スマートフォンの売り上げ:いろいろな数字

スマートフォンって非常に成長が著しい市場で規模も大きいので、調査会社がいろいろな分析をしています。でもそれはかなり怪しいよという話をいくつかここにまとめます。

アメリカの携帯キャリアが報告している数字

以下はアメリカの携帯電話ネットワークキャリア(AT&T, Verizon, Sprint, T-Mobile)が報告している数字です(Benedict Evans氏のブログから引用)。Apple以外のスマートフォン製造会社はどれも売り上げ台数を報告しないので、調査会社が推測した数字じゃなくて、実際に販売している会社が報告している確固たる数字はこれぐらいしかありません。

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ポイントは

  1. 2012年Q3でiPhoneが9.3 million、その他のスマートフォンが8.7 million販売されました。
  2. スマートフォンは携帯電話全体の販売台数の80%。

調査会社などの調べでは世界全体の市場ではAndroidは75%としていて、この数字自体がかなり推測を含んでいますが、USに限って言えばiPhoneがスマートフォン市場の50%以上を握っています。

Benedict Evans氏のブログによると、Comscoreなどの調査会社の調べではiPhoneの利用者はスマートフォン全体の30%しかないという調査結果があり、それも怪しいねという話です。

アップル vs. サムスンの法廷資料で出てきた数字

調査委会社のIDCなどは2012年のQ2にサムスンが50.2 millionのスマートフォンを出荷したとしています。しかしこれもかなり推測を含む数字です。サムスンはスマートフォンの出荷台数を近年報告していません。

しかしアップル vs. サムスンの裁判の中で、適切な損害賠償の額を算出するためにアップルもサムスンも実際の販売台数を報告する義務が発生しました。USでの販売台数しか出てきませんでしたが、メーカー自身が報告した正確な数字としては貴重なものです。以下、Horace Dediu氏がまとめたものを紹介します。

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以上のグラフはサムスンが世界全体で出荷したと推測されるスマートフォン台数全体(IDC調べ)と法廷で損害賠償の対象となっているサムスン製スマートフォンの実際の販売台数を比べたものです。ただしサムスンの実際の販売台数はUSのみです。また2012年の4月に販売開始されたGalaxy Nexus, 2012年7月に販売開始されたGalaxy SIII, 2012年2月に販売開始されたGalaxy Noteは含みません。

IDCの調査結果がUSでの販売傾向を全く反映していないことは一目瞭然です。

ウェブブラウジングの使用率を見た数字

Statcounterがウェブを閲覧したユーザのデータを公開しているので、ここから分析することもできます。まずはUSのデータ。

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USのデータを見るとUSのキャリアが報告している販売台数と良く似た数字になっています。iPhoneの方がAndroidよりも上で、iPhoneの方が不くるから販売されていることを加味すれば、実際の販売シェアよりもウェブアクセスのシェアでiPhoneが上に来るのは納得できます。

Statcounterを世界全体で見ると以下のようになります。

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Androidの方がiPhoneよりも多くなっています。またAndroidが強いのは一人あたりGDPがあまり多くない国が多く、ネットワーク環境が整備されておらず、ネットアクセスが不自由である国が多いと考えられますので、Androidからのウェブアクセス以上にAndroid端末は世界で売れていると考えることができます。世界全体でAndroidが75%の販売シェアを持っていることは、この数字を見る限り十分可能だと考えられます。

ちなみにStatCounterの数字を日本で見ると、iPhoneとAndroidが拮抗しています。iPhoneの方が強いUSとは違います。これはDoCoMoがiPhoneを売っていないのが最大の理由でしょう。

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Androidが強い国って何処だろう

StatCounterの国別の数字を、各国の一人あたりGDPでプロットしました(まだすべての国をプロットしていませんが主要な国は含んでいます)。

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なおSymbianもSeries 40もNokiaのOSです。

はっきりわかるのは

  1. 一人あたりGDPが高い、裕福な国ではiOS (iPhone)が強く好まれている。しかし一人あたりGDPが50位以下の国では弱い。
  2. Androidは裕福な国ではそこそこ使われているが、iOSとの決定的な違いはGDPが40位以下の国で強いこと。GDPが40位以下の国というのは、ロシアやアルゼンチン、マレーシア、メキシコ、ブラジル、タイ、中国などを含みます。
  3. NokiaのOSは一人あたりGDPが低い、貧しい国でよく使われている。

コンテンツの消費をビジネスにするAmazon、コンテンツ制作をビジネスにするApple

Amazonの新しいKindle Fire HDの発表を見て、AppleとAmazonが今後覇権を争うようなことを言っている評論家がインターネット上にたくさんいましたが、僕はあまりそう思いませんでした。

確かにAppleとAmazonはかぶるところが多いのですが、両者のイノベーションの方向が根本的に違うのです。

AppleはIT技術を通して、コンテンツを制作するツールをプロ及び大衆に提供する会社です。これは昔ではDTP、そして最近ではiLife, iBooks Authorなどで見ることができます。iPod発売前にiTuneが出た当初も宣伝コピーは”Rip, Mix, Burn”であり、単に音楽をPCで消費するのではなく、Mixという創作活動に大きなウェイトが置かれていました。

AmazonはタブレットPCをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置づけていて、その意味においては確かにコンテンツを握っていることが市場で非常に大きな力になります。

AppleはiPadをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置ていません。近い将来にはPCに代わるデバイスとして位置づけています。iPhotoやiMovieで音楽やビデオを編集することができますし、Garage Bandで音楽を作ることができます。スケッチをしたりするためのアプリケーションもサードパーティーからたくさん提供されていますし、Pagesをはじめとして文章を書くためのアプリも充実しています。

Amazonは世の中の見る価値のあるコンテンツは市場で発売されているものであり、それはAmazonを通して買ってもらいたいと思っています。

対してAppleは、創造力は誰にでもあり、誰でも高品質なコンテンツが作れるようにすることを一貫して会社の使命と考えています。

Appleもコンテンツを消費するためのツールはあり、そこはAmazonとかぶります。iTunes, iPodとApple TVです。iPadは違います。

個人的にはAppleのようにメディアの可能性をとことん追求して、新しいチャレンジをどんどんしてくれる会社がうれしいです。メディアの可能性はたくさん残っています。Amazonにように既存コンテンツの消費方法だけに注力するのは、世の中全体としては実にもったいない話です。

スマートフォン市場の異常さ

先日のApple vs Samsungの訴訟を受け、またそれに対するいろいろなリアクションを見ながら、スマートフォン市場の特殊性について考えてみました。

以下、メモ;

  1. iPhoneは一夜にして携帯電話市場をがらりと変えました。携帯のデザインを一変させたばかりではなく、携帯にできること、ウェブを見ること、メールを読むこと、アプリを買うことの状況を一変させました。ユーザインタフェースを一変させました。当時はAndroidですらキーボード中心のBlackberryのような製品を想定したOSでしたが、iPhone後は方向を180度変えてタッチインタフェースを真似ました。
  2. 他の会社が注力していなかったタッチインタフェースを早い段階から研究開発していたAppleが、数多くの特許を独占できたのは自然なことです。タッチインタフェースを発明したのはAppleではないのですが、それを実際に製品に応用していくところの特許は圧倒的にAppleが保有していて、独占状況に近いです。こうなったのはひとえに他社が注目していない頃にタッチインタフェースを突き詰めたからです。
  3. それまでの携帯電話はパソコンと比較して大きく見劣りしていました。性能はもちろんのこと、ソフトウェア面でも圧倒的に単純なものでした。iPhoneはその状況を一変させます。iPhoneのOSであるiOSは、土台がMacOS Xと同じです。そしてMacOS Xで初めて導入された数多くの先進的な技術が含まれています。例えばグラフィックスやアニメーションの描写などがそれです。iPhoneは初代Macintoshから数えて20年余の技術の上に立つ製品です。パソコンで蓄積された技術を携帯に持ち込んだ製品です。しかしパソコンの世界では一般消費者向けのオペレーティングシステム技術はたった2つの会社しか持っていませんでした。AppleとMicrosoftだけです。このことが何を意味するかというと、iPhoneにまともに対抗できる製品を作れるのは基本的にMicrosoftしかなかったということです。GoogleがAndroidを開発できたのはJavaをハイジャックしたりiPhoneを真似たからであり、自社技術を積み重ねてつくることはできなかったのです。かなり近道をしているので、特許を数多く侵害したのは自然なことです。
  4. NokiaはAndroidの携帯を開発しませんでした。そうではなくWindows Phoneに賭けました。なぜかというとAndroidでは差別化は不可能と考えたからです。これについてはCNETの記事で紹介されています。実際に現時点でのAndroidの状況を見ると、Androidスマートフォンで儲かっているのはSamsungだけで、他のメーカーは差別化に苦労し、高い価格で製品が売れずに儲かっていません。(もちろん一番儲かっているのはAppleですが)
  5. SamsungだけがなぜAndroid陣営の中で儲けることができているか?もちろん社内に高い技術力を持っているのは有利だとは思いますが、むしろ大きいのは、ハードもソフトもiPhoneに似せたからではないかと思われます(SamsungはAndroidを改変して、よりiPhoneに似せました)。つまりスマートフォン市場の中では、ほぼiPhoneに似ているか似ていないかだけが差別化につながっていると言えます。

以上をまとめると、a) 知的所有権ではマーケットリーダー1社が圧倒的な有利な状況があります、 b) スマートフォン市場での差別化ポイントは、現時点ではマーケットリーダーの製品に似ているか似ていないかの1点に絞られています。これがこの市場の特殊性です。

MicrosoftのWindows Phoneが売れていけば、a)の問題は解決されます。Microsoftはパソコン関連の知的所有権をたくさん保有していますし、その一部はiPhoneでも使われているでしょう。MicrosoftはAppleとクロスライセンス契約をしていると言われていますので、Windows PhoneはAppleに訴えられる可能性がぐっと少ないです。

b)の差別化についてははっきりわかりません。NokiaはMicrosoftと早い段階からパートナーになることによって、他社のWindows Phoneでは得られないような差別化ポイントを手に入れようとしています。パートナー契約の内容に依存しますが、確かにそうなるかも知れません。Windows PhoneはiPhoneとはかなり違うユーザインタフェースなので、現在の差別化ポイントの一極集中は解消していくでしょう。

そうなればスマートフォン市場も多少はまともなものになっていくかも知れません。

AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

SamsungがiPhone, iPadのデザインを真似たとしてAppleがSamsungを訴えていたアメリカの裁判は、2012年8月24日に、Appleの勝訴でひとまず幕を閉じました。

その内容をカバーした記事はネットにあふれています。特に良いと思ったのはAllThingsDの特集でしたので、詳細を知りたい方は英語ですがご覧ください。

今回の裁判は一般人による陪審員裁判でしたので、特に興味深いのは判決の理由です。
陪審員の一人とのインタビューが紹介されていますので、ご覧ください。

陪審員の人が判決の中で一番重視した証拠を聞かれて、こう答えています;

The e-mails that went back and forth from Samsung execs about the Apple features that they should incorporate into their devices was pretty damning to me. And also, on the last day, [Apple] showed the pictures of the phones that Samsung made before the iPhone came out and ones that they made after the iPhone came out. Some of the Samsung executives they presented on video [testimony] from Korea — I thought they were dodging the questions. They didn’t answer one of them. They didn’t help their cause.

彼が言及しているのは以下の証拠と思われます。

  1. 「iPhoneとGalaxyを比較するとGalaxyのここがいけていない。よってiPhoneに似せるべし」というサムスンの内部資料。
  2. グーグルとのミーティングでグーグル側が「アップルとソックリすぎだからちょっと変えた方がいいんじゃないか?」と言ったというメール。

この判決に対する印象は様々ですが、私の印象は「相当に常識的な判断が下された」というものです。

この判決でAppleの力が強大になり、競合を閉め出し、結果としてイノベーションが停滞するのではないかという議論があります。特にネット関連の評論をしている記者やブロガーの多くがこの主張をしています。私は決してそうは思いませんが、彼らの言っていることは一理があることは否定はしません。

ただ陪審員が下した結論はもっと単純明快で

他の会社が何年もかけて苦労して開発した画期的な技術を、悪意を持って意図的に真似てはいけませんよ!

ということだと感じました。

良い判決だったと思います。

さて今後どうなるか。以下ではこっちの方を大胆に予想してみたいと思います。 Continue reading “AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと”

Mixiのアクセスデータからスマートフォンへのシフトを眺める

「Mixiの現状をグラフ化してみる(2011年12月末時点)」というブログ記事があったので、興味深く読みました。

こんなことが書いてありました。

(Mixi側は)ページビューの減少傾向、月間ログインユーザー数の成長鈍化についてリリースでは、直接的には「1ページの情報量が多いスマートフォンへのユーザー移行が増えた」「スマートフォンでは一部アプリの利用において、ページビューに反映されない」「ユーザー利便性を優先したインターフェイスの変更で、(誤操作や迷いのための別ページ視聴が起きにくく)ページビューが減退している」と説明している。

….

「スマートフォンの利用拡大という現実を踏まえ、適切な収益を挙げられる商品の開発(利益面でも「スマートフォンへの利用のシフトにより、モバイル広告売上が落ち込み」と言及されており、現状のスタイルでは効果的な収益が上げにくいことをうかがわせている)」の二つが、資料からはうかがえる。

要するにガラケー中心の広告収入モデルを、スマートフォン用のものに切り替えるのが遅れているようです。

僕は以前にこのブログで「ミクシィのケータイへのシフトを読み解く」という書き込みを2009年2月1日にしました。その中で僕は以下のように述べています。

個人的には日本のインターネット産業が携帯電話にシフトしていくことに危機感を感じています。理由は以下のものです。

  1. 日本だけの閉じた産業・技術で終わってしまい、日本のインターネット産業の国際競争力育成につながらない
  2. iPhoneなどに見られるように、携帯電話の進歩は凄まじく、パソコンと同様のことができるようになる日は近い。パソコンでのビジネスモデルから携帯電話のビジネスモデルにシフトしてお金を儲けようとしても、携帯電話そのものがパソコン化してしまうだろう

日本のインターネット産業には、安易に携帯電話にシフトするのではなく、パソコンでのビジネスモデルをどのように発展させていくかということをもっと真剣にやってもらいたいと思っています。確かに今は携帯電話ビジネスの方が儲かるかもしれません。でも、技術革新のスピードを考えると、携帯電話が独自のビジネス空間を形成していられるのはせいぜい5年だと思います。iPhoneや携帯性に優れたNetbookにより、携帯電話独自のビジネスはあっという間に浸食されてしまうのは間違いのないことでしょう。

すでに2008年7月11日に日本でiPhoneが発売されていましたので、その時点ですでにほぼ読めたことです。

ただ、まぁMixiは完全に後手後手の感がありますね。

こういうのはドラッカー風に言えば「すでに起こった未来」

iPhoneが中国で作られる本当の理由:日本もこうして成長した

「iPhoneが中国で組み立てられているのは中国人労働者の賃金が安いからだ。」

そう思っている人が多いと思います。

しかしThe New York Timesの記事 “How the U.S. Lost Out on iPhone Work”では違う視点を紹介しています。

すばり工場の大きさ、柔軟さ、勤勉さ、そしてスキルのいずれを考えてもアメリカ国内でiPhoneを組み立てることは実現不可能であり、中国にしか作れなかったというのです。

昔の日本もそうでしたよね。

最初は労働力が安いのが日本製品の特徴であり、安かろう悪かろうでした。”Made in Japan”というのは劣悪品の象徴だった時代もあります。そこから徐々に日本が力をつけていって、技術者の勤勉さとスキル、ロボット化された最新の工場設備、カンバン方式などの現場の工夫による柔軟性によって、”Made in Japan”は世界最高の品質をリーズナブルな価格で提供する代名詞となったのです。1970年代ぐらいの話です。

中国は急速にこの1970年代の日本に近づいているのかもしれません。

それはさておき、この記事からいくつか引用して翻訳(意訳)しますが、是非全文を読むことをおすすめします。

思うのは、日本の技術力を支え、そして今の中国を支えているのは工業高校なのかなということです。うちの祖父もそうでした。そういう人がいなくなると、円高のことを考えに入れなくても、日本国内で工業を稼働させていくことが困難になっていくのではないでしょうか。

日本の大学は猫も杓子も大学院に行かせて博士号をとらせようと考えず、工場で働く人をどうやって育てるかを考える必要があります。あるいはもう日本の大学の数をうんと絞って、大学進学率を思いっきり下げて、その代わりに専門学校や工業高校に行かせるか。そういうのがいいのかもしれません。

日本の技術力が危機に瀕しているかもしれないと言うとき、理系を増やせだとか、博士をもっと育てろだとか、大学にもっとお金をよこせだとか、スパコンを作らせととか、そういう話がたくさん出てきます。このNew York Timesの記事もそうですが、それだけを見ていたらまったくだめだよと僕は強く思います。

機械メーカーに行った友人もよく言いますよね。会社の技術力を支えているのは現場の高卒のおっさんだって。 Continue reading “iPhoneが中国で作られる本当の理由:日本もこうして成長した”

ドコモのiPhone発売は必然だから、その先を考えてみる

ドコモからiPhoneが2012年の夏に発売されるという情報が報道されました。
ドコモ、来年夏にiPhone参入(日経ビジネス)

後にドコモがこれを公式に否定したようですが、大方の見方はやはりドコモがiPhoneを投入するだろうという考えのようです。

まぁ、それはそうでしょうという気もします。

10月半ばにKDDIが投入したiPhoneは好調です(ウレぴあ総研)。実際にSoftbankからKDDIに移るには多くの障害があるのですが、それでも良く売れています。SoftbankでiPhone 4を購入した利用者はまだ短くても一年弱の月賦を残しているはずですが、それでも販売数が競っているのは大変なことです。

MNPの転入についてはiPhone 4S販売が2週間分しかない10月の統計で、既にKDDIは転入超過首位になりました。11月がどうなるか、興味深いところです。

こうしてドコモがどこかの時点でAppleの条件を飲んでiPhoneを販売しないといけないのは、まぁ必然でした。

そういう当たり前のことを話してもしょうがないので、今後どうなるかを予想してみようと思います。

  1. Android販売数への悪影響:ドコモのユーザは当然Androidを買い控えするでしょう。
  2. iPhone販売数への悪影響:特にSoftbankユーザで電波に不満のある人の一部はauに移るのをパスして、ドコモを待つでしょう。月賦も残っているでしょうし。
  3. Android全体への悪影響:一年経ったら、もうAndroidを買う明確な理由がなくなる訳ですから、Androidそのものの将来性が不安視されるでしょう。
  4. Androidに悪影響があるということは、Android端末を販売しているメーカーにとって大きな打撃だということです。

ようするにドコモにしてもauにしてもSoftbankにしても、また日本の携帯メーカーにとっても、この報道は本当に困ったものです。もちろん消費者に取っては、事実ならプラスの報道ではありますが。

Steve Jobsがリークを非常に厳しく取り締まったワケもよくわかります。

Steve Wozniak on Siri “search engines should be replaced by answer engines”

Siri heroSteve Jobsと共同でアップル社を創設したSteve Wozniak氏が好んでLos Gatos, CaliforniaのApple storeの前に並び、徹夜でiPhone 4Sの発売を待ったそうです。

ただでもらえるのに、いつまでも子供心を忘れないとても素敵な人です。

彼が最も引かれているのは”Siri”。並んでいるときに受けたインタビューで以下のように答えています(3:40頃)。

To Siri I could say what are the prime numbers greater than 87. Google doesn’t understand “greater than”, but Wolfram Alpha does. So I would get the right answer. And that’s what I really want in life. I don’t want all these, you know, get me to the way to the answer, to the books that have the answer, get me to a web page that has the answer. I don’t want that. I say search engines should be replace by answer engines.

私がバイオの買物.comで目指しているのも同じことです。

Googleのおかげで検索エンジンが劇的に良くなったとはいえ、ライフサイエンスの研究用製品を探したり調べたり比較したりする方法としてはGoogleは全く不十分です。

単純な検索機能だけを提供しているいろいろな研究用製品ポータルは同じかもっとレベルが低いです。検索しか無いと言うのは、少なくとも研究用製品に関してほとんど役に立たないと同義です。

Siriのような人工知能は必要ないと思っていますが、人間がキュレーションしたデータセットはSiriと同様に必須です。データセットをがんばって作り、そして自然言語解析は無理だとしても、非常に工夫されたインタフェースで答えを提供していくこと。バイオの買物.comはそういうことを目指しています。

高校生のインターネット利用の調査結果について

2011年8月22日にリクルートが高校生のWEB利用状況の実態調査結果を発表したそうです。

  1. 全調査データ

僕は常々、未来を予測するには若い人が育っている環境を見るのがベストだと考えています。ですからとても興味があります。

いろいろ思うことはあるのですが、特にスマートフォンの普及率が興味深いです。高校生のスマートフォン普及率は既に14.9%に達しているそうです。それに呼応するかのように、mixi (23.4%)よりもTwitter (34.0%)の方がすでに利用率が高くなっているとのことです。Facebook (12.7%)も決して少ない数字ではないです。これは驚きでした。

Mixiなどの日本のウェブ産業の多くが携帯電話ビジネスにシフトしていくという話を僕も2009年にブログで紹介しました。その戦略の根幹にあるのは携帯電話のハードウェア上の制限であると結論し、その戦略の危険性について語りました。それが早くも現実化していると感じます。

ITハードウェアの進歩の速度をうまく予見するムーアの法則が知られていますが、iPhoneに代表されるスマートフォンはいまのところこれを遥かにしのぐスピードで進歩しています。そのことを常に意識する必要があります。

スマートフォンの普及によって日本の携帯電話市場を海外メーカーがほぼ独占するようになる時代がくることは十分に予想でき、すでに進行しつつあります。少し遅れて携帯電話の上で利用されるウェブサービスについても、PC上のサービスでしのぎを削ってきた海外のサービスが、日本のサービスを一気に飲み込んでしまうでしょう。

話をバイオに転じると、シーケンサーの進歩もまたムーアの法則をしのぐ猛烈な勢いを見せています。これがライフサイエンス全体にどのような影響をもたらすか、興味が尽きません。

技術的なことで戦略を決定してはいけないという話

Horace Dediu氏がまたイノベーションと戦略について興味深い議論をしています。

“What Google can learn from John Sculley: How technology companies fail by placing their strategy burden on technology decisions”

私が見る限り、論点は以下の通り;

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  1. Adobe FlashはH.264などのビデオコーデェックに比べて垂直統合されているため、コンポーネント技術を最適化しなければならないスマートフォンでは使い難くなっています。またFlashはそもそもがビデオ再生だけを考えると機能があり過ぎて、ギリギリでやっていかなければならない今のモバイルには向きません。
  2. Apple社はJohn Sculley氏がCEOだったとき、技術の優劣に基づいて、Intel社のCISC型PentiumよりもMotorola社のRISC型のPowerPCを採用しました。しかしその判断は誤りでした。そもそもCISC型とRISC型のどっちが優れているかを判断の根拠のするのが間違いでした。そうではなく、どの会社がより長い期間、CPU技術を改良し続けるのかで判断するべきでした。
  3. GoogleはWebMというビデオコーデックを開発し、自社のChromeブラウザにどの規格を採用するかを議論する等、”H.264 vs WebM”や”HTML5 vs. Flash”に労力を費やしています。しかしそういう技術的な問題が大切なのではなく、そもそもスマートフォンでブラウザが重要であり続けるかどうかが重要です。Steve Jobs氏も繰り返していますように、iPhoneユーザはPCユーザに比べるとブラウザで検索することが少なく、長い時間をアプリの中で使う傾向が強くなっています。ですからChromeがどのような規格を採用するかはあまり重要ではないということです。

社内にどっぷり浸かると技術的判断をしがち

これは私が自分の周りを見てずっと思ってきたことです。社内にどっぷり浸かって、技術についての理解が深まれば深まるほど、技術を中心に戦略的な判断をしたり、マーケティングのポジションを考えたりするようになってしまうことがほとんどです。特許の話が絡んでくるとなおさらです。

製薬企業でゲノム研究していた頃は、細胞の分子メカニズムや薬の作用メカニズムだとかにばかり目が行ってしまい、そもそもこの疾患を薬で直そうとするべきなのかであるとか、薬以外の他の療法との関係はどうなのかを十分に知ろうとはしませんでした。ゲノムに注目するべきなのかどうかという議論は言うに及ばずです。

またよくやってしまうのは、自社技術の強みを活かそうという考え方。これを判断の中心においたら、まず間違いなく失敗するでしょう。

マーケティングをやっていたときも常々感じていました。私がクロンテックにいた頃のDNAアレイに対する不思議な情熱はこれです。現時点での技術ではなく、必要なビジネスリソースと長期的な研究開発力の視点が欠けていたと思っています(クロンテック以外のほとんどのDNAアレイメーカーもそうでしたが)。技術に疎い経営幹部ですら、いつの間にか技術中心で戦略を判断することに慣れてしまうのです。

でもそうやっていると、次にやってくる技術のうねりが見えなくなってしまいます。次のうねりは今見ている技術ではなく、違うところから起こってきますので。

「技術(特に現時点の)を中心に戦略を判断してはいけない」

こう肝に銘じておけば、ずいぶんと幅広い視野で物事が見られるようになると思います。

参考:Steve Jobs on OpenDOC