Google Glassの用途って、イヤホンで十分?

Clayton Christensen氏は”Jobs to be done”の視点でイノベーションを考えることを近年力説しています。

Steve Jobsは、新しいカテゴリーを作るためには、いくつかの重要な用途で既存製品よりも優れている必要があると語っています。

Google Glassが成功するか否かを判断する上でもこの視点が重要でしょう。つまり利用者はGoogle Glassによっていったい何が便利になるのか、利用者は何のためにGoogle Glassをかけるのかという視点が大切です。

Drew Olanoff氏はTechCrunchの記事の中でこの点に触れています。

Glass isn’t a replacement for your cell phone, since you have to pair the device with the one you have for cellular or Wi-Fi coverage. It’s not a device for watching movies or YouTube videos and it’s not going to replace your computer. You won’t be able to read full search results on the tiny screen, but you’ll be able to get to really relevant information quickly.

For example, how many times a day do you pick up your phone to check the time or to see if you have any missed calls or text messages? I couldn’t count the times that I’ve wasted that arm motion. Furthermore, every single time you take your phone out, you’re telling the people that are around you that you have no interest in interacting with them for at least 30 seconds while you dive into your phone. Now, am I saying that having a screen above your eye is any less socially awkward? No. But it lets you access the same information quicker without having to stop what you’re doing.

It all goes back to the developers, though. They have the minds to push Glass forward as not just a geeky novelty, but as a platform to enhance our lives. I’m not going to sugarcoat it — this product has a lot of bumpy roads ahead of it. We have to assume that there are developers who can come up with big ideas, that consumers are ready for it and whether it can be at a price point that middle-America can afford.

Olanoff氏が言うには、たいしたアプリが無い現時点では、スマートフォンをいちいち取り出すよりはGoogle Glassを覗く方が楽で、逆にこれぐらいしか用途がないそうです。つまり「通知」の役割です。もちろんいろいろなデベロッパーが革新的なアプリを開発してくれればそれは変わるでしょうと。

これといった新しい用途が見つからず、依然として「通知」しか用途が無ければ、何もGoogle Glassである必要はありません。Bluetoothのイヤホンとスマートフォンの「通知」を連携させる仕組みが必要なだけです。

果たしてGoogle GlassのKiller Appは現れるのか?昔のApple IIにとってのVisiCalc、MacintoshにとってのDTPのようなものは出てくるのか?

VisicalcがApple IIで成功したのは、廉価なフロッピードライブがあったのはApple IIだけだったからです。DTPがMacintoshで誕生したのは、完全なビットマップディスプレイがあり、フォントが自由に使えたりしたのがMacintoshだけだったからです。すばらしいアイデアを持った優秀なソフトウェアデザイナーはいつの時代もいますので、Killer Appが誕生するためには、そのデバイスが何か革新的な何かを持っていなければなりません。

Google Glassだからこそできる何かとは何か。イヤホン以上のことをやるのであれば、当然それはディスプレイに関係しなければなりません。しかし今の世の中はディスプレイでありふれています。Killer Appの余地はかなり狭いように感じます。

Chromebook的戦略がうまくいく条件を考える

Chrome OS, Chromebook, Firefox OSはいずれもブラウザを中心としたOSで、アプリは原則としてブラウザの中で動きます。

今のところChrome OS戦略は全然うまく行ってなさそうですが(1, 2)、どうすればうまくいきそうかを少し考えます。

いくつかの重要な用途で、既存の製品の上を行かなければならない

「新しいカテゴリーの製品が成功するためには、いくつかの重要な用途で既存の製品に勝る必要があります。」これはスティーブ・ジョブズ氏がiPadの発表のキーノートで語った言葉です。

Chrome OSのようにブラウザを中心に据えたOSならば、まずは当然ウェブブラウズが既存の製品よりも優れていないと話になりません。

でもそのような話はあまり聞きません。

既存製品ではカバーされていないローエンドを狙う

「既存の製品の上を行かなければならない」というのは、既存製品を既に持っている顧客に売り込むのに必要な戦略です。もう一つのやり方は、既存製品をまだ所有していない潜在顧客を狙うやり方です。この場合はローエンドを狙うことになります。

ローエンドの狙い方は2つあります。なぜならば、既存製品を所有していない理由が2つあるからです。

1つは価格が高すぎるから所有していないケース。もう1つは使いこなせないから所有していないケースです。

したがってローエンドを狙うには以下の方法があります。

  1. 明確に安い価格を設定する。
  2. 徹底的に使いやすくする。

ブラウザを使ったUIは残念ながら使いやすくなることがほとんどありません。ブラウザの中で動かすというのはUI的には大きな制約になります。ほぼ必ず、UIはネイティブアプリに劣ります。したがって2番目の「徹底的に使いやすくする」というのはうまくできません。

したがって残るやり方は1番目の「明確に安い価格を設定する」です。

「明確に安い価格を設定する」にはどうするか

既存製品よりも明確に安い値段を設定するためには、機能を省くしかありません。機能を省きつつ、顧客が大切だと感じるものは残すことが必要です。しかも単純に引き算するというのであれば、既存の製品のラインアップの中で行われているはずです。したがって何か革新的なぐらいの機能の省き方が必要です。

Chrome OS的なブラウザ中心のアプローチがこのような革新的な機能省略を可能にしてくれるかどうかがポイントです。

Chromebookの場合、このような省略の試みは特に見られません。ブラウザ中心ならハードディスクがいらないのではないかと想像できますが、ChromebookはすべてハードディスクやSSDを搭載しています。Chromebookが何か大きな機能省略、コスト省略を可能にしない限り、勝ち目がありません。

Firefox OSは、ブラウザ中心にOSの階層構造を考え直すことによって、より低スペックのデバイスでも十分な性能が出るとしています。これが実現すれば、明確に安い価格設定が可能になるかも知れません。ただし現状では実現可能性が未知数です。

まとめ

ブラウザ中心にすることで、何が省略可能になるか。どのような革新的なコスト削減が可能になるか。

これがはっきりしていればブラウザ中心のOSの勝ち目があり、これが曖昧なら絶対に勝てない。そんな状況だろうと思います。

GoogleのNexusが売れていない

GoogleのNexus 7を中心に、GoogleのNexus戦略はあまりうまくいっていなさそうだという話をこのブログで何回かしています。要するに話題性とは裏腹に、Nexus 7はあまり売れていなさそう(使われていなさそう)なのです。

  1. 北米における2013年2月のタブレットの使用統計
  2. タブレットにおけるAndroidの追い詰められた現状

さらにそれを裏付けるデータが、Googleが公開しているデータの分析から明らかになりました。

Nexus tablet sales: not many

もうかなり間違いないです。Nexusはあまり売れていません。

Chromebookは今どれだけ使われているのか

Chromebookは一番うまくいってもNetbookと同程度にしかならないということは以前にこのブログで書きました。

GoogleはChromebookの売り上げやChrome OSがどれだけ使用されているかについて全くデータを公開していませんが、NetMarketShareが最近、ChromebookのWeb使用統計を分析し始めたようです。

まだChromebookの使用率があまりにも低くて、NetMarketShareが一般に公開しているレポートには登場しませんが、NetMarketShareの広報の人が一部を公開したそうです。

For the week of 4/8 – 4/14, ChromeBook has 0.023 percent weighted worldwide usage. Because it rounds to less than 0.1 percent it’s not showing up in our reports.

同様のデータはStatCounter GlobalStatsからも公開されています(USのデータ)。グラフには出てきませんが、CSV形式のデータをダウンロードするとChrome OSのデータが出てきます。

数字は違いますが、Chrome OSのシェアが非常に少ないのは同じです。なおここのiOSとかAndroidのデータはスマートフォンを除いたタブレットのデータです。

Chrome OSがあまり使われていないというのは十分に想定されていたことですので、特に言うことはありません。ただ、GoogleがChrome OSという方向性を追求し続けているのは事実ですので、今後どのように展開しようとしているかは興味深いです。

Operating System Share(%)
Win7 55.49
MacOSX 11.37
WinXP 10.95
WinVista 9.16
Win8 5.07
iOS 4.87
Linux 1.11
Android 1.01
Win2003 0.49
Playstation 0.16
Unknown 0.14
Chrome OS 0.05
Nintendo 0.03
Win8 RT 0.02
Win2000 0.02
webOS 0.02
BlackBerry OS 0.02

日立のV字回復に見る、アジア新興工業国に負けない日本の製造業の姿

2009年に国内の製造業で過去最大の赤字を計上した日立がV字回復しています。

ポイントはいろいろありますが、私が注目しているのは以下の点です。

  1. 社会インフラ関連に近いグループ会社は本体に近づけ、そうでない会社は遠ざける
  2. 携帯電話、液晶、ハードディスク、テレビ事業などを売却あるいはそこから撤退
  3. 「米GE、独シーメンスと互角に戦えるインフラ企業になる」

なぜそこに注目するか。簡単に紹介します(いつかもっと詳しく書きたいと思っていますが)。

  1. 日本の電機メーカーが苦しんでいるのは、アジア新興国が十分な品質の安い製品を製造できるようになったため。
  2. 日本のメーカーが得意なのは「過剰品質」とも言われるほどの高い技術力。ただしそれを必要としないぐらいに電子技術が発達した。
  3. メーカーが一番の強みとする技術は、その会社が成長した頃に使われていた技術。日本の電気メーカーはアナログ的なもの。今のアジア新興メーカーはデジタルなもの。したがって日本の電機メーカーは総じてアナログ的なものに強みがある。
  4. 一般消費者は「過剰品質」の使い道がない。しかしB to Bの場合、非常に品質の高い設備を用意することによって、具体的な競争力であるとか収益を上げていくことができる。「過剰品質」は消費者向けには無用だが、ビジネスやインフラ向けには価値がある。

私は日本の既存の電機メーカーがデジタルで新興アジアメーカーと戦うのは基本的に負け戦になると考えています。特に消費者向け製品では価格競争に巻き込まれるだけです。

日本の古い電機メーカーがやらなければならないのは、「過剰品質」が重視されるビジネス・医療・インフラなどの市場で、アナログ的な電子技術が依然とした活躍している分野の製品を提供し、そこにフォーカスすることです。

これが私の考えです。

こう考えると、家電のエコポイントというのは全くばかげた政策で、日本の電機メーカーに誤った経営判断をさせる政策に思えます。大切なことは、日本の古い家電メーカーにデジタル家電をあきらめさせることです。

人事の罠:アップルストアを大成功させたロン・ジョンソンはなぜJCペニーで大失敗したか

アップルストアを成功させたロン・ジョンソンが、百貨店大手JCペニーのCEOを17カ月で解任されました。売上高が25%落ち込み、株価が57%下落するという惨憺たる結果でした。

結果論は参考にならない

どうして彼が失敗したか、ウェブ上には様々な議論があります。ただしすべて結果論です。結果論は誰でも言えます。そして自然科学では予測が重視されていることからもわかるように、結果論をいくら並べてもなかなか真実には近づきません。

例えばアップルの取締役も務めたビル・キャンベル氏は「過去にどこで働こうと、製品を移行するときには、どうやってマイナス面を制限するか常に考えるものだ。彼はまったくそうしなかった」と述べています

このブログ記事にはウェブ上のいくつかの意見をまとめています。

  • 「CEOの経験はなく、ファッションやアパレル事業の知識は限られたものでした」
  • 「どんな人がJCペニーで買い物をして、何を求めているのかという理解がありませんでした」

結果論から得られるものはありません。

ロン・ジョンソン氏はいったい何をしたのか

それではいったいロン・ジョンソン氏はJCペニーで何をしたのでしょうか?以下にいくつかの記事から結果論的な記述を無視し、事実だけを取り出してみます。

Business Insiderの記事から。

  1. Johnson’s vision featured trendier brands and a more intimate boutique-like shopping experience to replace their standard rows of overcrowded clothing racks.
  2. Ending discount sales

TUAWの記事

  1. Johnson attempted to mimic the same type of atmosphere that made Apple retail stores so successful – quality merchandise coupled with an elegant shopping experience.
  2. Johnson sought to do away with coupons, clearance racks, and sales events.
  3. Johnson attempted to incorporate designer boutiques into J.C. Penney stores.
  4. Johnson wanted J.C. Penney’s in-store boutiques to forgo cheaper options and use high quality and more expensive materials for shelving and signage.

USNews

  1. The company significantly cut back on the promotions that department store consumers have been accustomed to for decades.
  2. The lesson of the story is that, even though marketers love to hate promotions, unless you have a very highly-differentiated and premium product, they are extremely important. Promotions offer both monetary and smart-shopper appeal.

ここではっきりわかるのは、ロン・ジョンソン氏は自分自身の成功体験をほぼそのままJCペニーに当てはめようとしたということです。JCペニーをアップルストアと同じようにしようとしたのです。

アップルストアで大成功したことをJCペニーでもやろうとしたら大失敗した。それだけです。

人を結果論で採用するのは誤り

十分に情報を集めていませんが、私が強く思っていることを一つ紹介します。

過去にどれだけ成功したか、過去にどれだけ失敗したかで人の能力を測ることはできません。結果で人を計ることはできません。なぜかというと成功や失敗はその人の能力だけではなく、環境の優劣、あるいは環境との適合性、チャンスの有無などに大きく左右されるからです。したがって人を採用するとき、過去の成功・失敗で採用するのは誤りです。

その人が新しい職場に入ったときにどうなるか。その職場で成功するかどうか。予想できることは限られています。はっきりとわかるのは、その人が過去の成功体験や失敗体験を元に判断をし、行動を起こすということです。多少の修正はあるものの、基本的には今までと同じようなことを考え、同じようなことを行うだろうということです。人間は原則として過去の体験を元に行動をします。過去の成功体験を踏襲する癖があります。

その行動が新しい職場にマッチするかどうか。その判断の責任は採用する側にあります。

ロン・ジョンソン氏の場合、アップルストアが成功したから彼を採用したのであるとすれば、それは採用側の根本的ミスです。成功・失敗という結果論で採用するのは誤りです。

もしJCペニーをアップルストアのように変革したいと思ってロン・ジョンソン氏を採用したのであれば、採用としてはそれは正解です。問題はそもそもの戦略です。アップルストアのように変革したいという戦略そのものが正しかったかどうかが問われます。

エコノミストに許される議論の甘さ

経済学って本当に緩い学問だとつくづく感じます。

ものすごく甘い議論でも平気で許されてしまうし、少しも悪びれた様子がありません。

あくまでも一例ですが、第一生命経済研究所の主席エコノミスト、永濱利廣氏の『「異次元の金融緩和」で景気と生活はどうなる』という記事を見かけましたので、それを例に見ていきます。

「株価と企業の売上高が密接に連動しており、株価が上がってから概ね1四半期遅れて企業の売上高が伸びる傾向を見て取ることができる」

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永濱氏は「株価が上がってから概ね1四半期遅れて企業の売上高が伸びる傾向を見て取ることができる」としています。彼はいったいグラフのどこを見ているのでしょうか?

「景気が回復し企業の売上が増えてから所定内給与が増えるまでには3年かかった」

永濱氏は他にも謎の結論を出していますが、この最後のグラフと考察はもう希望的観測を越え、宗教の領域。心の目で何かを見ようとしている状態です。

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たぶん2005年のはじめにちょろっと給料が上がった時期を見て「企業の売上が増えてから所定内給与が増えるまでには3年かかった」といっているのでしょう。このグラフを見てもその因果関係は全く見えません。なおかつその1回の現象だけを根拠に、今回も3年かかるというのは乱暴な議論を通り越して、もはや根拠がない領域。

まぁ永濱氏が悪いというよりは、このレベルの子供だましが許されてしまうのが経済メディアの現状で、こいつらに経済を任せて良いのかと思うわけです。

もちろん経済学者がみんなこんな子供だましの議論をしているわけではなく、ちゃんと議論している人もいます。ちゃんとした相関を見て議論している人たちです。

永濱氏は株価が上がれば企業収益が改善し、企業収益改善から雇用改善・給料改善が起こるとしています。ただしいずれのステップも相関はかなり怪しいのですが。

それに対してSteve Keen氏はちゃんとした相関を元に考察しています

特に近年では株価と因果関係があるのはGDPではなく、企業業績でもなく、借金のレベルです。株価はレバレッジがどれだけ使われているかと一番相関があります。

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一つ重要なポイントがあります。Steve Keen氏のようにまっとうな分析をする人は半世紀さかのぼってデータを集め、分析をします。そうやってデータ点を増やします。それに対して永濱氏をはじめとした多くのエコノミストはたかだか数十年のデータで議論をします。永濱氏はこの点特にひどく、ここ10年のデータでごまかそうとしています。

エコノミストの多くは基本ができていないように感じます。

27種類のスクリーンサイズを提供するSamsung、4種類を提供するApple

NewImageSamsungが提供するAndroidデバイスは実に27種類のスクリーンサイズをカバーしています。これを紹介したDerek Kessler氏のTweetがTwitterで盛んにRTされました。

これに対してAppleのiOSは3.5, 4, 7.9, 9.7インチの4つのスクリーンサイズしかありません。

どっちの戦略が正しいのか、様々な議論があると思います。しかし忘れてはならないのは、Appleも昔は目もくらむほどの多数ので製品を販売していたことです。

Everymac.comには過去に販売されたMacの情報がすべてアーカイブされています。Steve Jobs氏が復帰する前の1996-7年頃には、デスクトップだけでも以下の製品ラインがありました。

  • Macintosh Performa 5260, 5270, 5280, 5400, 5410, 5420, 5430, 5440, 6410, 6400, 6420
  • Power Macintosh 4400, 5260, 5400, 5500, 6300, 6400, 6500, 7200, 7220, 7300, 7600, 8500, 8600, 9500, 9600

それをバサッと整理して、有名な4製品グリッドに絞ったのです。

近年のマーケティング戦略に関する本を読むと、顧客の趣向が多様化し、多品種少量製品が重要になってきているという主張が多いのではないかと思います。1990年代のApple社は、当時の競合他社と同じようにこの戦略を採っていました。Samsungの現在の戦略もこれを継承しているように思います。

NewImageSteve Jobs氏の戦略はこの真逆でした。思いっきり製品を絞り込んで、少数の製品にフォーカスしました。しかも興味深いことに、一般的なマーケティングでは真っ先に登場する「予算」という切り口は使わず、プロフェッショナルとして使用するのか、およびノート型かデスクトップ型かの2つの切り口しか使いませんでした。

Appleが成功し続けるためにはより大きな画面をもったiPhoneが必要だとか、低価格のiPhoneを作らないと新興国市場で勝てないという外野の意見はますます大きくなっています。しかしAppleの幹部の多くはSteve Jobs氏が4製品グリッドを導入した時期も経験しています。製品が多すぎてフォーカスを失い、死にかけたApple、そして製品ラインを4つに絞り込んで復活を遂げたAppleを知っています。

Appleは別に宗教のように少数の製品にフォーカスをしているのではありません。それほど遠くない昔には多品種少量生産をし、そして臨死体験をしたのです。Appleは実体験に基づいて、少量多品種の危険性を知っています。そう、たぶんSamsung自身よりも。

Gmailの9年を振り返って、Google型のイノベーションの特徴を考える

Gmail Infographic GMailが9周年を迎えたということで、その軌跡を振り返ったポストがありました。

Gmail: 9 years and counting

以前に私はこのブログで「AppleとGoogle, Amazonのイノベーションのおさらい」と題した記事を書きました。その中で最初のGoogle検索を除けば、以後のGoogleのイノベーションは『「十分」なものを無償化するというイノベーション』ばかりであると述べています。

つまりアイデアは古いものを使い、新しさは無料だということ。ほとんどそれだけ。

ここでは本当にそうなのかどうかをInfographicを眺めて検証します。ざっと見たところ、GMailの進化は以下のポイントに要約されます;

  1. 「無料のものとしては…」という改善。
  2. カレンダー、チャット、ビデオチャットなど、他のサービスのバンドリング。
  3. 「Webベースとしては…」という改善。デスクトップアプリケーションでは当たり前の機能をWebで実現する改善です。

技術的には難しいものはもちろんありますし、ビジネスモデル的には新しい面があります。しかしアイデア的にはこれといったものがありません。

「有償なもの」「他の既存のサービス」「デスクトップアプリで実現されている機能」との単純な比較からインスピレーションが得られるものばかりです。

以前におさらいしたとおり、GMailもまた『「十分」なものを無償化するというイノベーション』でした。こういうイノベーションは世の中にとってはあまりありがたくないんですよね。Clayton Christensen氏の言葉で言うと、これらは効率化イノベーション (Efficiency innovations)。経済を縮小させるイノベーションです。

Facebook Homeが流行るかどうかを考えてみる

Facebook Homeが発表されました。

見た感じ、特にデザイン的な完成度が非常に高そうで、興味をそそられます。

ただしネットを見ていると大部分の技術評論家たちは懐疑的な意見を述べていて、その主たる根拠は「俺の生活はFacebookだけじゃない」のようです。まぁ技術評論家の生活スタイルおよびFacebookの使い方は一般人とは全然違いますので、彼らの意見が正しいと考える理由はこれっぽっちも無いとも言えます。

このような製品が成功するかどうかを予想する上で大切なのは、マーケティングの4Pで言うところのProduct(製品)ではなく、おそらくPlace(流通)とかPromotion(プロモーション)だろうと思います。なぜかというとFacebookは非常にユーザ数が多いので、流通やプロモーションの切り札がたくさんあるからです。

例えばこの記事にも書いてあるとおり、FacebookやFacebook Messengerがインストールされていれば、Homeの通知がきます。ほとんど製品アップデートのような感じで通知が来ますので、大部分のユーザがアップデートと誤解してインストールするのではないかと私は予想しています。

非常に普及が早いアップデートの例

アップデート通知の威力、浸透力の強さはiOSで証明されています。例えばiOS 6.1の浸透度を調べたChitikaの調査によれば、iOS6.1は公開からわずか2週間で50%のデバイスにインストールされました。アップデートの通知が目立つように表示され、そこから数タップでアップデートが完了してしまうという手軽さは非常に効果的で、Place(流通)やPromotion(プロモーション)としては驚異的な威力を発揮することがわかります。

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製品の評判が良くても普及しない製品の例

それに比べて、製品がどれだけ技術評論家の間で評判が良くても、プロモーションの仕組みがしっかりしていなければ全くダメな例もあります。その好例がAndroid用のChromeブラウザです。

同じChitikaのデータで、Androidユーザの間でのChromeの普及率が著しく低いことを示しているデータがあります。

2012年9月のデータによると、Android OSユーザのわずか2.34%だけがChromeブラウザを使用していました。デフォルトのAndroidブラウザが91.26%でしたので、Androidブラウザ使用者の1/38しかChromeブラウザに切り替えていない計算になります。

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StatCounterのデータを使ってUSの直近2週間を調べても、Chromeブラウザの使用率はAndroidブラウザの使用率の1/13です(全モバイルブラウザのうち、Androidブラウザが36.78%、Chromeブラウザが2.93%)。またグラフは示しませんが、StatCounterで全世界のデータを取っても、やはりChromeブラウザの使用率はAndroidブラウザの1/14しかありません。

StatCounter mobile browser US weekly 201312 201313 bar

ChromeブラウザはAndroid 4.0以上じゃないとインストールできないというハンディがありますが、GoogleによるとAndroid 4.0以上の普及率は54.3%ということですので、上述の数字と合わせると、Android 4.0以上に限定してもChromeブラウザの普及率はAndroidブラウザのたった1/7という結果になります。

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どう見てもChromeブラウザの普及率は悲惨な状態です。

アップデートと新製品の違い

iOSのアップデートとChromeブラウザの普及率がこれほど開いた理由は製品の善し悪しではありません。少なくとも技術評論家の間の評判でいえば、Chromeブラウザは絶賛され、一方iOSのわずか0.1のバージョンアップは大して話題になりませんでした。

違いはアップデート、つまり「通知」が送られてくるものであるか、あるいは別の製品であるかにあります。

iOSの場合はアップデートです。インストールの精神的ハードルが低く、「通知」が来てからわずか数クリックでインストールが完了します。

それに対してChromeブラウザは別製品です。インストールの精神的ハードルはかなり高く(技術評論家にとってはインストールの敷居は低いのですが、一般人にとっては意外と高いものです)、手間もかかります。

アップデートか新製品かということで、雲泥の差があります。

Facebook Homeは新製品だけど、アップデートと同じプロモーションの仕方をしている

さてFacebook Homeに戻ると、これは明らかにアップデートのプロモーションスタイルです。もちろん大がかりな広告やプロモーションはするのでしょうが、一番威力を発揮するのは「通知」です。ほとんどの人はFacebook Homeを単なる製品アップデートだと思ってしまうでしょう。ですからあっという間にものすごい普及率になりそうです(ただインストール可能なスマートフォンの機種を絞っていますので、それは考慮しないといけません)。

Facebook Homeのできが良いか悪いかは、一端インストール後にどれだけのユーザがFacebook Homeを外すかに影響しますが、最初のインストール数にはあまり関係がないはずです。つまり技術評論家の意見は普及率とは無関係です。

Facebook Homeの破壊力

Facebook HomeはAndroidの乗っ取りです。Facebook HomeをインストールしてもGoogleのアプリは使えます。しかし主従関係は逆転します。Facebookが主でGoogleが従になります。

Facebook Homeのコンセプトは他社でも真似ができます。Twitterでも同じことができますし、Amazonだって似たことができるはずです。Android上の単なる1アプリとしての存在では無く、また1ウィジェットとしてでは無く、ランチャーを乗っ取ることができます。

Facebook Homeの破壊力は、他社でも簡単に真似られることです。Androidはウィジェットという仕組みを提供していますが、それでは不十分だというところは今後Facebook Homeのようなランチャーを出してくるでしょう。ランチャーの奪い合いというすさまじい戦いがAndroid上で繰り広げられる日が近いかも知れません。

まとめ

Facebook Homeが普及するかどうかはその製品コンセプトの善し悪し、あるいは技術的なできの善し悪しとはほとんど関係がありません。むしろ「アップデート」を装うというプロモーション戦略の方が圧倒的な影響力があり、Facebookアプリのインストール率が極めて高いことを考えると、Facebook Homeがかなり普及すると予想できます。

またランチャーを乗っ取るという戦略はFacebook以外の他社も真似られる戦略です。これに対してGoogleが何らかの制限をかけて、防御に回る可能性があります。そうしないとAndroidランチャーの陣取り合戦が始まるかも知れません。

最後に、Facebook Homeは「Googleばなれ」のトレンドを加速させます。いままではSamsungやHTCに代表される携帯メーカーの「Googleばなれ」が見られましたが、サービスプロバイダー側の「Googleばなれ」は新しいトレンドとなる可能性があります。2013年は「Googleばなれ」が顕著になるというのが私の予想ではありますが、想定以上の早さでこれが進んでいるという印象を強く受けます。