逆転させる可能性はゼロではないのでしょうが、かなりSamsungは弱気そうだというのが専門家のFlorian Muellerの見解のようです。

何しろ市場規模が大きいので多くの人が注目していますが、ライフサイエンスの研究用製品の世界でもこのようなことは米国で割とあります。販売中止とか輸入禁止とか、一見すると極端な結末ですが、そういうことは十分にあり得ますし、今回はそのレベルにまでエスカレートしている印象です。

つまりAndroidタブレットの一番の人気モデルが、iPadにそっくりすぎるという理由で日本でも販売が中止になるかもしれません。それもかなり高い確率で。

そうなると表題の「Androidタブレットの終わりの始まり」です。

Google+ が成功するかどうかはその機能を見ても分からないよ

アップデート:
2ヶ月ぐらいでFacebookが反応したみたいです(Facebook revamped to combat Google+ threat)。

具体的な機能はまだ見ていませんが、上の記事でsocial media strategistのTiphererh Gloria氏は”With Facebook’s new share options, many of the privacy concerns reasons to leave Facebook for Google+ have been removed.”と語っています。FacebookをやめてGoogle+に移行する理由はなくなったと。

以前からFacebookはこの機能を用意していたと考えるのが順当ですが、Google+が成功しているのを見て反撃を早めたのではないかと想像されます。

Googleの新たなソーシャルネットワークサービス、Google+ (plus)が公開され、招待制であるにもかかわらず急速に利用者が増えているようです。

  1. GoogleがSNSに再挑戦するプロジェクト「Google+」が始動
  2. Google+の先週の訪問者は180万、283%の成長(Hitwise調べ)

新しいサービスが出てくることは一般の人にとってはありがたいことです。

一方でGoogleの狙いはもちろん打倒Facebookです。

Google+の方がかなり後発だし、Googleのエンジニアはとても優秀なので、Google+にあってFacebookに無い機能があるのは当たり前のことです。問題は、これらの機能のおかげでFacebookの脅威になりうるかどうかです。

ハッキリ言って、それは無理でしょう。

もしGoogle+の新機能の中で特に人気が高いものがあれば、Facebookは単にそれを真似れば良いのです。Facebookには十分なお金と優秀なエンジニアがいますので、真似るのは難しくないでしょう。

改めてイノベーション、特に業界をひっくり返すような破壊的なイノベーションについてのChristensen氏の著書を読むと明確に書いてあります。業界リーダーを引きずり降ろすようなイノベーションが起こるためには、業界リーダーがそのイノベーションを取り入れない何らかの障害が必要なのです。この場合、Google+の新機能をFacebookがあえて真似ない理由が必要です。

例えばFacebookを横目にTwitterが躍進した理由を考えてみましょう。Facebookはクローズドであり、自分が友人と認めた者にしか情報は発信されません。それに対してTwitterは誰にでもメッセージを送ることができ、また誰でもTweetを読むことができるオープンさがあります。FacebookとTwitterはこの意味では対極に位置していますので、FacebookがTwitterと直接対抗することは非常に困難でした。Twitterとの連携を計る以外に、Twitterの躍進に対抗する手段はありませんでした。Facebookにとって幸いだったのは、TwitterはFacebookを補完する存在だったということ、そしてそれぞれがお互いの領域で成長できたことです。

Google+の場合はFacebookと全面的に対抗しようとしています。アクセスをきっちり管理するという意味でFacebookと同じ領域で戦っています。しかしその結果、Google+の新機能はFacebookと親和性が高く、その気になればFacebookがいつでも真似られるものです。Google+のイノベーションを取り入れる上で、Facebookにとって障害になることはほとんどないのです。

技術力によるイノベーションをいくら繰り返しても、Googleがソーシャルネットワーク関連でFacebookで勝つのはほぼ無理です。ただ何か決定的な技術の特許がとれれば話は変わります(例えばPagerank等のような)。

それよりも必要なのはソーシャルネットワークの魅力を根底から考え直して、新たなソーシャルのニーズを掘り起こすことでしょう。それもFacebookと親和性が無いようなものを探さないといけません。

Google+がFriendFeed(機能的に優れていたけど一部の人しか使わなかったTwitterライクなサービス)化するような気がしてなりません。

日本で元気な企業とClayton Christensenの”law of conservation of attractive profits”

The Economistのウェブサイトに、日本の元気な企業とゾンビ企業の話がありました(“New against old”)。

ゾンビ企業の滑稽さも面白いのですが(日本の企業の2/3は利益がなく、したがって法人税を払っていないこと等)、私が興味を持ったのは元気な企業のタイプです。

These high achievers represent the “new Japan”, says Ms Schaede. At the top of the chart is Keyence, which makes factory-automation equipment and had average profit margins of 47% between 2000 and 2009. Fanuc, a world leader in factory robots, enjoyed 33% returns. Last month it reported a quarterly operating profit of ¥49 billion ($594m) on sales of ¥118 billion. Gree, an internet company, boasted profit margins last year of 56%.

Most of Japan’s high-performance companies make “intermediate goods”, such as electrical components, specialist chemicals and precision-machinery parts, rather than final products. Drug firms also figure high on the list. But here the common features end. The group includes the large and the small, the export-oriented and the domestically focused. It spans high- and low-tech: Axell designs microchips for pachinko (roughly, pinball) machines; Nifco makes plastic fasteners to attach car parts. And the new Japan has some old members: Ono Pharmaceutical, a drugmaker with margins of 37% between 2000 and 2009, was founded in 1717.

※ 太字は私が付けました。

まず第一に注目したいのは、輸出型の産業か国内型の産業かは問題ではないということです。日本の経済をどうやったら元気にできるかという議論の中で、国内市場の需要を喚起するべきか、それとも海外市場への輸出を重視するべきかという話題が出てきます。そしてどの立場を取るかによって、相反する政策になってしまうことが珍しくありません。例えば内需を刺激するためには労働者の所得を増大させる政策が考えられますが、一方で海外競争力の立場で考えると、労働者の所得を減らしてでもコストを下げる政策が考えられます。

でも輸出型か国内型かはあまり企業業績に関係していないのであれば、この議論は不毛ということになります。この記事はそれを示唆していると思います。

Law of conservation of attractive profits

第二に注目したいのは、元気な企業の多くが最終製品ではなく中間製品を作っているということです。これはイノベーション論で有名なClayton Christensen氏がいう”law of conservation of attractive profits”そのものではないかと思います。

Christensen氏が言うには、最終製品がコモディティー化すると、最終製品を組み立てる企業の利益は減ります。しかしそれに対して中間製品や工業機械を作っている企業の利益は増えるというのです。そうやってattractive profitsは全体としては保存されると言っています。

パソコンを例に話します。

1980年代はNECのPC-9800シリーズのように、最終製品が儲かりました。しかし1990年代に入り、DOS/VパソコンやWindows 95が日本に入ってくると様相は一変します。NECは数あるパソコンメーカーの一つに成り下がってしまい、差別化が出来なくなってしまいました。価格競争に巻き込まれ、パソコンは赤字もしくはほとんど儲からない事業になってしまいました。富士通とかCompaqなどは今までほとんど入り込めなかった日本の市場でシェアを取れるようになり、売上げは増えましたが、これらの企業にとってもパソコンが儲からないというのは同じでした。

確かにNECを含めたパソコンメーカーは儲からなくなりました。しかしその一方でWindowsを作っているMicrosoftとCPUを作っているIntelは利益を大幅に伸ばします。Attractive profitsが保存されるというのは、このように最終製品のメーカーが儲からなくなった場合には、バリューチェーンの中のどこか別の箇所をになっている企業(この場合はパーツを作っているメーカー)が儲かるようになることです。

日本メーカーお得意の「(過剰)品質」は最終製品に適応できなくなった

話を日本の経済に戻します。

日本の社会全体の大きな特徴は、世界基準で言えば過剰とも言われる高品質です。電車の正確な運行にしても、デパートでの製品の包装その他の接客にしても、そして工業製品の精度にしても、海外では見られない高品質です。当然のこととしてそれにはコストに跳ね返っています。

日本の人件費が安く、円も安かった時代は過剰品質と安さを両立させることは可能でした。日本の製品は「安くてかつ過剰品質」でしたので、バカ売れしたのは当然のことです。それが現代では人件費が欧米先進国並みになり、円も高くなってきました。アジアの途上国が工業化したこともあり、「安い」のハードルも高くなりました。「安くてかつ過剰品質」はもう実現不可能になり、「高いけれども過剰品質」な製品をどうやって売っていくべきかという大きな課題にぶつかりました。

誤解している人が多いので、繰り返します。日本の経済が失速している原因は、何か政策的なミスによって衰えてしまったのではありません。先進国の仲間入りをし、人件費と通貨が高くなり、かつ高齢化も抱えたことにより、いままでの「安くてかつ過剰品質」路線が継続できなくなってしまったからなのです。路線変更を阻む政策を継承してしまったという側面はあるかもしれません。しかしどのような路線変更が必要だったのかという問題の本質的な部分を理解している人は、果たしてどれだけいるでしょうか。

今回紹介しているエコノミストの記事では、元気な企業は最終製品を作っているメーカーではなく、工業機械等の中間製品を作っている会社だとしています。これから類推すると、日本に必要な路線変更というのはソニーやシャープ等の家電メーカー、トヨタ等の自動車メーカー、そして日本航空などを見捨て、代わりに一般消費者が聞いたことないような中間製品メーカーを育てることではないかと思われます。日本の経済政策を論じている人の中で、このレベルで考えている人はどれだけいるでしょうか。

「過剰品質」が求められている市場はどこにあるか

「過剰品質」で勝負できるのは、産業構造上Attractive profitsが集積しているところだけです。そこ以外は「過剰品質」に伴う高コストを吸収できないからです。

世界中の企業は今中国市場に注目しています。中国は市場としてはもちろん魅力的ですが、同時に工業化も著しいため、中国市場を開拓する際には中国メーカーも競争相手です。中国人の平均所得はまだ低いので、当然ながら主戦場は低価格市場、つまり最終製品がコモディティー化している市場です。

Christensen氏の理論に従うと、最終製品がコモディティー化している場合はAttractive profitsはその部品を供給しているメーカー、あるいは工業機械を作っているメーカーになります。どんなコモディティー製品でも、attractive profitsがなくなってしまっているということはなく、どこか別のところにシフトしているだけです。

最終製品がコモディティー化している場合、価格競争が激しくなります。性能を保ちつつ低価格を実現するためには、例えば生産ラインを自動化することが必要です。あるいはパーツを自前でカスタマイズせずに、汎用性の高い出来合いのパーツをなるべく共通して使用することが必要になります。こうなると工業機械にしても中間製品のパーツにしても、品質の良いものが要求されます。性能の悪い工業機械だと安定稼働してくれないために、思うように製造ラインが動いてくれなかったり、あるいは歩留まりが悪くなったりするでしょう。また品質の悪いパーツだと、様々な製品に共通して使うことができません。このように最終製品のコモディティー化は、高い品質の中間製品を必要とすることが多いのです。

そう考えると日本が得意とする「高品質」を武器に中国市場等の途上国の市場を攻略できるのは、最終製品ではなく中間製品だと言うことできます。つまりエコノミスト誌が言っていること:中間製品メーカーが元気だというのは、イノベーション理論からも裏付けられている必然的なことなのです。

いい言葉です:『イノベーションというのは「未来にある普通のものを作ること」』

上杉周作さんがTwitter上に以下の言葉を書き込んでいて、あっちこっちでretweetされていました。

Innovation s

どこに書いてあったか覚えていないのですが、Steve Jobs氏とかはあたかも未来を見て来たかのようにイノベーションを語るそうなので、なるほどねって思いました。

イノベーションとはなにか?私は主に Clayton Christensen の著書を読んだり、あるいはApple社の遍歴を見ながら、以下のことではないかと思っています。

  • イノベーションは、人々の生活を豊かにするものです。豊かにしないものはイノベーションにはなりません。また革新的でなくても、生活を大きく改善できるものであれば、それはイノベーションです。
  • 多くの人が昔から思いついていることであっても構いません。また試作機を誰かが作ったものであっても良いのです。この段階ではまだイノベーションは起こっていません。イノベーションが起こるのは、製品が市場に出て、多くの人に受け入れられたときがスタートです。(Macの原型、PARCのAltoのことです。そしてJobs氏が言っていた”Real artists ship!”の言葉のことです。)
  • イノベーションが起こるのは、多くの人がその製品を使い始めたときです。その製品が人々の生活を良い方向に変えていったときです。どんなに革新的な技術であっても、人の生活を変えなければイノベーションにはなりません。

上杉のTweetの「未来にある普通のもの」というのはそういう意味です。未来の普通の人が普通にその製品を使っている。そうでないものはイノベーションではないのです。使われている技術が新しいかどうかは、基本的には無関係です。

私が作っている「バイオの買物.com」もそういうイノベーションを目指しています。新しいかどうかが問題ではありません。大切なのは、生物学の研究者にとっては新しいサービスであること、そして便利だと思って使ってくれることです。さらに、今までは製品比較をあまりせずに試薬を選んでいたのが、バイオの買物.comがあるからこそ多くの研究者がじっくり選ぶようになってくれれば、その時点でイノベーションが始まると私は思っています。

蛇足ですが最近気になっているので、ロボットを例にとります。

  • お掃除ロボットのRoombaはイノベーションだと思います。大腸菌程度のセンサーと頭脳しかありませんが、それでも見事に床をきれいに掃除してくれます。床掃除を毎日することが苦でなくなります。
  • 逆に日本(だけ?)で開発され、マスコミに取り上げられる二足歩行ロボットはイノベーションではありません。かなり複雑で高度な技術が使われていると思いますが、これはまだ遊びの段階です。

Wikipediaの”Innovation”の項も興味深いです。

In business, innovation can be easily distinguished from invention. Invention is the conversion of cash into ideas. Innovation is the conversion of ideas into cash. This is best described by comparing Thomas Edison with Nikola Tesla. Thomas Edison was an innovator because he made money from his ideas. Nikola Tesla was an inventor. Tesla spent money to create his inventions but was unable to monetize them. Innovators produce, market and profit from their innovations. Inventors may or may not profit from their work.

残念ながら日本語Wikipediaの「イノベーション」を見ますと、

これまでイノベーションは、よく「技術革新」や「経営革新」、あるいは単に「革新」、「刷新」などと言い換えられる。これは1958年の『経済白書』において、イノベーションが技術革新と訳されたことに由来するといわれている。当時の経済発展の要因は技術そのものであったため、イノベーションは「技術革新」と訳されたのかもしれない。

日本では英語版Wikipediaに書かれていたような”Invention”と”Innovation”の区別はあまりないのかもしれません。だとするならば、これも日本の製造業の調子がいまいち上がらない理由の一つと言えるでしょう。

技術的なことで戦略を決定してはいけないという話

Horace Dediu氏がまたイノベーションと戦略について興味深い議論をしています。

“What Google can learn from John Sculley: How technology companies fail by placing their strategy burden on technology decisions”

私が見る限り、論点は以下の通り;

google-rainbow-apple.png

  1. Adobe FlashはH.264などのビデオコーデェックに比べて垂直統合されているため、コンポーネント技術を最適化しなければならないスマートフォンでは使い難くなっています。またFlashはそもそもがビデオ再生だけを考えると機能があり過ぎて、ギリギリでやっていかなければならない今のモバイルには向きません。
  2. Apple社はJohn Sculley氏がCEOだったとき、技術の優劣に基づいて、Intel社のCISC型PentiumよりもMotorola社のRISC型のPowerPCを採用しました。しかしその判断は誤りでした。そもそもCISC型とRISC型のどっちが優れているかを判断の根拠のするのが間違いでした。そうではなく、どの会社がより長い期間、CPU技術を改良し続けるのかで判断するべきでした。
  3. GoogleはWebMというビデオコーデックを開発し、自社のChromeブラウザにどの規格を採用するかを議論する等、”H.264 vs WebM”や”HTML5 vs. Flash”に労力を費やしています。しかしそういう技術的な問題が大切なのではなく、そもそもスマートフォンでブラウザが重要であり続けるかどうかが重要です。Steve Jobs氏も繰り返していますように、iPhoneユーザはPCユーザに比べるとブラウザで検索することが少なく、長い時間をアプリの中で使う傾向が強くなっています。ですからChromeがどのような規格を採用するかはあまり重要ではないということです。

社内にどっぷり浸かると技術的判断をしがち

これは私が自分の周りを見てずっと思ってきたことです。社内にどっぷり浸かって、技術についての理解が深まれば深まるほど、技術を中心に戦略的な判断をしたり、マーケティングのポジションを考えたりするようになってしまうことがほとんどです。特許の話が絡んでくるとなおさらです。

製薬企業でゲノム研究していた頃は、細胞の分子メカニズムや薬の作用メカニズムだとかにばかり目が行ってしまい、そもそもこの疾患を薬で直そうとするべきなのかであるとか、薬以外の他の療法との関係はどうなのかを十分に知ろうとはしませんでした。ゲノムに注目するべきなのかどうかという議論は言うに及ばずです。

またよくやってしまうのは、自社技術の強みを活かそうという考え方。これを判断の中心においたら、まず間違いなく失敗するでしょう。

マーケティングをやっていたときも常々感じていました。私がクロンテックにいた頃のDNAアレイに対する不思議な情熱はこれです。現時点での技術ではなく、必要なビジネスリソースと長期的な研究開発力の視点が欠けていたと思っています(クロンテック以外のほとんどのDNAアレイメーカーもそうでしたが)。技術に疎い経営幹部ですら、いつの間にか技術中心で戦略を判断することに慣れてしまうのです。

でもそうやっていると、次にやってくる技術のうねりが見えなくなってしまいます。次のうねりは今見ている技術ではなく、違うところから起こってきますので。

「技術(特に現時点の)を中心に戦略を判断してはいけない」

こう肝に銘じておけば、ずいぶんと幅広い視野で物事が見られるようになると思います。

参考:Steve Jobs on OpenDOC

イノベーション理論から見るIntelのビジネルモデルの問題

Microsoft Windows 8がARMをサポートするというニュースがありました。

Clayton Christensen氏のイノベーションに関する一連の理論に照らし合わせて、これが一体どういう意味を持つのかを、Horace Dediu氏が解説していました。

“Who killed the Intel microprocessor?”

以下その中の議論を元に、自分の意見をいろいろ述べたいと思います。

ARMとIntelの違いは何か

ARMはCPUのライセンスを提供し、NokiaとかAppleがBluetoothや音楽デコーディングの回路をCPUと同じ半導体上にデザインし、SOC (System on a chip)と言われるものを設計します。何を組み込むかは最終的な製品に合わせて、Appleなどが決定します。そしてSOCのデザインを元に、Samsungなどがこの半導体を製造します。

すなわちARMのライセンスは、最終製品に最適化された、統合された半導体のデザインと製造を可能にします。

それに対してIntelはデザインから製造までをすべて自社で行い、最終製品を販売します。どのような付加的な回路を組み込むかを選択することはできません。Bluetoothや音楽デコーディング用の回路を組み込むか否かはIntelが決め、変えることができません。

どうして今、Intelのビジネルモデルが失速しているのか

IntelのようにCPUに関わるすべてを自社で行うことは大きなメリットがあります。最高に高性能なCPUが作れるというのがそれです。製造工程を含め、CPUに関わるすべてのコンポーネントを最適化できます。例えばトランジスタ数が増やせるような製造工程の改善が行われれば、コア数を増やしたりキャッシュを増やしたりして性能の向上に役立てることができます。

しかしもはやCPUの性能だけが問題ではなくなっています。逆にCPUの性能はそこそこでも、デバイス全体の消費電力が低いことだとか、サイズが小さいことだとか、カスタムの回路を自由に組み合わせられるということの方が重要になってきています。

特にiPadやiPhoneに代表されるデバイスでは、サイズと電池の寿命が一番重要であり、まだまだ十分なレベルまで達していない、未解決の課題として残されています。このような状況では、それぞれのコンポーネントを互いに最適化させ、統合し、最後の一滴まで性能を搾りとることが優先されます。ARMのように、CPUを含めて統合が可能なビジネスモデルが好まれるのはこのためです。

垂直統合型のApple社が成功しているのは、自らIT市場にイノベーションをもたらしたから

Apple社の垂直統合モデルが成功するのか、Wintel連合の水平分業モデルが成功するのかという議論があります。多くの評論家は最終的には水平分業モデルが勝つという意見を持っているみたいですが、この人たちの理屈は決まってApple社の成功を説明できていません。Apple社の成功の理由を理解できずに、それでも水平分業が勝つと言い切っているのは、いつ聞いても不思議です。

Christensen氏の理論を理解するとApple社が成功理由は簡単です。

Apple社は既存の技術ではギリギリ作れるか作れないかという製品を世の中に提案し、それを消費者に新しい夢を見せ、消費者に渇望させ、垂直統合によるギリギリの最適化でそれを実現しています。常にレベルの高いものを消費者に提案することによって、垂直統合が栄えやすい土壌を作り上げています。

iPhoneは全く新しいコンセプトでした。同時にiPhoneはソフトウェアもさることながら、ハード面では電池消耗とCPU性能はギリギリのバランスでした。電池がギリギリ一日持つようにCPU性能は制限されていましたし、当初はマルチタスク等が出来なかったのは単純にこのためでしょう。

iPadは業界筋の大方の予想の半分の価格で市場に出ました。あれが10万円する製品だったらあれだけ話題にならなかったでしょう。大部分のネットブックを下回る4万円台で発売されたことは大きな意味がありました。iPadではARMデザインのA4 CPUにより性能の部分と電池の持ちはクリアできていましたが、価格がギリギリです。一年経って現れた競合ですら、価格では全く勝てていません。この価格を実現するために、不必要な部分を削る様々な最適化が行われたことでしょう。

遡ってApple IIのディスクドライブの話に戻ります。これもApple社の垂直統合が大成功した例です。このときSteve Wozniakが天才的なデザインでディスクコントローラを作り上げたおかげで、フロッピーディスクの容量を拡大しつつ、安いコストで製造することに成功しました。フロッピーディスクの容量がまだ90 kilobyteだった時代に、コントローラの改善で113 kilobyteに引き上げたのです。しかも半導体の数を数分の一に減らして、コストを下げています。

こう理解すると、Apple社の垂直統合が経ち行かなくなり、水平分業の方が勝つのはイノベーションが行われなくなったときだと言えます。コンポーネントによってもたらされる性能の向上に比べ、消費者の渇望を高めることが出来なくなったときです。こうなると垂直統合による最適化をしなくても、コンポーネントを普通に組み合わせるだけで顧客の用途を満たすだけの性能が実現できるようになります。水平分業でも十分な製品が作れるようになるのです。

Intelとしては、デバイスのイノベーションが盛んに続くだろうここ数年間は何をしても復活することは無さそうです。Intelのビジネスモデルがもたらす価値が市場に必要とされないからです。市場での影響力が低下するのは避けられそうにありません。

それで日本でGalaxy Tabは売れているのか、売れていないのか

Asahi.comに『7インチの大画面スマートフォン「GALAXY Tab」のネット機能をiPadと比べた』という記事があり、BCNランキングなども紹介されていました。

発売直後の売れ行きは上々。「BCNランキング」の2010年11月の携帯電話ランキングでは、月末の11月26日発売ながら24位にランクイン。スマートフォンに限ると、auの「IS03」、ソフトバンクモバイルの「iPhone 4」の32GBモデル、同16GBモデル、NTTドコモの「GALAXY S」、「Xperia」、auの「IS01」に次いで、7位だった。

 週次集計では、発売日を含む11月第4週(2010年11月22日-28日)は7位、翌週の11月最終週は8位と、2週連続でトップ10入り。特に11月第4週は、「iPad」のWi-Fi + 3Gモデルの販売台数を上回るほどだった。「LYNX 3D」などの新製品がランキング上位に並ぶ中、12月第1週(12月6日-12月12日)は11位にとどまったが、12月第2週(12月13日-12月19日)は26位にダウンした。

とは言うものの、何を言っているのかがよくわかりませんので読み解いてみました。
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ランキングの推移

以下、携帯電話ランキングのみを抽出(スマートフォンの中での順位ではなく、携帯電話全体の中での順位)。斜体は私の私見です。

  1. 発売月(2010年11月)に24位にランクイン。ただし11月26日発売なので、5日間分の売上げのみがカウントされています。
  2. 週ごとに見る発売された週(11/22-11/28)は7位、次週(11/29-12/5)は8位、12/6-12/12は11位、12/13-12/19は26位。
  3. 最初の発売された週はiPad WiFi +3Gの販売台数を上回りました。ただiPad全体と比べると、数分の一と推測されます。(下記参照)
  4. 新しいバージョンのiPadは2011年2-3月ごろに発売されるウワサがかなり具体性を帯びてきています。新iPadを予想した上での買い控えがあると思われます。(私自身は完全にこれです)
  5. 一方でGalaxy Tabについても12/22から「Happy Tabキャンペーン」が行われるらしく、1万円以上割り引くそうです。最も熱心なユーザにとりあえず売れたところで、ちょっと間をおいてから値引きをするというのはどうかと思いますが、これも買い控えはあるでしょう。

iPadはBCNランキングでは携帯電話ランキングではなくノートPCランキングに掲載されています。ノートPCランキングでアップル限定で絞り込むとiPadの機種ごとのランキングが分かりますが、iPad WiFiの方がiPad WiFi + 3Gよりもずいぶんと売れているみたいですので、「iPad WiFi +3Gの販売台数を上回る」と言ってもiPad全体の売上げの数分の一程度と推測されます。

どうやらスタートダッシュこそはiPad全体の売上げの数分の一でしたが、そこから急速に売上げは低下したようです。

DoCoMoのネットワークにつながるにもかかわらず、Galaxy TabはiPadと比べて大して売れていないみたいです。iPadを脅かす存在では全くなく、Steve Jobsが言っていた”Dead on arrival”は本当かもしれません。

まあこんなものではないかと思います。