i-modeとChristensen氏のlaw of conservation of attractive profits

i-modeの敗北についていろいろ調べている中で、池田信夫氏の「iモードの成功と失敗」が(結論は別として)興味深かったです。

何が興味深いかというと、私が以前にも言及したClayton Christensen氏の“law of conservation of attractive profits”との関連性が見えるのです。

池田信夫氏によるとi-mode創世記にはいろいろなことが起こりました。

WAPが携帯端末の限られた能力で普通のウェブサイトなみの機能を実現しようとしてデータを圧縮し、携帯端末用に最適化した言語WMLを開発したのに対し、iモードはドコモ独自のパケットで伝送し、中央のゲートウェイでTCP/IPに変換して、HTTPやHTMLなどのインターネット標準をそのまま使う方式だ。これはドコモの電話網でインターネットのエミュレーション(模擬動作)をやっているので伝送効率は低く、機能も限られている。

ところが、iモードはドコモだけで規格が決められるため、どんどんサービスを始めたのに対して、WAPの標準化が遅れたため、ドコモ以外の各社はそれぞれ独自の「WAPもどき」の方式でサービスを始めざるをえなかった。その結果、国際標準であるはずのWAPがかえってばらばらになり、標準化をほとんど考えない「NTT規格」だったiモードが事実上の国内標準となった。2001年に発表されたWAP2.0はiモード互換となり、実質的にドコモの規格が国際標準となった。

この明暗を分けた決定的な要因は、iモードをサポートする「勝手サイト」が大量に出現したことだ。WAPで読めるようにするには、WMLで書き、特殊なWAPサーバを使わなければならなかったのに対して、iモードのコンテンツはコンパクトHTML(簡略化したHTML)で書いて普通のウェブサイトに置くだけでよいため、だれでも自分のホームページから情報を発信でき、勝手サイトは爆発的に増えた。

Christensen氏の理論に従って上述の経緯を解釈すると以下のようになるのではないかと思います。

  1. WAP技術は携帯端末に最適化された新規格だったのに対して、iモードはインターネット標準をそのまま使うものでした。そして少なくともDoCoMoのキャリアネットワークでは、強いて携帯端末に最適化された新規格を採用しなくても、インターネット標準で十分でした。つまりWAP技術はそもそもがモバイルデータ通信をする上でのポイントを外していて、“attractive profits”が得られるポイントではありませんでした。iモードのインターネット標準で”good enough”だったのです。
  2. むしろモバイルデータ通信を普及させる上でのボトルネック(“not good enough”)はコンテンツを整備する環境でした。iPhoneのようにPCサイトをフルブラウザで見られるような時代ではなかったため、モバイル専用に書かれたウェブサイトが不可欠でした。WAPの場合はWMLという新しい書式でページを書く必要があり、なおかつウェブサーバも別個の設定が必要でした(WAPサーバが必要と池田氏は述べていますが、これは誤りでしょう)。WAPのコンテンツを作るのは簡単ではなかったようです。一方i-modeはコンテンツ作りを楽にしてくれたので、i-modeに“attractive profits”が集中したのだろうと考えられます。
  3. i-modeが全盛を極めている間は、携帯端末は“good enough”でした。i-mode自身が規格上「軽い」ウェブサイトしか受け付けなかったので、高性能な携帯端末は機能をもてあましました。その結果“attractive profits”は携帯端末メーカーに蓄積せず、キャリアの御用聞きに成り下がらざるを得ませんでした。
  4. 時代が変わってiPhoneが登場すると、ボトルネックはコンテンツ整備ではなくなります。なぜならパソコン用のウェブサイトがiPhoneのフルブラウザで十分に見られるようになったためです。“not good enough”はむしろスマートフォンの性能や電池の持ちに移ります。そして優れたスマートフォンを開発できる少数のメーカーに“attractive profits”が集中するようになります。なおキャリアの御用聞きに成り下がっていた国内のメーカーには、iPhoneやSamsungに対抗するだけの資金力も技術力も蓄積されていなかったと思われます。

こう考えるとi-modeの栄枯盛衰の原因はかなりわかりやすくて、「携帯端末専用の規格が必要な時代だったか否か」だけで決まっているように思えます。

WAP規格が生まれた頃は「携帯端末用の特殊な規格が必要」だと思われていたのに、実際にはi-modeの「インターネット標準」で十分でした。i-modeの強みはコンテンツの作りやすさで、それ故に最高の「携帯端末専用規格」となりました。そしてi-modeをコントロールしていたドコモに“attractive profits”が集中しました。

しかしハードウェアとソフトウェアの進歩により「携帯端末専用規格」が不要になりました。i-modeが不要になりました。それだけです。

もしi-modeが海外進出を果たしていたとしても、Nokiaの代わりになっただけでしょう。iPhoneやAndroidに駆逐されるのを防いではくれなかったでしょう。Nokiaの惨状を見れば、海外進出などを議論するのはほとんど意味が無いと思えます。

問題があるとすれば、それはi-modeが不要になる未来を描けなかった(未だに描けない)ドコモにあるのではないでしょうか。逆説的ではありますが、自らi-modeを潰し、i-modeが不要になる未来をたぐり寄せるぐらいのことをしなければ、ドコモはi-modeを救うことはできなかったでしょう。

i-modeがどうしてあっさりとiPhone, Androidにやられてしまったかを考える

今作っているPonzuウェブシステム(デモ解説)ではPC版、スマートフォン版、そしてi-mode版を用意しています。

開発中はi-modeの規格とかなり格闘しましたが、一つ強く感じたことがあります。

それはi-modeが項もあっさりとiPhoneやAndroidに追いやられ、ほぼ全面敗北の状況になった理由は、決してマーケティングや海外展開力、キャリアとメーカーの利権関係、あるいはガラパゴス化の問題ではなく、単純に製品が悪かったらからではないかということです。

製品が悪かったというのは、第一にi-modeブラウザのことです。i-modeブラウザは2009年にブラウザが2.0となりましたが、その特徴を一部抜粋しました(ここから);

  1. Cookieに対応。以前のi-modeブラウザは非対応でした。
  2. BMP, PNGの画像表示が可能になりました。以前はGIF, JPEGのみ対応。
  3. Javascriptに対応になりました。以前は非対応。
  4. 外部CSSに対応になりました。以前は外部CSSに対応していませんでした。
  5. 準CSS2対応になりました。以前は対応していないCSSが多くありました。
  6. VGA描写モード(480×640)に対応。以前はQVGA描写(240×320)のみ。

各項目の詳細は省きますが、特筆するべきことはこれらの機能が2009年、つまりiPhoneが発表されてから2年間も経ってようやく搭載されたという事実です。

例えばCookieやCSS、PNGへの対応はi-modeが圧倒的に遅く、auやSoftbankの携帯では以前から普通に使えていました。ガラケーの世界だけを見ても、i-modeブラウザは機能的に遅れていました。

それもi-mode用サイトを作る開発者側にとっては、かなり痛いところが遅れています。例えばPonzuウェブシステムを例にとると、Cookieに対応してくれないとログインシステムが使えません。また外部CSSが使えないと、開発効率が大幅に低下します。CSS2に対応してくれないと表現力が大幅に低下します。i-modeブラウザはかなり本質的なところが遅れていました。

ドコモがi-modeブラウザの開発に真剣に取り組んでいなかったのはかなり明白です。Internet Explorerの開発を滞らせてしまったMicrosoftと完全にダブります。

i-modeがiPhone, Androidに駆逐された原因はいろいろ議論されています。議論の状況はクローデン葉子氏が良くまとめています。また小飼弾氏は良く言われるガラパゴス化の影響について、非常にわかりやすく否定しています

それぞれの議論には当たっている点もあると思いますが、不思議なことにいずれもi-modeの製品自体のクオリティーについては言及していません。あたかもクオリティーには問題は無く、戦略等に問題があったというような議論ばかりです。

でも確実にクオリティーの問題はあったのです。製品力が落ちていたのです。その点に目をつぶって議論するのは大きな間違いじゃないかって思います。

凄いアイデアが凄い製品に至るまでの職人芸

ここ数日間、朝日新聞に「IT!おまえはどこへ」というシリーズがあって、ソニーでプレイステーションに関わった久多良木健 氏や、ドコモでiModeに関わった夏野剛 氏がインタビューに応じています。(

これからも日本のITで大きな存在の人間が登場するのでしょうが、今までのところかなりいまいちな印象です。

なぜかというと久多良木氏も夏野氏も単にSFのような世界観を述べているだからです。単なる「アイデア」、つまりこうなったら面白いなということ、もしくは「現代のトレンドはこうだな」というのを述べているにすぎません。

彼らはスティーブ・ジョブズ氏よりはジョン・スカリー氏っぽい気がします。スカリー氏は1987年にKnowledge Navigatorというコンセプトを打ち出し、いくつものコンセプトビデオを制作しました。両氏にはスカリー氏の雰囲気があります。

その一方でスティーブ・ジョブズ氏のいろいろなインタビューを聞いても、10年先の世界の話はまずしません。そんな先のことはわからないというスタンスをとります。

インタビューでのスティーブ・ジョブズ氏が言うのはむしろこうです;

You know, one of the things that really hurt Apple was after I left John Sculley got a very serious disease. It’s the disease of thinking that a really great idea is 90% of the work. And if you just tell all these other people “here’s this great idea,” then of course they can go off and make it happen.

And the problem with that is that there’s just a tremendous amount of craftsmanship in between a great idea and a great product. And as you evolve that great idea, it changes and grows. It never comes out like it starts because you learn a lot more as you get into the subtleties of it. And you also find there are tremendous tradeoffs that you have to make. There are just certain things you can’t make electrons do. There are certain things you can’t make plastic do. Or glass do. Or factories do. Or robots do.

Designing a product is keeping five thousand things in your brain and fitting them all together in new and different ways to get what you want. And every day you discover something new that is a new problem or a new opportunity to fit these things together a little differently.

And it’s that process that is the magic.

スティーブ・ジョブズ氏が言うのは、実際に製品を作っていくと、最初の「凄いアイデア」は様々に形を変え、最初のものとは大きく形を変えるということです。デザインの過程で様々な制限にぶつかり、問題を克服したり、新しい可能性が見えたりするからです。

そしてこのように具体的に製品をデザインしていく過程こそが“Magic”だとスティーブ・ジョブズ氏は語っています。この過程を表現するのに使っている言葉は“Craftsmanship”、つまり「職人の技能」「職人芸」です。

将来を見通すヴィジョンを持つと礼賛されるスティーブ・ジョブズ氏ですが、その本人はヴィジョンに偏るのをdiseaseと形容しています。そしてより重要なのは職人が生み出す“Magic”だとしています。

その意味を我々はよくよく考えなければなりません。

ブラウザの使用シェア統計はどれが正確か?

このブログではブラウザの使用統計を頻繁に使って議論をしています。特にStatCounterをよく使います。しかしその統計は信用できるものでしょうか?

答えからいうと、そのままでは信用できません。

もう一つよく使われているブラウザ使用統計はNetMarketShareがありますが、どちらかというとこちらの方が信頼性が高いと考えられることが多いです。ただNetMarketsShareの場合は細かいデータは有料になってしまいます。StatCounterは地域ごとの細かいデータまで無償で公開されています。

このあたりの細かい議論は、Roger Capriotti氏が書き下ろしています

StatCounterはChromeの使用シェアが高く出ているのに対して、NetMarketShareはInternet Explorerの使用シェアが高く出ています。したがってGoogle派か、Microsoft派によってもどっちを信用するかは変わってくるようです。

ただウェブログ解析をしている人の考え方に近いのはNetMarketShareの方です。NetMarketShareは訪問者数を分析しているのに対して、StatCounterはページビューを分析しています。いまどきページビューを使ってウェブサイトのログ解析をする人はいません。

また私自身、仕事の関係上一日中ウェブを使っていますが、そうなると「普通」の人よりも100倍ぐらいページビューを出していることだってあります。そのままカウントされたデータは意味が無いと自分自身が思います。

またNetMarketShareは地域ごとのサンプル数のバイアスを考慮していますが、StatCounterはそれをしていません。地域ごとのサンプルバイアスというのは、例えばStatCounterの場合は日本人によるページビューが少ないのに対して、トルコ人によるページビューが非常に多いです。NetMarketShareであればインターネット人口を元に補正をかけますが、StatCounterはそのままにしています。したがってトルコ人のネット使用傾向が最終データに強く表れます。

私は絶対値はNetMarketShareの方を信頼しています(ということは、まだまだInternet Explorerがダントツで一番使用されているブラウザだと考えています)。しかし細かいデータが公開されていませんので、「傾向」で十分に議論ができるような場合はStatCounterを使っています。

お金持ちの国はExplorerを使い、貧乏な国はChrome, Firefoxを使う

ちょっと極端な題名ですが、50の国を比較してみた結果、一人あたりGDPが高い国はInternet Explorerを使う傾向にあり、一人あたりGDPが低い国はChromeもしくはFirefoxを使う傾向にあることがわかりました。

各国の一人あたりGDPはIMFの2010-2012年の数字、それぞれの国の使用OSと使用ブラウザはStatCounterの2013年7月のデータを使いました。また使用した国は、CIAの各国インターネット人口統計の上位から50国としました。

仮説はこうです。

  1. 一人あたりGDPが低い国は古いパソコンを使い続ける傾向が強く、未だにWindows XPの使用率が高いでしょう。
  2. Windows XPではInternet Explorer 8までしか使えません。Internet Explorer 8は性能が悪いので、ChromeやFireFoxを使っている人が多いでしょう。グラフは別のポストに掲載していますのでここでは掲載しませんが、Windows XPの使用率とChromeやFireFoxを使っている人の割合は相関します。
  3. 逆に一人あたりGDPが高い国は新しいパソコンに買い換えている傾向が強く、Windows 7の使用率が高いでしょう。
  4. WindowsではInternet Explorer 9もしくは10が使えます。特にInternet Explorer 10はChromeよりも高速だという結果も出ており、高性能です。敢えて標準ブラウザを使わずに、FireFoxやChromeに移るインセンティブが低いため、Internet Explorerを使っている人が多いでしょう。

以下はデータです。

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仮説通りになっていることがわかります。

そして表題の通り「お金持ちの国はExplorerを使い、貧乏な国はChrome, Firefoxを使う」という傾向が鮮明に出ていることがわかります。

なおFireFoxを選ぶかChromeを選ぶかは一人あたりGDPとは相関はなく、別の要因で決まるようです。そのため一人あたりGDPとChrome使用率だけの相関は弱くなります。

緑で記したデータ点は中国と韓国です。韓国は政治的な理由で異常にIE使用率が高いので除外しています。中国はUser Agent Stringを書き換えているブラウザが多く使われている可能性が高く、StatCounterのデータの信頼性が低いと考えています。

考察

Chromeの使用シェアが拡大しているというデータもありますが、Googleにとっては喜ぶことばかりではないでしょう。確かに一人あたりGDPが少ない国でも快適にウェブブラウジングができるのはChromeやFirefoxのおかげです。しかしGoogleとしては広告収入が多く期待できる先進国でのシェア拡大が一番欲しいのではないでしょうか。

先進国ではWindows XPの使用率はかなり減ってきていて、Windows 7がメジャーになっています。Chromeは一時高性能でならしましたが、徐々にIE 10やIE 11に追いつき、測定結果によっては追い越されてきています。この傾向が続けば一般の人のChrome, FireFox離れが起こる可能性があります。

なおChromeがシェアを拡大しているのか、それとも縮小させているのかはStatCounterのデータNetMarketShareのデータで互いに反対の結果になっており、よくわからないのが現状です。今回の分析の結果に単純にしたがえば、ChromeやFirefoxの使用率は減っていくと予想されます。

Chromeがどうしてパソコンで人気があって、Androidでは人気が無いのか

パソコン用Chromeは20%弱 – 45%の使用率

パソコンではChromeの人気はかなり高いです。

Chromeブラウザの人気はウェブ使用率の統計で見ます。ブラウザ毎のウェブ使用率を発表しているところは主に2つあって(NetMarketShareStatCounter)、それぞれ結果が大きく異なるのですが、いずれにしてもパソコン用Chromeのウェブ使用率はそこそこあります。NetMarketShareは20%弱だとしていて、StatCounterは45%程度だとしています。

Android用Chromeは14%弱の使用率

これがAndroid用Chromeになると話が違います。NetMarketShareを見ると、Androidユーザの3.75%/(3.75% + 20.58%) = 15.4%がChromeを使っていると推測できます(ただしiOS Chromeユーザを無視した場合。iOS Chromeユーザを含めた場合は、より少ない割合になります)。ただしより細かく見ていくと、Chromeユーザとなっている利用者のうち、実はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーユーザも含まれていますので、実際には (3.75% – 1.70%)/(3.75% + 20.58%) = 8.4%がGoogle Playからダウンロードした純正のChromeを使っていることになります。

なおChrome for AndroidはAndroid 4.0以上でしか使用できませんが、AndroidのDeveloper Dashboardを見る限り、現時点でのAndroid 4.0以上のシェアは (23.3% + 32.3% + 5.6%) = 61.2% となっています。つまりChrome for Androidが使用できる環境にあるAndroidユーザに限定すると、Chromeの使用率は 8.4% / 61.2 % = 13.7% になります。

StatCounterの場合はGalaxy 4Sなどの標準ブラウザーを切り分けるためのデータが公開されていないため、Google Play純正Chromeの使用割合が計算できません。しかし合わせたChromeの使用利はNetMarketShareと似ているので(3.75%)、同じような結果になっているのではないかと想像できます。

いったんまとめると、パソコン用Chromeのブラウザ使用率は20%弱 – 45%ですが、それに対してAndroid用Chromeのブラウザ使用率は13.7%にとどまっています。

ちょっと古いデータですが、Androidからのアクセスの91%は標準ブラウザからだったという報告もあります。

いずれにしても圧倒的に標準ブラウザの人気が高く、パソコンのようにChromeもしくはFirefoxの人気が高いという現象は起きていないようです。

なぜパソコン用Chromeの使用率は高いのか

上記の結果は二つの見方ができます。つまりパソコン用Chromeの使用率が高いという見方、それとAndroid用Chromeの使用率が低いという見方です。

私は今回、前者のパソコン用Chromeの使用率が高いという立場をとります。つまり、本来ならば標準ブラウザの使用率が圧倒的に高いのが当たり前なのに、パソコン用ブラウザの世界では特殊事情によりChromeやFirefoxの使用率が高くなっているという立場です。

そしてその特殊要因というのはWindows XPであり、Windows XPで稼働する一番新しいInternet Explorer 8がかなりボロいブラウザであることが原因で、FirefoxやChromeに入り込むスキが生まれたとする考えです。

実際にデータを見ていきます。

国ごとのWindows XP使用率とChrome/Firefox使用率、IE使用率の関係

私の仮説はこうです。

  1. 多くの国(特に比較的貧しい国)では未だに古いパソコンが使われており、その上でWindows XPをOSとして使用しています。
  2. Windows XPではInternet Explorer 8までしか動きませんが、IE 8は動作が遅く、バグも多いため、ブラウザとしては劣悪です。
  3. それに対して最新のFirefoxやChromeはWindows XPでも動作します。そこでWindows XPを使っているユーザの多くはInternet Explorerを捨て、FirefoxやChromeに移ったと考えられます。
  4. 逆にWindows 7を使っているユーザはIE 9もしくはIE 10が使用できます。IE9, IE10はそれより前のバージョンより大幅に改善されていて、特にIE10はChrome以上に高速なところがあります。したがってWindows 7ユーザは標準のInternet ExplorerからFirefoxやChromeに移るインセンティブが少なく、Internet Explorerを使い続けていると考えられます。

この仮説を検証するために、以下のデータを集めました。

  1. 様々な国のWindows XP使用率及び各ブラウザの使用率のデータをとりました。データはStatCounterからとりました。国はCIAが公開している各国のインターネットユーザ数のデータから上位の30国を選択しました。
  2. Windows XP使用率と各ブラウザの使用率の相関関係を確認しました。

そのデータは以下の通りです。

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Windows XP vs. Chrome + Firefox

横軸が各国のWindows XP使用率、縦軸がChromeとFirefoxの使用率の合算です。このグラフから明らかなように、Windows XP使用率とChrome、Firefox使用率には明確な正の相関があります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザ(ChromeもしくはFirefox)を選択する傾向が強いようです。

なお緑の×で表したのは左が韓国、右が中国です。これらは外れ値として扱いました。韓国は国家政策の結果、Active Xの使用が半ば義務づけられ、異常にInternet Explorerの使用率が高いために除外しています。また中国はいろいろややこしいことがあり、StatCounter統計の信用度が低いと考えられます。実際に中国でのChromeのバージョンごとの使用率を見ると、古いバージョンが多く、新しいバージョンの使用率が少ない結果になっています。しかしChromeは自動アップデートがあるため、他の国ではほぼ例外なく最新ブラウザの使用率が圧倒的です。したがって中国のChrome使用率のデータはかなり怪しいです。

Windows XP vs. Chrome

先ほどのデータをChrome + Firefoxではなく、Chrome単独で見たときの結果です。相関がずいぶんと悪くなっています。これは国ごとにChromeに人気があるか、Firefoxに人気があるかがバラバラだということを表しています。

Windows XP vs. IE

これはWindows XPの使用率とIEの使用率の相関を見ています。Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がっていることがわかります。Windows XPのユーザは、IE以外のブラウザを選択する傾向が強いようです。

考察

以上のように、Windows XPの使用率が高い国ではIEの使用率が下がり、ChromeやFirefoxの使用率が上がっています。これは上記の仮説を裏付けるものです。

もし私の仮説が正しいのならば、以下のことが言えそうです。

  1. Windows XPの使用率が高い国は、古いパソコンを使い続ける発展途上国である傾向があります。それに対してWindows 7やWindows 8の使用率が高い国は、裕福な先進国である傾向があります。したがってどのブラウザが広告媒体としての価値が高いか、あるいは電子商取引で多額のお金が使われているかという視点に立つと、IEが有利でChromeやFirefoxは不利でしょう。
  2. パソコンの買い換えによりXPの使用率が下がっていくにしたがって、ChromeやFirefoxの使用率が減少していくでしょう。
  3. MicrosoftはXPのサポート終了を宣言していますので可能性は極めて低いのですが、もしMicrosoftがWindows XP用のIE10もしくはIE11を開発すれば、ChromeやFirefoxの使用率はがくっと減るでしょう。

最後に

先日のGoogleのPress Eventでも、Googleの幹部はChromeが世界で一番多く使われているブラウザであることを誇っていました。

しかしこれはMicrosoftのWindowsおよびInternet Explorer戦略の失敗に起因するものです。MicrosoftはIE10からは高性能なブラウザを開発するようになっているので、失敗から十分に学んでいるようです。そこでここ数年先、Windows XPの使用者が減るのにしたがってChromeやFirefoxの使用率が下がっていく可能性が高いと言えます。

もちろんGoogleはAndroid用Chromeを提供していて、パソコン用のChromeはこれとタブがシンクロしたりするなど相乗効果があります。しかしAndroid用Chromeの人気自体が余り高くないため、相乗効果はまだ限定的です。

こう考えると、Chromeの人気も数年先まで保証されたものではないと言えます。GoogleはChromeを主要なプラットフォームと位置づけていますが、私はこの基盤は相当に弱いと考えています。

Googleのスマートフォンの次に来る狙い

Daniel Eran Dilger氏が“Google appears ready to ditch Android over its intellectual property issues”と題された記事で、GoogleがAndroidを放棄する可能性について議論しています。そして様々な状況証拠を並べ、特に新しいものとしてGoogleの新しいChromecastデバイスが、Androidからいろいろな機能をそぎ落としたものになっていることを挙げています。

私は似たような意見を持っていますが、Androidをすぐに放棄するよりは、まずはAndroidをローエンド機用に最適化し、Apple iPhoneとの競合を避けていくのではないかと考えています。

理由はChrome, Android戦略ともに足腰が弱いためです。

Chromeブラウザはパソコンでは高いシェアを獲得しています(どれぐらい高いのかはかなり議論が分かれていますが)。しかしChromeが浸透しているのはここだけです。Android上のChromeは非常に浸透率が悪く、今後大きく改善する状況にはありません。またChromebookはウェブ使用率などの統計で全く登場しないレベルであり、メジャープレイヤーになる兆しはありません。

Chromeがパソコンで高いシェアを獲得している点についても、これは主にWindows XPで動くInternet ExplorerはIE8までだというのが大きな要因だろうと私は考えています。Windows XPの使用が減ればWindows上のデフォルトブラウザはIE 10, IE 11など非常に評判の良いブラウザになってきますので、Chromeのパソコン上の浸透率に陰りが出る可能性は大いにあります。

このようにChromeブラウザ戦略の見通しは必ずしも明るくありません。

一方Android戦略についても、タブレットでiPadに大きく後れをとり、どの統計を見ても使用率で大きく劣っています(販売台数ではiPadで競っているという統計はありますが、使用率では5倍以上の差がついているレポートばかりが出てきます)。Googleは広告で収益を得ている会社ですので、使われないタブレットが市場にあふれても良いことがありません。Google Nexus 7でタブレット戦略に力を入れていますが、初代のNexus 7の販売台数は目立ったものではなく、新型を出したところでどこまで改善するかは未知数です。

この状況でGoogleが自社の戦略を優先して、AndroidからChromeへの移行を積極的に進めることはないと思います。むしろスマートフォン上のAndroidはSamsungやHTCに任せて、タブレット上のAndroidに注力するでしょう。ただタブレット戦略もやり尽くした感があり、Googleにこれ以上何ができるかはっきりしません。

それとAppleが自動車に興味を持っていることが極めてはっきりしてきたので、Google Glassへのフォーカスを切り替えて、Androidを自動車用に作り替えることに必死になるでしょう。またまたAppleの真似です。

そう。これからのGoogleの注力は自動車です(Samsungも)。なぜかってAppleがそうするから。

Android標準ブラウザがChromium Forkであるデバイスのシェア

先日、Samsung Galaxy S4の標準ブラウザが1年前のChromium 18.0のフォークである可能性が高いことを紹介しました。

そういうのが実際にどれぐらい多いのかを調べてみました。NetMarketShareのデータを使いました。

この時点での最新のChrome for Androidはversion 27.0で1.54%のシェアがあることがわかります。Chromeは自動的にアップデートするのですが、このデータにはまだ25.0、26.0のものもあり、それぞれ0.29%、0.19%となっています。合計して、2.0%のユーザが新しいChrome for Androidを使っていることがわかります。

注目するのはChrome for Android 18.0が1.70%もあることです。Chromeの自動アップデート機能のため、Google PlayからダウンロードしたChrome for Androidがバージョン18.0でとどまっている可能性は低いと考えられます。そうなるとこの1.70%というのは、Samsung Galaxy S4と同じように標準ブラウザがChromium 18.0ベースのものから来ていると推測できます。

憶測になりますが、近いうちにChromium 18.0からフォークされたバージョンがGoogle PlayのChrome for Androidを近いうちに抜かしてしまいそうな気がしています。というのもAndroidユーザの91%が標準ブラウザを使用しているというChitikaのデータがあるからです。

Windowsプラットフォームでは高いシェアを誇るChromeですが、スマートフォンではなかなかそうは行かないようです。

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なお、どうしてAndorid上でChromeの使用率が上がらないのかを考えてみると、次のことが言えると思います。

  1. Windows上の標準ブラウザの性能が劣悪でした(Internet Explorer 7, 8, 9などのことを指します)。
  2. まだまだ使用されているWindows XPでは、Internet Explorer 8までしか動かず、これもかなり性能が劣悪です。

つまり標準ブラウザであるInternet Explorerを使い続けるのがかなりつらかったから、FirefoxやChromeに乗り換える人が多かったと言えます。これはFirefoxやChromeの功績というよりも、Internet Explorerの失策と言えます。

Android上ではそこまでの失策がなかったため、Chromeが普及できなかったのです。今後もSamsungらは自分たちの力で標準ブラウザに力を入れていくようですので、Chrome for Androidが普及するスキは出てこないと言えます。

Nexus 7が今までどれぐらい売れたのかを再確認する

7月24日のGoogle Press Eventで、新型のNexus 7が発表され、その中で以前のモデルがどれだけ売れたかについて紹介されていました。

それを少し検証してみようと思います。まずはGoogle Press EventでのSundar Pichaiの言葉から。

  1. Global Annual Salesで2012年において、おおよそ110 millionのTabletが売れたというデータを紹介しています。
  2. Total Android Tablet Activationsが70 Millionとなったそうです(最新データ)。グラフを読むと、2012年末時点では50 million程度のActivationがあり、2011年末時点では13 million程度のActivationがあったことになります。すなわち2012年の間に行われたActivation数は37 million程度です。Google Nexus 7は2012年の7月に発売されていて、その時点ではので25 million程度。したがってGoogle Nexus 7が発売されてから現在までのActivation数は45 million程度です。
  3. Google Nexus 7は発売以来、Androidタブレットの10%強の販売シェア。
  4. 日本でNexus 7が一番売れた時期があったことが紹介していますが、これはおそらくBCNランキングのデータで、BCNのデータはApple StoreもAmazonも大手電気店も含まないことを知っている日本人はそんなデータは信用できないことがわかっています。

GoogleはNexusの販売台数を一切公開しません。しかしNexusを製造しているAsusはTabletの販売台数を公開しています。そのデータをBenedict Evans氏が分析しています。そして得た結論は、2012年のNexus 7の販売台数は4.5mから4.6mの間で、4.8m以下としています。

同様にBenedict Evans氏はGoogleのスクリーンサイズシェアデータを分析して、Nexus 7のスクリーンサイズが全Androidの1%であることに着眼しています。そのことから[2013年の4月時点で、Nexus 7の使用台数は6.8m](http://ben-evans.com/benedictevans/2013/4/17/nexus-tablet-sales-not-many)であるとしています。

さて最初のSundar Pichai氏がNexus 7の販売台数に言及しているのは「Androidタブレットの10%強のシェア」というところです。Android Tablet全体の販売台数に関する言及は2012年7月以来の45 millionのactivationだけですので、単純に45 millionの10%を取ると2012年7月以来の販売台数は4.5 millionとなります。これはBenedict Evans氏の推測(2012年内で4.8m, 2013年4月で6.8m)を大幅に下回っています。

もしかすると「10%強のシェア」のとき、Sundar Pichai氏は「Androidタブレット」の範疇の中にAmazonのKindle Fireや中国で売られている安いTablet (Google Playに接続できない)を含めていたのかも知れません。そうしないと「10%強のシェア」というのはとても自慢できるような数字ではありません。

そこで北アメリカ限定のデータですが、Chitikaがタブレットのウェブ使用シェアのデータを公開していますので、これを確認します。ここではiPadが全体の84.3%となっていますので、仮にiPad以外のタブレットがすべてAndroidだとして15.7%がAndroidタブレット(Amazon Kindle Fireを含む)のウェブ使用シェアになります。それに対して、Google Nexusは1.2%の使用シェアですので、Google Nexus/Androidタブレット(+ Kindle Fire) = 1.2/15.7 = 7.6%となります。一方Amazonを外すと 1.2/(15.7 – 5.7) = 10.2%となります。この数字が世界の他の地域を代表することはないでしょうが、Sundar Pichai氏の言葉とぴったり合うのは興味深いです。

またIDCの推測によると、3Q12-1Q13でiPad, Amazon以外のタブレット(大部分はAndroid)は62.8 million売れたことになっています。Google Nexus 7がその10%となると6.3 millionになりますのでBenedict Evans氏の数字と合ってきます。

なおAppleは3Q12-1Q13に54 millionのiPadを売っています。Appleのデータは実際に四半期ごとに公開しているデータですので、推測する必要がありません。

まとめ

Nexus 7が2012年7月の発売以来に売れた台数はおそらく6-7millionの間と推測されますが、先日のGoogle Sundar Pichai氏が紹介したactivation数を見る限り、もっと少ない可能性もあります。

おそらくNexusシリーズの中で一番成功したのはNexus 7です。スマートフォンのGalaxy NexusもNexus 4も大して話題になりませんでした、ましてやNexus 10は…。それがこの程度というのはあんまり良い状態ではありません。

Sundar Pichai氏が「Androidタブレットの中で10%今日のシェアを獲得した」をどうして誇らしげに紹介したのか。本来なら隠したくなるような数字ではないか。そのあたりが気になります。

GoogleはやはりAndroidに注力しなくなっているかも知れない

一月弱前に、「Androidの次期バージョン 4.3 から示唆されること」という書き込みで、GoogleがAndroidの開発スピードを落としている可能性に言及しました。

そしてこれが戦略的に意図して行っているものと考えました。その戦略は

  1. Androidが一番魅力的なOSである必要はない
  2. Androidの役割は「まだスマートフォンを買っていないユーザ、高くて買えないユーザを狙う」こと

ただしこれを実行したとしても、Googleが期待する広告収入の増大は簡単ではないと解説しました。

今日、7月24日のGoogleのPress Eventを聞いた後に書かれ、“Understanding Google”と題されたBen Thompson氏の記事を読みました。その中で以下のように彼はこのように述べています。

  1. Google isn’t that interested in phones anymore.
  2. Google is worried about the iPad dominating tablets.
  3. Chromecast is an obvious product.

スマートフォンについては私とほとんど同じ視点です。Androidに残されているのはローエンド機への対応だけです。

タブレットについては確かにGoogleは努力を継続しています。うまくいかないからです。

そしてChromecastのような製品はGoogleが無視できない市場です。Androidスマートフォンの成長ポテンシャルは主に途上国市場ですが、そこからは大きな収益が見込めないからです。Googleは途上国だけでなく先進国でも成長したいのですが、そのためにはスマートフォン以外のデバイスもカバーしないといけません。Chromecastはそういう製品です。

こうやってGoogleのAndroid、Chromeの戦略がはっきりしてきています。Andy Rubin氏がAndroidを担当していたときは戦略の一貫性が感じられませんでしたが、Sundar Pichai氏に代わってからは一貫性があります。

Google自身はこの戦略で問題はないと思うのですが、課題はSamsung、HTC、ソニーなどでしょう。iOSがiOS 7の登場で加速しつつあるいま、GoogleなしでSamsungらはハイエンドでAppleに追いつけるのか。かなり厳しい感じです。