チラシと郵便物によるマーケティング(時代遅れ?)

何か新しい情報を顧客に伝えたいとき、バイオ研究用製品のマーケティングでは、未だにチラシと郵便物が主流です。

雑誌広告やインターネット広告というやり方もありますし、例えばNatureのメールアドレスなどを利用した電子メールによる告知というやり方も行われていますが、主流という訳ではありません。これらはどちらかというと時と場合によって使われるもので、主流は未だにチラシと郵送物です。

メーカーとして体感する効果が違うのです。チラシとか郵便物の場合は、それを見たと言ってくれる顧客からの問い合わせが入ってきます。今まで認知度が低い製品であれば、売り上げも確実に伸びます。それに対して、雑誌広告を見たという顧客が問い合わせてきた記憶というのはほとんどありません。インターネット広告に至っては皆無です。ですからチラシと郵送物を使うのです。

チラシを配布するときのコストというのは、単独でそれだけを配布するのであれば40-50万円あたりでしょうか。だいたい2万部から3万部を刷りますが、カラーで印刷であれば30万円程度、そして郵送代も馬鹿にならないのでだいたい上述の金額になります。印刷物の場合は印刷会社と校正を重ねないといけないので、だいたい1月のリードタイムが必要になります。結構馬鹿にならない金額ですが、雑誌広告も1月で掲載料が20-30万円とられます。効果を考えるとチラシの方がずいぶんとよく見えます。

ただチラシを誰が配布するかという問題があります。ある程度確立したメーカーであれば、代理店との付き合いがある程度固まっているので、代理店にチラシを配ればだいたい配ってくれます(とメーカーは信じています)。代理店は日本中の研究室に網を張っているので、だいたいの研究者にチラシが配られてくれているかなとメーカーは期待しています。現実はもう少しややこしくて、代理店だって特定のメーカーに肩を入れることがありますので、場合によっては自分が作ったチラシは積極的に配ってくれないかもしれません。

郵便物はダイレクトに顧客に届きます。大きいメーカーはだいたい季刊誌というのがあって、これは代理店から配布するかダイレクトに郵送します。この季刊誌は通常フルカラーで、やはり2万から3万部を刷ります。印刷のお金とこれを郵送するお金をあわせると、一回つくって配布するのに200万円から300万円はかかっていると思います。でも結構学術的なことも書いてあって、顧客が喜ぶ内容なので、メーカー側は効果は大きいと信じています。ブランドイメージの維持にも重要と位置づけられています。ちなみに製品カタログもだいたい3万部を用意していることが多いと思いますが、フルカラーの会社が多いこと、さらに週百ページになることがあるので、これは1回出すのに2000-3000万円かかっています。

もう一つ参考として、分子生物学会などのランチョンセミナー。あれは会場のむちゃくちゃ高い弁当を買わされるということもあって、全体で200万円弱になると思います。自分で会場を借りてセミナーをするとずいぶんとこれよりは安くなります。最近はやってくれるメーカーが少なくなってきているようで、学会企画側が苦労しているとか。

さて本題に戻ります。

チラシと季刊誌にかなり多くのお金が使われていることを紹介しました。でも、そんなにお金をかけた時代遅れのことをしないと顧客である研究者に情報が伝わらないのでしょうか。しかも先ほどもお話ししたように、チラシというのだ代理店経由での配布であり、代理店の思惑が入ってしまいます。もっとストレートなやり方は無いのでしょうか。

他の業界であれば、新聞の折り込み広告、リクルートのようなところが作っている雑誌、価格.com。。。

正直、メーカーでマーケティングを担当していたものとして言えば、いい媒体が無いんですよね。誰か作ってほしいーーー、って思って、いま、自分でそういうのを作ろうとしています。

Innovator’s Dilemmaとバイオの製品

Charlie Woodのブログに、iPhoneがなぜ ‘The Innovator’s Dilemma’に陥らないかを分析しています。

‘The Innovator’s Dilemma’(イノベーションのジレンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき)というのはClayton Christensenが著した本で、イノベーションを続ける優良企業が、それにも関わらずどうして新興企業に市場を乗っ取られ、しまいには独占されるかを分析しています。僕もこの著者の本を2冊ほど読んでいますが、非常に論理的な議論をしつつ、直感とは全く異なる結論を証明していっているところに感動しました。またこの本は単なる分析に終わらず、将来を予測するためのフレームワークも提供しているところも特徴です。

簡単にChristensenの数冊の本の主張を紹介しますと

  • イノベーションを繰り返していくと、’Good Enough’(十分な性能)に到達します。’Good Enough’に到達すると、それ以上いくら性能を上げても、顧客にとっては役に立たなくなってきます。これがコモディティーとよく言われる状態です。
  • ‘Good Enough’の状態に達すると、安値販売で勢力を伸ばそうとする企業が参入してきます。
  • 安値販売する企業が参入しても、優良企業は安売り合戦には参加しないことがあります。そうではなくてイノベーションを繰り返し、よりハイエンドの顧客をターゲットに絞って製品開発を進めていきます。安売り市場は捨てて、ハイエンドに向かっていきます。
  • ただし優良企業が安売り合戦への参入を見送るかはケースバイケースで、その産業構造に依存します。安売り合戦をすれば既存の企業は必ず収益を悪化させますので、なるべくならハイエンドに逃れます。ただ産業構造的に直接対決が避けられない場合は全面対決をし、収益は悪化させますが最終的に生き残ることが出来ます。
  • 安値販売する企業は次第に力をつけて、次第にハイエンド製品を製造する能力を身につけます。そうすると既存の優良企業はさらにイノベーションをエスカレートさせ、ますますハイエンドに絞り込んでいきます。でもこれは必ず限界があるので、最後には安値販売する企業に市場を乗っ取られてしまいます。この安値販売する企業の参入を可能にするイノベーション、これをChristensenは’Distruptive Innovation’(破壊的イノベーション)と呼んでいます。
  • ハイエンドに逃れるのでもなく、そして安売り競争に入るのでもなく、高収益を持続させていく方法はあります。それは’non-consumer’(いままで対象にならなかった顧客)を顧客にするようなイノベーションをすることです。

iPhoneに関してのCharlie Woodの分析では、Appleがデザインを重視していているために、Innovator’s Dilemmaが当てはまらないとしています。つまり、’Good Enough’なデザインというものは無いとしています。

それに対して数多くのコメントが寄せられています。例えば、単純に今のデザインの水準が’Good Enough’とはほど遠いのではないかというもの。つまり今までの製品のデザインは、特に使いやすさという意味ではひどかったと。ただ、消費者はそれにまだ気づいていなかったという論点です。

また別のコメントの中で、AppleがDisruptive Innovationを仕掛けていると論じているものもあります。

iPhoneについてはCharlie Woodのブログに任せるとして、僕はバイオの話をします。

バイオで’Good Enough’状態に達している研究用製品

山ほどあります。

制限酵素、PCR酵素、バッファー、フェノールなどん単純試薬、チューブ、プレート、培養フラスコなんていうのはわりと当たり前に思いつきます。

その他、安売り競争が起きてしまっているものも’Good Enough’なコモディティーになっていると考えていいでしょう。リアルタイムPCRの試薬と機器、受託合成DNA、DNAシークエンス。siRNAなんかもこれに近くなっているように思います。

面白いことにその技術が新しいかどうか、あるいはその技術が革新的だったかは全く関係ありません。’Good Enough’なものが、他社でもどれだけ簡単に作れるかがコモディティーになるかならないかを決定しています。

バイオの業界で面白いのは、安売り企業が参入してきても、既存企業が割と応戦していることだと思います。ハイエンドに逃れようというメーカーはほとんどないと思います。例えばリアルタイムPCRでは、ABIはちゃんとローエンド機器を売り出しました。PCR酵素に関して言えば、Invitrogenも特許に引っかからない激安Taqを発売しています。そしてほとんどのメーカーはがんばって割引をしてくれますし、安売りキャンペーンを盛んにやってくれます。

唯一ハイエンドに逃れる気配を見せるのは、バイオをサイドビジネス的に考えてしまっている複合的な巨大企業ではないでしょうか。ちなみにこのような会社の社内事情は、重力が反対向きに働くような異次元空間に入ったかのようで、本当に面白いです。

‘Non-consumer’にアプローチしてDilemmaを逃れる方法

パソコンやスマートフォンを必要としていなかった、もしくは使いたかったけどハードルを感じていた人に対して、それを使わせてしまうだけのデザイン性と使いやすさのある製品を提供する。これが一貫したAppleのやり方のように思います。これは初代のMacに始まり、iPhone, iMac, iTunes, iPod, iPhoto, iMovieなどにも引き継がれている考え方です。

バイオの世界でよく似た例がABIのStepOneだと思います。

  • オールインワン:パソコンをつなげなくてよい。LCDタッチスクリーンとUSBドライブでセットアップと解析が行える。
  • 専用ホームページとソフトウェアでセットアップをサポート。試薬の注文も可能(アメリカ)
  • 初心者が使うことを想定したシステム

このコンセプトはすごくいいと思います。他社が安売りしても、このような使いやすさで’non-consumer’を相手に出来るのであれば、心配することは無いように思います。

自分が研究しているときは、新しい機械の操作方法を覚えるのがおっくうでした。ほとんどの機械は操作がわかりにくいし、壊してしまったらまずいと思って心配だし。サンプルも無駄になっちゃうし。だから、結局は新しい機械を使わずに、今までの方法ですませてしまったりするんですよね。面倒な方法でも。

Appleと同じだことだと思います。機械とソフトウェアの使いやすく、ウェブサイトが充実、カスタマーサポートによる対応も迅速で適切というメーカーがあれば、今までそういう実験を避けていた顧客も使ってくれるようになるはずです。

それが出来ないメーカーはInnovator’s Dilemmaにはまって、安売り競争と開発競争に深く深く沈んでいくだけでしょう。

Henry Mintzbergのウェブサイト

リーダーについてのブログ記事Henry Mintzbergを取り上げたので、Googleを使ってもう少し調べてみました。僕がMintzbergと出会ったのは29歳ぐらいのときで、会社に入ってしばらくして、あれれと感じていた頃でした。“Mintzberg on Management”という本でしたが、会社に対する幻想をまだ持っていた僕は目から鱗が落ちる思いでこの本を読んだ記憶があります。

いずれにしても、Henry Mintzberg自身のウェブサイトが見つかって、この中に面白い論文がいくつかあったので、とりあえず簡単に紹介しておきます。また機会があったら、より深く論じてみたいと思っています。

  • Leadership Beyond the Bush MBA: まず、僕も始めて知ったことなんですが、あのブッシュが実はMBAを持った始めてのアメリカ大統領だということが紹介されています。しかも権威あるHarvard Business Schoolの。これは初めて知りました。Harvardは恥ずかしくて隠していたのでしょうか?この論文ではBush政権の行動パターンのいくつかが、Harvard Business Schoolでの教育にルーツをたどることが出来るとしています。a) 状況がわからなくても素早い決断をすること、b) 実践能力は軽視されていること、c) ビジネスの基本をいくつか学ぶだけで、全般的なマネージメントまでわかってしまった気になること(ビジネス的ダウンサイジングをイラク戦争に適応したことなど) などが紹介されています。
  • How Productivity Killed American Enterprise: アメリカの企業が株主を優先して短期的利益を追求した結果、製品とサービスおよび顧客を犠牲にしたしまったことを論じています。具体的に何が行われ、何が犠牲になってしまったかを論じています。面白い論点がいくつもあります。a) 短期的な利益を最大化するには、すべての人をクビにして、在庫にあるものだけ売れば良い。極端に聞こえるけど、実際にはこれに近いことが行われた。b) 「株主利益」を最大化するために、アナリストを騙すような活動をすることが重要。例えばアナリスト用プレゼンへの注力、ブランドの統廃合、顧客から最大限の利益を吸取ること、それと合併を繰り返すこと。そしてa)に非常に近いのですが、ダウンサイジングをすること。

最もリーダーになってはならない人がリーダーになってしまう仕組み

僕らは人生の中で、どのようなリーダーを見て育っているのでしょうか。

小学生や中学生のときにリーダーはスポーツが得意な人が多く、球技大会でクラスのチームをまとめるのもこのような人たちです。学級委員長も、勉強な得意な人よりはスポーツが得意な人がやることが多いと思います。子供の頃からリーダーシップを学ぶのはこの人たちです。僕なんかはスポーツもそれほど得意ではなく小学校の頃は勉強もできなかったので、リーダーになることは夢のまた夢だったのですが、それでもこういうリーダーに憧れ、いつかは自分もそうなってやろうと思っていました。

中学校と高校の頃は、プロ野球を良く見ました。埼玉県に接している東京都練馬区に中学校があり、当時は西武ライオンズの黄金時代だったので、西武が巨人などセ・リーグの人気球団を次から次へと粉砕していくのが痛快でした。プロ野球を見ていると、実に多くのリーダーの姿を知ることができます。管理野球を徹底した西武ライオンズの広岡監督とそれを引き継いだ森監督。全然うまくいかなかった巨人監督時代の王監督。野茂とイチローを初め、数多くの大リーガーを輩出した近鉄とオリックスに在籍した仰木監督。ID野球で弱小ヤクルトを日本一に導き、さらに楽天イーグルズでそれを今にも再現しようとしている野村監督。徹底的に選手とファンを誉めて持ち上げて、弱小でしかも人気のなかったチームを、全く正反対の強力で人気のあるチームにしたロッテマリーンズのバレンタイン監督と日本ハムファイターズのヒルマン監督。

このように、僕らは子供や学生時代に、スポーツをやることやスポーツを見ることを通してリーダーシップを学んでいるのです。でも面白いことに、社会人になると今度は勉強が出来るか出来ないかでリーダーが決まっていくことが多くなります。

もちろんすべてではないのですが、勉強ができて、いい大学に入ったり、あるいはMBAをとったりする人というのは、どちらかというと小学校や中学校時代に球技大会でクラスをまとめていたような人ではありません。どちらかというとスポーツはそこそこにして、勉強を中心にやっていた人たちです。そしてプロ野球のテレビ放送を熱心に見ていたり、授業中に日本シリーズ中継をラジオで聞いていたというよりは、その間に問題集を解いていたりした人たちです。

別に何がいいとか何が悪いというつもりは無いのですが、子供時代に多くのリーダー経験を持ったり、あるいは多くのリーダーを観察したりした人というのは、大人になって仕事でリーダーとなる人と逆になっていませんか?リーダーとしてのトレーニングを若いうちに受けた人ではなく、全くトレーニングされていない人が優先的にリーダーになってしまっていませんか?

それが僕が感じている疑問です。

その傾向が最も顕著に現れるのはMBAにおいてです。MBAというのは、場合によっては勉強しただけで人に「リーダー資格」を与えてしまう結果になります。若い頃に全くリーダーについて学ばず、自分の狭い世界に閉じこもって勉強ばかりしていたような人であっても、一生懸命勉強すればMBA資格は取れてしまいます。MBAというのは、リーダーとしての能力が全くない人間であっても、急に上級管理職にしてしまうことがある、極めて危ない学位ではないでしょうか?

例えば”MBA リーダー”でグーグル検索をすると、MBAホルダーであるだけでビジネスリーダーの仲間入りだと言わんばかりのヒットが大部分です。でも繰り返しますが、MBAホルダーというのはどちらかというと学生時代にリーダーの訓練をしてこなかった人たちが多いのではないでしょうか?僕はここに大きな矛盾を感じます。

MBAの問題点を記した著名な経営学者、Henry Mintzbergの書物「MBAが会社を滅ぼす」というのがあります。Nikkei BPに紹介記事がありますし、英文ですけど、Amazonではしっかりしたレビューがあります。僕はこの本をちゃんと読んでいませんが、こんなところがポイントのようです;

  • Conventional MBA programs train the wrong people in the wrong ways with the wrong consequences: 一般的なMBAプログラムは、間違った人に間違った方法でものを教え、間違った結果を導いています Amazon
  • According to Mintzberg, management education is really business education, offering specialized training in the functions of business rather than general education in the practice of managing: Mintzbergによると、マネージメント教育として行っているものは本当はビジネス教育でしかない。マネージメントを実践するための全般的な教育ではなく、ビジネスの個別の機能のための専門的なトレーニングを提供しているにすぎない。Business Book Review
  • Whatever you do, don’t confuse an MBA with a license to manage. どんなことがあっても、MBAを持っているということと、マネージャーとしての資格があるということを混同してはならない。MIT World

僕自身は協和発酵工業で働いている30歳ちょっとすぎのときに、非常に良いリーダー教育を受けたと思っています。その教育とは、仕事とは全く関係のないレクリエーション行事の幹事をやらされたことです。30歳は会社ではまだひよこに近い訳ですから、仕事の上ではマネージャー的なことはなかなかやらしてもらえません。かといってレクリエーション行事は遊びかというとそういう訳ではなく、200人の社員をエンターテインする責任がある訳ですから、考えようによっては仕事なんかよりもよほどプレッシャーは強いです。そのプレッシャーの中で10数人をまとめて、一つの行事を成功させるというのは非常に良い経験でした。

僕自身はその中で、ビジョンを明確に伝えることの大切さと、その明確のビジョンの上に各人が自発的にそれを膨らましていくように促すことの大切さ、そして緩い管理の中で知らず知らずにそれが自分の思っているよりも数倍のものに仕上がっていくプロセスを知ることが出来ました。

最近の日本企業では、このようなレクリエーション行事を減らしていく方向にあると聞いています。協和発酵ではまた、労働組合役員を若い人に経験させて、やはり若いうちにリーダーを経験させる仕組みもありましたが、労働組合もやはり最近の日本企業では重視されなくなってきています。その一方で高齢少子化の影響で、部下のある管理職になるのはかなり歳になってからになってしまっています。つまり、リーダー教育を受ける機会が日本社会でますます減ってしまっているように思います。

その一方で日本人の間のMBA信奉は相変わらず強い訳ですから、日本はますますこの「最もリーダーになってはならない人がリーダーになってしまう仕組み」が強化されていくのではと心配になってしまう訳です。

ちなみに、僕がこの考えを強く持つようになったのは、一応MBAは持っていたものの、それ以外の人間的資質においては全くリーダーに不向きだったという人を上司に持った経験からです。小学生の間にリーダーになれなかったどころの騒ぎではなく、嫌みなやつということで、きっとぼこぼこにされていたのではないかという人でした。でもMBAだから、上級管理職になってしまっていたんですよね。まさにMintzbergの本の題名「MBAが会社を滅ぼす」のような人でした。

イノベーションを育む方法:PixarのBrad Birdとのインタビュー

PixarのBrad Birdがイノベーションを育む方法について、McKinseyの報告をまとめた記事がありましたので紹介します。

まず、Brad BirdがPixarに入社した経緯について;

Pixarが3回の成功(Toy Story, A Bug’s Life, Toy Story 2)を収めたために、かえってイノベーションが困難になってしまうことをSteve Jobsは心配していました。Steve JobsがBrad Birdを採用したのはそれが理由でした。JobsがBrad Birdに言ったのは「僕らが心配しているのは自己満足による安心感だ。すべてのやり方はもうわかったと思ってしまうこと。君にはPixarをかき回してほしいのだ。」

そしてMcKinseyの報告に書かれた10個のキーポイント

その1:厄介者を探せ

Brad Bird : 僕は言ったんだ。「厄介者を探しだせ。僕はイライラしたアーティストが欲しいんだ。他の人とは違いやり方をしていて、全体から相手にされていない人だ。会社を辞めようと思っているやつだ」。会社に不満を持っている多くの人は、いままでと違うやり方を知っていたけど、それを試す機会がないからイライラしていたんだ。試す機会がなかったのはそれまでの方法が非常にうまくいっていたからなんだけど。そこで厄介者が自説の正しさを証明する機会を与え、その結果、数多くのもののやり方を変えたんだ。

その2:完璧はイノベーションの敵だ

Brad Bird:彼らの中の完璧主義を払拭しなければならなかった。画面上に何かを表現するためには、安っぽくて汚いやり方だってやりかねないことを僕はやりかねないと知らしめて、彼らを脅したんだ。例えば「水をコンピュータシミュレーションしなくたっていいんだ。プールの水しぶきをフィルムに収めて、その中に水を合成するだけでいいんだ」って言ってね。実際にはプールの水しぶきを撮影はしなかってけど、このような考え方を浸透させて、すべての面から完璧な方法をやらなくてもいいんだということを理解させた。すべての場面は同じじゃないんだ。いくつかの場面は完璧でなければならない。かなり完成度の高い場面も必要だ。でも、全体の雰囲気を壊さなければOKという場面もあるんだ。

その3:熱い人を捜せ

Brad Bird: 物事に深く関わろうとする人がよりイノベーションを起こす。物事に深く関わる人は物静かであったり、うるさかったり、あるいはその中間だったりするけど、でもみんなが共通して持っているのは、飽くなき探究心だ。「問題の核心を知りたい。僕には何かやれることがある」。赤外線カメラで温度を視覚化できたら、彼らの頭のてっぺんから熱が上がっているのが見えるよ。

その4:イノベーションは真空状態では起きない

Brad Bird: 僕はすべての人を一つの部屋に集めたんだ。前任者とはこれが大きく違った。彼は仕事内容を自室でレビューし、メモを書いて、担当者に送っていた。僕は言ったんだ。「ほら、このチームはみんな若い。個々のアニメーターとしてはそれぞれ異なる強みと弱みを持っている。でも強みをお互いにつなげることができれば、全体として世界最強のアニメーターになれる。だからみんなには発言をして、考えていることを全部言ってほしいんだ。あなたの描いているシーンを全員で見るんだ。みんながお互いに恥をさらし合い、そして勇気づけられるようにするんだ。」

その5:士気が高ければ創造性は安く手に入る

Brad Bird: 僕の経験上、映画の制作費に最も影響を与えつつ、帳簿上全く現れないものが士気なんだ。士気が低ければ、経費$1に対して、$0.25程度の価値しか得られない。でも士気が高ければ、$1に対して$3の価値が得られる。会社は士気にもっともっと気を使わなければならない。

その6:成功を保証してはならない

Brad Bird: 不可能を達成するための最初のステップは、不可能だと思っていたことが本当は実現可能であると信じ込むことだ。

安全策をとっては駄目なんだ。自分でも怖いこと、自分の能力の限界のこと、失敗するかもしれないことをやらないといけないんだ。

その7:Steve Jobsが言うには「相互交流 = イノベーション」

Brad Bird: Pixarのビルのアニメーション階に行くと、ドアヒンジが無いんだ。自分たちのオフィスのエントランスはどのように飾ってもいいんだ。ウェスタン映画のようなエントランスにしてもいいし、ハワイのようなものにしてもいい。John Lasseter は、自由な雰囲気があれば創造性が高められると考えているんだ。

ビル全体もそうだ。ビルはSteve Jobsが事実上デザインした。真ん中に大きなアトリウムを作って、一見するとこれは場所の無駄のように見える。それでJobsがどうしてこれを作ったかなんだけど、みんな個別のとこで仕事をするよね。ソフトウェアを開発している人はある場所。アニメーターは別のところ。そしてデザインをしている人はまた別のところ。そこでJobsはメールボックス、会議室、カフェテリア、そして狡猾にもトイレまでもすべて真ん中に置いたんだ。そうすると、自然といろいろな人に会ってしまう。Jobsの考えでは、人が人とすれ違いアイコンタクトをするとき、何かが起こる。だから会社の全員と必ずすれ違う仕組みにしたんだ。

その8:異なる分野の学習の奨励

Brad Bird: PixarにはPixar University (PU)がある。証明の仕事をしているけれどもアニメーションの作り方を勉強したいのなら、アニメーションのクラスがある。ストーリーの構成、Photoshopの使い方などはもちろん、イスラエルの格闘技 Krav Magaのクラスもある。Pixarでは自分の専門分野以外の学習を奨励していて、社員がより’完全’でもより創造的になるようにしているんだ。

その9:創造性を阻害する要因を排除しろ

Brad Bird: イノベーションを邪魔するのは、受け身でありながら攻撃的な人。グループになると自分の意見を言わないけど、裏で問題点を突っついて邪魔をする人。こういう人は毒みたいなものだ。このような人は割と簡単に見分けられるので、すぐに除いていく。

その10:お金儲けにフォーカスしてはいけない

Brad Bird: 僕がDisneyに入社したとき、まるで雨ざらしにされたキャデラックのよだった。Disneyの思考プロセスは「こんなにすごい機械があるんだ。すばらしいものを作るのに使えないか?この宇宙船があれば火星にだっていけるぞ。」というのではなく、「僕らにはWalt Disneyのことは理解できない。彼が何をやったかは理解できない。だから今あるものを壊さないようにしよう。この宇宙船をとにかく維持しよう。何か新しいことをすると、傷つけてしまうかもしれないから」になってしまっていた。

Walt Disneyが繰り返し言っていたのは「僕はお金を作るために映画を作っているのではない。映画を作るためにお金を作っているのだ」。Disneyの絶頂期とDisneyが駄目になっていたときの違いは、この言葉に凝縮されている。これはPixarにも当てはまるし、多くの他の会社にも当てはまる。直感とは違うかもしれないが、想像性がベースの会社が長い目で成功していくためには、お金儲けにフォーカスしてはいけないんだ。

Qiagen 2008年第一四半期業績

Qiagenの2008年第一四半期業績が発表されましたので、以下にまとめます。詳細なスライドもあります。

売上は62%成長($207.1 million 215億円)。ただしDigene社とeGene社の合併がありましたので、それを差し引くと10%の成長(ドル安の影響を除いて)。利益については79%の成長と報告しています。合併とドル安の影響を差し引いた後の10%の成長は、競合他社と比べてよい成績です。

成長の内訳として、既存製品の売り上げ数量増加で4%成長、価格増加で2%成長、さらに新製品により4%の売上成長を達成したと報告しています。為替の影響は9%としています。

Digene社はDNAとRNAによる診断製品を持った会社で、2006年に$178 millionの売上、$15.3 millionの利益を出し、32.5%の成長をしています。eGene社はキャピラリー電気泳動で核酸を分離・解析する技術を持った会社で、年間で$7-$9 millionの売上を期待されています。それぞれ$1,600 millionと$34 millionでQiagenが2007年に買収しました。Digene社の合併により、2008年には分子診断の売上が総売上の半分近くに達する見込みのようです。

粗利率は$152.3 millionで73%、営業利益は$58.7 millionで総売上の28%、純利益も$36.9 millionで総売上の18%で、合併後も相変わらず非常に良い利益率を維持しています。

日本国内の売上は$12.6 millionと報告されていますが、これは2007年の$10.0 millionと比べて26%の増加となっています。このうちドル安の影響がどれだけあるか、Digene社の日本国内での売上がどれだけあるかはわかりませんので、日本国内での売上がどれだけ成長したかはわかりませんが、世界での売上成長の様子を見るとかなり好調だったと予想されます。

Digene製品の影響を差し引いても、日本国内で円建てで5%程度の成長はしたのではないかと推測します。

BioRad 2008年第一四半期業績

BioRadは2008年第一四半期(1月-3月)で31%の売上増を報告しました。

2007第一四半期の$322.5 millionと比較して、2008年第一四半期は$422.2 million (424億円)で、30.9%の増加でした。ドル安の影響を差し引くと、23.9%の増加とのことです。DiaMed Holding AGの合併により$62.7 millionの売り上げ増加がありましたが、それを差し引くと既存ビジネスで11.5%の増加でした。ドル安の影響を差し引くと4.5%の増加とのことです。

ちなみにDiaMedは2007年10月に477 million Swiss Francsで手に入れた会社で血液関連の診断製品のある会社です。

ライフサイエンス部門については売上は$154.6 millionで、9.2%の増加。ドル安の影響を差し引くと2.3%の増加にとどまりました。全体的に市場は軟調だったとコメントしています。

診断部門の売上は$263.7 millionで、DiaMedの合併を差し引いても13.1%の売り上げ増加、ドル安の影響を差し引いて6.0%の増加でした。

2007年度は年間で6.9%、ドル安を差し引いて2.7%の成長をしたということが報告されているいますので、引き続きそのままの状態ということのようです。

バイオ部門は競合他社と比べて成長が弱いですね。日本での売上は個別に出していませんのであくまでも類推ですが、日本の市場の弱さを考えると、日本でのバイオ部門は3%ぐらいのマイナスでは無いでしょうか。

BioRadは売上だけはライフサイエンス部門と診断部門に分けていますが、利益についてはまとめて報告しています。2007年度の数字しかありませんが、粗利が総売上の56%、営業利益は総売上の8.1%となっています。R&Dは総売上の10.1%です。

参入障壁の幻想と、顧客が嫌がることに走る企業

散文的に長々と書いてあって読みにくいのですが、Michael Porterが昔に説いたFive Forcesを現代のハイテク業界に当てはめ、顧客が嫌がることを積極的に行ってしまっている企業の愚について紹介している文章がありましたので紹介します。

この文章(The Five Forces Circles of Hell)について、僕なりにまとめまてみました。

 

  1. AppleがMacやiPhoneで非常に好調な理由は、他のパソコンメーカーや携帯電話メーカー・ネットワークプロバイダーが問題を抱えているからです。他の企業の問題とは、これらの企業は顧客を嫌っていて、顧客の要望を嫌っていて、顧客のニーズを嫌っていて、そしてノート型パソコンや携帯電話の定義をわざと限定しているからです。
  2. これはMichael Porterの”Five Forces”を学んだMBAたちが、閉鎖的なシステムやプラットフォームを躍起になって作っているからです。つまり参入障壁をうまく築いて、維持して、そして自社製品から顧客が逃げられないように囲い込み、利益を搾り取ろうとしているのです。
  3. Porterの”Five Forces”に習って、製品は良くないのに参入障壁を巧みに利用している例として
    1.  レンタルDVDのBlockbuster社。全国に数多くのレンタル店を展開。DVD供給会社と契約を結び、DVDの一般発売より先にレンタルはできるようにしていた。ブランド力、DVD配給会社に対する強い力、強力なレンタル店網のため、参入障壁を高く維持できていた。レンタル料金だとかサービスは至って普通です。
    2. SMS (携帯電話メールの世界スタンダード)はだいたい160文字で$0.10ですが、これは一般的な携帯電話データ通信量の100倍。でも世界でみんなが使っています。
    3. ADSL vs. SDSL。一般家庭用のADSLは上りデータ通信速度が下りよりも遅くなってますが、これは技術的にはもはや必要がないと議論しています。ビジネスユーザ用のSDSLから高い料金がとれるように、わざと一般家庭用のスペックを制限している議論しています(僕は詳しくわからないのでなんともいえませんが)。
  4. Appleはこの参入障壁と利益搾取の構造にとらわれず、顧客が本当に欲しいものを提供するようにつとめています。
    1. 音楽配信はもはやコモディティーと捉え、新しい配信モデルを作り出しました。iTunes Music Storeではアルバムを丸ごと買わなくても、シングルを個別にかえるようにしました。人工的な規制であるDRMの廃止にも積極的に動きました。
    2. 無線ネットワークが牛耳っている携帯電話業界に対して、iPhoneで風穴を開けました。今はAT&Tとの契約でいろいろな規制をしていますが、必死に規制しているようにも見えないと議論しています。おそらく携帯ネットワーク業者に対して今後より圧力をAppleは加えて、業界構造を変えようとするのではないかと議論しています。
さて、僕の意見です。
紹介した文章は本当に読みにくいのですが、言っていることはすごく正しいです。自分なりにまとめると
  1. 利益を確保するためには参入障壁を高くすることが重要と勘違いしている企業が多いです。そして一番の問題は、人工的な参入障壁を築くために、製品そのものの魅力を制限してしまっていることです。マーケティングの教科書にはこの考え方が実に良く紹介されていて、大きな弊害になっています。
  2. Appleがやっているのは、その逆です。まず、圧倒的に魅力的な製品を魅力的な価格で提供します。誰もその製品に追いつけないがために、それが結果として参入障壁となります。
  3. Appleは閉鎖的と思われる箇所はいくつかあります。例えばMacOSはAppleのパソコン以外では動きませんし、iTunes Music StoreのDRM付き音楽はiPodでしか再生できません。しかしこれはイノベーションのためには必須なインテグレーションと捉えた方が性格だと思います(クレイトン・クリステンセン, “イノベーションへの解 収益ある成長に向けて” 参照)。
  4. バイオの業界では「機器では損をしても試薬で儲けられる」という考え方があります。機器は赤字で売ってもいいから、その分を試薬で儲けようという発想です。しかしこの考え方は顧客にメリットはありません。
    1. たくさん実験をすればするほど、研究者は損をします。たくさん実験をする研究者にとっては、機器が高くても試薬が安い方がメリットがあります。
    2. 試薬のゾロ品メーカーを抑えるために、あの手この手の人工的なことをメーカーはやってしまいます。例えばゾロ品を使ったときのサポートや保証を制限したりします。
    3. 特許などでゾロ品メーカーを完全に抑えられている場合は、試薬の値段はずっと高いままにされてしまいます。一旦手に入れた顧客からなるべく利益を搾り取るためです。
  5. バイオの業界では流通の障壁も問題です。いくつかの理由で代理店をほぼ100%通すという商習慣になっていますが、これは大手メーカーに有利に働き、参入障壁になります。代理店に体する力が弱い小さいメーカーは、良い製品を作っていても販売が難しくなります。結果として、売っている商品は体したことが無くても、代理店とうまくつきあっている大手メーカーが有利になってしまいます。
  6. 各企業が本当にやらなければならないのは、マーケティングのテクニックで利益を守るのではなく、圧倒的に魅力的な製品やサービスを作り出すための努力を重ねることです。
  7. 研究者のサイドでは、業界構造をよく理解して、メリットの無い参入障壁の温床を無くしていく努力が必要です。

Millipore 2008年第一四半期業績

Milliporeが2008年1-3月の業績を発表しましたので簡単に紹介します。

売上は7%の増加で$395.2 million(411億円)。ただしドル安の影響が8%ありましたので、各国の通貨ベースでは1%の減少。Bioscience部門が6%の増加であったのに対して、Bioprocess部門が7%の減少でした(各国通貨ベースの数字で)。

営業利益は$57.6 million(対売上比14.5%)で、これは対前年($39.6 million)比で46%の増加。粗利率は52.5%で、前年の51.0%より若干改善。R&Dは対売上比で6.3%で、前年の7.4%より大幅に減少しています。営業マーケティング等の費用も対売上比31.7%で、前年の33.0%より減少しています。ただし金額ではR&Dは9%の減少で、営業マーケティング等は2.1%の増加になっています。R&Dを大幅に減らして利益を改善している感じがあります。

経営陣のコメントとして、Bioprocess部門での売り上げ減少は少数のアメリカのバイオテクノロジー企業の影響によるもので、その他のバイオテク企業は二桁成長しているとのこと。ということで、なかなか強気なコメントです。こういう理屈は小さいエリアを担当している営業担当者の言い訳としてはよく聞きますが、圧倒的な市場シェアを持っていて、なおかつ大きな世界市場を語っている経営陣がいうととてもおかしく聞こえます。本来なら経営陣としては、この動きを全体的なトレンドとして理解する勇気と力量が必要です。おそらくビジネス経験が貧弱だけど何かの間違いでトップになってしまった人が、営業部門の言い訳をそのままテープレコーダーのように繰り返しているのでしょう。言い訳を言い訳と見抜くだけの経験がなくて、なんとか自分の身を守ろうというパターンですね。僕もそういう人を見てきているので、ピンと来ます。

地域ごとに見ますとアメリカ大陸で10%の売り上げ減少($146.3 million)、ヨーロッパで17%の売上増加($171.3 million)、アジアパシフィックで25%の売り上げ増加($78.6 million)となっています。これはすべてドル建てで、ドル安の影響を受けた数字です。

ミリポアは水というどこでも必ず使う製品が主力の会社で、しかも圧倒的なシェアを持っていますので、市場の活気を正確に表すバロメータとなる会社の一つだと思います。

6%という各国通貨ベースでのBioscience部門の成長も、私が知っている世界の市場全体の伸びとほとんど一致しています。ミリポアが日本の数字を個別に出していないのは残念ですが。

オンライン広告が好調

Google, YahooそしてMicrosoftのオンライン広告収入が好調で、アメリカの景気が悪いにも関わらず30%程度の成長を見せていることについて、Adage.comに記事が掲載されていました。詳しいことはこの記事に譲るとして、いくつか気になったポイントを紹介したいと思います。

英国のオンライン広告の好調ぶりを以前にもこのブログに紹介していますが、今回のAdage.comの記事は、アメリカにおいても同様にオンライン広告が好調であることを紹介しています。その理由について、1) インターネット広告の方が一般に安いこと、2) インターネット広告の方がターゲットされていること、3) インターネット広告の方がよりトラッキングしやすいことを挙げており、これも以前取り上げた記事と同じです。38%のマーケターはオンライン広告への投資を増やし、一方で36%のマーケターは伝統的なメディアの広告を減らす予定であることが今回の記事で紹介されています。

景気が悪くなっている結果、マーケターは無駄を省き、既に購入を検討している顧客(in-market customers)に重点を移していることも紹介されています。このことはセールスファネルの一番下に位置する顧客層に体する広告の機会を提供する、市場を狭くターゲットしたバーティカルなサイトに有利だとしています。Vanity Fairなどのニュースサイトよりも、例えば新車・中古車の価格比較サイトであるedmonds.comに広告を掲載する方が、既に購入を検討しているin-market顧客を捉えやすいと解説しています。

その一方でバーティカルなサイトであっても、例えば医学情報サイトのWebMDの広告収入の40%は医学と直接関係のない業界からの広告なので、この40%の分の広告収入は2008年には減少していくことが予想されるとも紹介しています。

さて、バイオの業界ではどうでしょうか。

少なくとも日本のバイオの業界が不況と呼べる状態にあることは間違いないと思います。したがって同じようにインターネット広告に力点が置かれていく土壌はあります。しかし以前にも話していますが、バイオ業界では製品情報のインターネットサイトが十分ではなく、広告を掲載するべきサイトがほとんどないという状態です。したがって、本来ならばインターネット広告に収入が偏っていくべきなのに、古いメディアに相変わらず広告費が使われています。またより短期的な効果を得るために、そもそも広告にお金を使うのではなく、営業にお金を使っていく方向に偏っていってしまっています。

これは別に日本だけでなく、アメリカでも同じだと思います。製品比較サイトが実質Biocompare.comだけになってしまっているのは、1.5兆円強の市場規模を考えれば寂しい限りです。