マーケットリサーチについて思うこと

アップル社のスティーブジョブズはアップルではマーケットリサーチはやらないと断言しています(“Steve Jobs speaks out” Fortune 2008)。

自動車のフォード社を設立したヘンリーフォードは「顧客に何が欲しいかって聞いたら、きっと『もっと速い馬』って答えただろう」と語ったと言われています。

顧客が欲しがっているものを調査してもイノベーションは生まれません。普通にマーケットリサーチをしても生まれません。こんなことをしても、顧客の表面的なニーズが分かるだけというのがほとんどです。イノベーションのために大切なのは、顧客が抱えている問題点、ニーズ(顕在化しているものも、顕在化していないものも)を深いレベルで理解することです。

先日ライフサイエンス研究試薬メーカーの方とお話をして、このことを思い出しました。

そのメーカーの方が言うには、自社で研究者のウェブ利用調査をしたそうです。そしてその結論の一つとして、バイオの買物.comを含めた製品ポータルサイトは利用しないし利用する気もないということだったらしいです。Googleを使って製品を検索する場合でも、検索結果のURLを見て、メーカーの純正サイトを選ぶとのことでした。私がバイオの買物.comを運営していることはもちろんご存知でしたので、とても申し訳なさそうな言い方をしていました。

しかし申し訳ないことは何もないのです。そのメーカーが行ったウェブ利用調査の結果は全く予想通りですし、私も同じように感じています。私の目指していることはこの状況を変えることであって、すでに多くの研究者が製品ポータルを利用しているのであれば、私がいまさら新たにやることはないとも言えます。

少なくとも私が4月に公開した「まとめてカタログ」以外の既存の製品ポータルサイトはハッキリ言って全く不十分です。このことについて私はこのブログで何回か言及しています。a) 網羅的ではない(重要なメーカーが抜けている) b) カテゴリー分けがされていない c) ほとんど価格が掲載されていない など、どれも重大な欠点を抱えていて、研究者が信頼して使うには至っていないのです。そんな状況ですので、マーケットリサーチをやったときに「ポータルサイトは使わない」という結果になるのは当然なのです。願わくば「まとめてカタログ」が研究者にとっては有用で、いままでの考え方を変えさせるものであればうれしく思います。

イノベーション、少なくとも破壊的なイノベーションというのは技術力云々の問題ではなく、顕在化していなかったニーズを如何に満たすかということです。顧客が夢の中でこそ想像はしていても、現実になることを期待していなかった製品を世に出すことです。マーケットリサーチというのは顕在化しているニーズを知るには有効な方法ですが、顕在化していないニーズを拾うことはなかなかできません。だからイノベーションはマーケットリサーチからは生まれないのです。

「まとめてカタログ」が目指しているものは理想の形としてほとんどの研究者の頭にあると思います。研究にマッチした製品を、メーカーを問わず簡単に探せるウェブサイトがあれば、それは便利に決まっています。しかしライフサイエンスという製品数がめちゃくちゃに多く、市場規模も決して大きくない市場で、そこまでの労力を投じる会社なんてあるはずがない。そう思ってしまうとそのニーズは諦められ、顕在化しなくなります。だから「ポータルサイトは使わない」という調査結果になるのです。

iPadが市場に投入される前にも「タブレットPC」は発売されていて、マイクロソフト社などは10年前から売り続けています。でもビルゲイツの期待に反して、大して売れていません。もしiPad発表以前に「タブレット型PCは欲しいですか?」というマーケットリサーチをしたとしたら、ほとんどの人は「いらない」と答えたでしょう。でも実際にiPadが発売されると、バカ売れしました。iPadは既存の「タブレットPC」の概念を書き換えたからです。

同様に「まとめてカタログ」では、ライフサイエンス研究製品ポータルサイトの概念を書き換えたいと思っています。だからマーケットリサーチの結果はあまり気になりません。研究者を長く経験した自分の感覚を信じ、自分の問題解決能力をフル回転させ、多くの人が諦めてしまったようなサイトを現実化するのが私の目標です。

そんな気持ちを強く持ち、がんばり続けたいと思っています。

ウェブサイトの「検索」の横に、ボタンは本当に必要か?

いま作っているウェブサイトは検索機能がかなり重要になってくるのですが、とても気になっているのがキーワード欄の横にある「検索」のボタンです。

ウェブサイトでは大きな「検索」ボタンが一般的

ウェブサイトでは一般的に明確な「検索」ボタンをキーワード欄の横に配置しています。

Yahoo
Yahoo.png

Google
Google.png

Amazon
amazon.png

しかし、今時の利用者はあまりこのボタンを押さないのではないでしょうか?「検索」ボタンを押さなくてもリターンキーで代用できますし、キーボードから手を離してマウスを動かす必要もありませんので、リターンキーの方が断然便利です。それでも「検索」ボタンを目立つようにさせているのは、いったいどういう理由なのでしょうか。

「検索」ボタンが目立たないウェブサイトも出てきた

「検索」ボタンを目立たなくさせたり、完全に無くしてしまっているデザインもあります。

Twitter : 「検索」ボタンは右の虫眼鏡マークです。
Twitter.png

Mobile Me:「検索」ボタンが無くなっています。
mobile me.png

Mobile Meの場合は、Mac OS XのSpotlight以来のデスクトップアプリケーションで使われているデザインを踏襲しているようです。

Spotlight
spotlight.png

Apple Mail.app
Mail app.png

それで、僕はWindows 7を持っていないので確実ではないのですが、Windows 7の検索もSpotlightと同様に「検索」ボタンが目立たなくなっています。

Windows 7
Windows7.png

ちなみにWindows XPは検索ダイアログボックスが出てきて、立派な「検索」ボタンがあります。

Windows XP
windowsXP.png

今後はどうなるでしょうか

Google suggest (http://www.google.co.jpの検索窓に「夫[スペース]」と入力すると一番上に「夫 嫌い」とか「夫 死ね」と出る衝撃的なやつ)のように、検索窓に言葉を入れている途中でも、なるべく早く候補を表示する仕組みはかなり流行ってきています。Mac OS Xのソフトではこっちの方が標準になりつつありますし、Windows もそうでしょう。その結果、「検索」ボタンを押さなくても検索実行を開始する方法が多くなりました。ですから「検索」ボタンというのはだんだん不必要用になっていますし、単に場所をとっているだけになってきた気がします。

ウェブからも徐々に「検索」ボタンは無くなっていくでしょう。まぁYahooとかGoogleとかの場合は検索がメインなので、検索UIを目立たせるために、無駄でも「検索」ボタンを大きく配置し続けるかもしれませんが、朝日新聞などのようなサイトが「検索」ボタンを目立たせる必要はも無いと思います(虫眼鏡アイコンの方が場所をとらない)。

僕はと言いますと、まだどうしようか悩んでいます。でも無くても良いとは思います。少なくとも検索条件をたくさん入力しなくても良い場合は、「検索」ボタンを無くしていくと思います。

ライフサイエンス分野での携帯ねたの続き

まだ気になって、考えてしまっています。他の仕事をしないといけないのにもかかわらず。このブログを書いて、区切りにしようと思います。

そもそも、どうしてもこんなに気になってしまうのだろうとも考えてしまいます。おそらくは、携帯電話の使い方については世代間や性別間のギャップがありすぎるからだと思います。いろいろな意味で中年の僕にとって、携帯サイトというのは実感として全く理解できない世界なのです。携帯サイトについて勉強したり人に聞いたりしても、自分の実感に照らし合わせたとき腑に落ちないのです。ですからいつまでも成仏できない幽霊のように、僕の頭の中で考えがさまよっているのでしょう。

勉強してみた結果、考える上で大切だと思えるポイントがいくつかありました。

くつろぎの時間に使われることが多い

佐野正弘さんという方がMarkeZineに掲載している記事が非常に参考になりました。まずは携帯が使用されるのは移動中よりも自宅がメインという記事です。もう、実はここから既に僕の実感とデータが乖離してしまっています。PCサイトヘビーユーザについては移動中に携帯電話を使用することが多いということなのですが、逆にPCサイトのライトユーザでは自宅でくつろいでいる時間、特にテレビを見ているときに使うことが多いというのです。しかもテレビで見た製品を、直感的に、一点買いすることが多いというのです。

これをライフサイエンスのマーケティングに当てはめますと、以下のことが言えるかと思います。

「キャンペーンのチラシにはQRコードをつけて、携帯サイトと連動させた方が良い」

どういうことかと言いますと、メーカーが研究者にまき散らしている(もとい、配布している)チラシはお茶机付近においてあって、休憩でお茶を飲むときにチラチラ見ることが多いかと思います。これは研究室にいるとはいえ、家でテレビの前でくつろいでいる状態に少しは近い場面です。もちろんチラシには十分に内容を書いているつもりかもしれませんが、QRコードをチラシにつけて、追加の情報を携帯サイトから見られるようにすると面白いかもしれません。

最低でも、レスポンスがどれぐらいあったかを把握することはできるでしょう。PCのサイトはチラシを配布しなくても訪問者が多く、効果測定をする目的ではノイズが高くなってしまいます。またチラシを見た人がわざわざ自分のデスクに移動してURLを打ち込むことに比べれば、QRコードを読み取る操作は簡単です。ですから高いS/N比でチラシの効果を測定できると僕は思います。

じっくり調べるより、思ったときにすぐに決める

これも佐野正弘さんの同じ記事に書いてあった内容ですが、PCのショッピングサイトの場合はまとめて5商品を購入する利用者が多いのに対して、携帯サイトの場合は1, 2商品が圧倒的に多いそうです。また、思い立ったときにすぐに起動できるという特徴も大きいと佐野さんは述べています。そういった特性を考えると、高額の商品を買ってもらうよりも、既存顧客のファン意識を高めるために利用するのが良いとも述べています。

ということは、製品を購入してもらうよりはもうちょっとユルいことに向いていると考えていいかもしれません。

例えばメルマガへの登録というアクション、セミナー参加というアクション、資料請求というアクションなどは無料でできるものばかりなので、潜在顧客が思いつきでやれてしまうものです。携帯サイトはこういうことに強みを発揮するのかもしれません。そしてアクションを起こしてもらうきっかけとして、キャンペーンチラシにQRコードをつければ良いのだろうと思います。

つまりマーケティングの流れとしては、1) キャンペーンチラシに、対象商品説明とは別に、資料請求やセミナー、メルマガ登録をするためのQRコードを載せておきます 2) こうやって、潜在顧客との関係をリフレッシュします 3) その関係を維持拡大し、将来の購買につなげます。

まとめ

画面が小さくて情報が載せられないなど、一見すると研究者向けのマーケティングにあまり活用できなさそうな携帯サイトではあります。しかし、まだ全く開拓されていないアイデアが多いような気もしてきました。

携帯サイトが活用されていけば、研究者がくつろいでいる時間に企業と顧客の関係作りがされていくようになるかもしれません。それができれば、とても良い方向だと思います。

ライフサイエンス分野での携帯サイトについて考えてみた

このポストを書いた後、携帯サイトの認証について勉強しました。とてもややこしいですね。そのため、本ポストに書いてあるPCサイトと携帯サイトの連携は、よく考えなければならないし、ちょっと面倒な気がしてきました。でも方向性としては必要だと思います。

ライフサイエンス分野で抗体の販売に関わっている友人が携帯サイトに興味を持っていましたので、先週末、試しに製品カタログの携帯サイト版を作りました。僕自身は携帯サイトをほとんど利用しませんし(今はもっぱらiPhoneで、その前はメールだけ)、ライフサイエンス分野で使えるかどうかについて考えたことほとんどありませんでした。でも少し考えてみると何となく面白そうな気がしてきました。以下、思いついたことをランダムに書き記します。

とりあえず思いついたサイトのアイデア

  • 単語や略号を調べるサイト:例えばLife Science Dictionaryや統合DBプロジェクトの辞書的なものに携帯からアクセス。携帯で単語を入力するのは面倒なので、その辺りは工夫があるといいですね。電車の中で論文を読んでいるときに便利そうな気がします。
  • 論文チェックサイト:気になった論文をすぐに調べたり(アブストだけでも)、PCで後で読めるようにブックマークするサイト。暇だけど、論文をしっかり読むほど時間(気力)が無いとき、論文チェックだけするのに便利かもしれません。
  • メーカーのオンラインカタログ:実際に製品を発注したりするときはオフィスのPCを使うだろうから、わざわざ携帯サイトを用意する必要はあまりない気もします。でもとても簡単に作れるので、PRとか話題性のためにメーカーが作るのは悪くないと思います。
  • メーカーの新製品とかキャンペーン、セミナー情報をチェック:携帯で気軽に読めるように整理しておけば、電車の中とか実験の合間の暇つぶしに読むかも知れません。これも後でじっくり読むために、PCとの連携が必要ですね。

PCサイトと連携したいね

上に書いた論文チェックサイトなどは、ヘッドラインとかアブストは携帯で読むにしても、最後には必ずPCでちゃんと読むことになります。ですから、携帯サイトではツイッターのfavorite機能「ふぁぼる」)みたいなものを用意して、後で簡単にPCで確認できることが重要だと思います。

はてなブックマークだとTwitterのつぶやきからブックマークできますので、そこのあたりに答えがあるのかなと思います。はてなブックマークのモバイル版でもうまく出来そうですが、もうちょっと見てみないといけません。

携帯サイトは作りやすいね

携帯サイトはいろいろとおかしな落とし穴も多いのですが、何しろ画面サイズが小さいし、使えるタグが少ないので、デザインはどうしても似たり寄ったりになります。でもこれはライフサイエンスの場合は好都合だと思います。

ライフサイエンスの場合に必要なのはあくまでも情報であって、デザインというのは本質的には重要ではありません。ただPCサイトの場合は、いろいろなことが可能なだけに、そして他社のサイトがデザインに凝っているだけに、どうしてもある程度は工夫しなければなりません。しかしその工夫の自由度が大きすぎるために、それぞれバラバラなことをやってしまい、くだらないことで使いにくくなっているケースが多い気がしています。かえって携帯サイトのように、自由度が狭い方が情報に集中できてよい場合があるのです。

これはライフサイエンスに限ったことではなく、例えば朝日新聞のiPhone用ウェブサイトを見ても感じます。PCを使っている場合でも、PCサイトよりiPhone用サイトの方が見やすいのです。余計な広告も無いですし。

データに集中できることは、もちろん制作者側にもメリットが大きいです。例えば極端なことを言えば、研究用試薬機器メーカーのカタログの携帯サイトを作るとすれば、ほとんど同じにならざるを得ません。携帯電話ユーザに向けて、数千の製品を効率よく見せるフォーマットは多くても数種類でしょう。ですから格安で作ることができます。

まとめ

今更感はするのですが、今まで思っていた以上に携帯を使ったライフサイエンスのサイトは可能性があると思いました。特にPCとの連携についてもうちょっと勉強して、今後提供していきたいですね。

“Dwarfs standing on the shoulders of giants”を手伝う仕事

独立してから2年、年初にもやもやを感じていました。そのもやもや感は、仕事の意義をちょっと見失いつつあることが原因ではないか。瞑想をして、そんな結論に達しました。そこで、その辺りの気持ちを整理するためにブログを書こうと思います。

僕がCastle104という会社を作って、バイオの買物.comを開発・運営している理由、そのミッションを書きます。

Dwarfs Standing on the shoulders of giants

Google Scholarの検索窓の下にもある言葉ですが、”Dwarfs standing on the shoulders of giants” (wikipedia link)は「過去の著名な思想家の仕事や研究を理解し、将来の研究を行うもの」を意味します。ニュートンもこの言葉を引用したとして有名です。

Google Scholar.png

僕はこの言葉が本当に好きだし、科学だけでなく、伝承が行われるすべての営み(生物の遺伝、社会科学、宗教、思想、商業活動など)の本質だと思っています。生物がこれほどまでに高度の進化したのは、ひとえに遺伝という仕組みのおかげであり、それはひとことで言えば子孫が「巨人の肩の上に立つ」ことを可能にする仕組みです。自然科学においてはさらに理論を厳しく検証し、客観的に正しいと結論できるもののみを伝承します。自然科学の発展を支えた大きな特徴は、「巨人の肩の上に立つ」ことはもちろん、誤って「小人の肩の上に立つ」ことをさせない厳しい実験的検証のディシプリンで、これは生物進化の自然選択に通じます。一方、社会科学も「巨人の肩の上に立つ」ということはやりますが、理論を検証することがおろそかにされてしまっているために、「小人の理論」がそのまま残ります。経済学者がバラバラなことを言うのはここに原因があると思います。

“Dwarfs Standing on the shoulders of giants”というのは、ですから非常に重要な考え方です。ただし大きな問題があります。小人たちは巨人の考えをすべて理解し得ないという問題です。巨人たちの数が多すぎたり、あまりにも深い洞察をしていれば、小人たちはそれについていけなくなってしまうのです。

小人たちを助ける仕組みとしてのメーカーの存在

巨人たちの考えについていけなくなってしまった小人たちは、せっかくの巨人たちの偉業を活用できず、科学を発展させることが出来なくなってしまいます。Wikipediaの記事によれば、ニーチェはこの問題に言及し、小人が巨人の肩に立つのではなく、現代の巨人が過去の巨人と叫び合うこと以外に心理学が発展することはないと述べています。確かに心理学はそうかもしれません。しかし自然科学では別の解決策があります。

自然科学、特に現代のバイオテクノロジーでは、研究用試薬や機器のメーカーがこの問題の解決を手助けしていると私は考えています。過去の巨人たちの成果を、「製品」に凝集し、そして新たな課題に挑戦する研究者に提供しているのです。

例えば制限酵素などを考えてみましょう。制限酵素はいまや数千円でたっぷり買えます。制限酵素は1968年(著者の生まれた年)に発見され、1975年にはNEBが始めて制限酵素を発売しました。そして制限酵素が市販品として購入できるようになった結果、論文を読んで、微生物を培養して、制限酵素を精製するなどのひどく時間のかかる作業を行わなくても、注文の翌日には高純度の酵素が使用できるような環境が出来上がったのです。

次世代シーケンサーなどはもっとメーカーの貢献が大きいです。最新のナノテクノロジー、光学技術、PCR技術、酵素学などを知らなくても、普通の分子生物学の研究者が一日で何十ギガベースのDNAシーケンスが得られます。それはひとえに、それぞれの分野の巨人たちの成果をメーカーが「製品」に凝集させ、プロトコールなどを完成させた上で販売しているからなのです。

こう考えると、自然科学には”Dwarfs standing on the shoulders of giants”を実現するための2つの仕組みがあり、それぞれが車の両輪として機能していることがわかります。その一つはピアレビューのもと、研究成果を論文に残していく仕組みです。そしてもう一つがメーカーによる製品の販売なのです。

今度はメーカーが多くなりすぎた

前節で書いたようにメーカーの存在は非常に大きな役割を果たしています。しかし、その数はあまりにも多くなり、販売している製品もあまりにも莫大になってしまいました。バイオテクノロジーに関連した製品の総数は正確な統計はありませんが、少なくとも百万程度はあるのではないかと思います。前節の小人たちは巨人たちの研究成果を理解するのに困りました。しかし現代の小人たちは、販売されている製品を把握するだけでも困難になってしまったのです。現代のバイオテクノロジー分野で”Dwarfs standing on the shoulders of giant”を最大限に実現するためには、もう一つ仕組みが必要になったということです。その仕組みとは、各研究者の研究内容に応じて、最適の製品を紹介するような仕組みです。あるいは研究者自身が、最適の製品を簡単に見つけられる仕組みです。

そのような仕組みは現在のところまだありません。ですから研究者が新しい研究用試薬を購入するときは、関連する論文で使用されている製品をそのまま使うか、知り合いが使っている製品を使うか、あるいは信頼しているブランドから買うのです。それが最適の選択をは限らないことを知りなつつも、ベストの製品を探す労力があまりにも大変なので仕方が無いのです。

ここをなんとか貢献することが、Castle104のミッションの一つです。

メーカーと研究者は十分に心が通じていない

“Dwarfs standing on the shoulders of giants”を実現するためにメーカーが果たすべき役割が大きいことを先ほど述べました。でもお互いに心は通じ合っているでしょうか。お互いにお互いが必要であると感じ、お互いに尊敬と感謝を送っているでしょうか。原因は非常に様々ありますが、残念ながらこうなっていないのが現状ではないでしょうか。

思うことはたくさんあるのですが、ここでは次節にちょっと列挙するにとどめ、深くは紹介しません。ただメーカーと研究者がお互いの考えを知り、率直に意見を交換できるような場所が増えれば、もっともっと研究は発展すると僕は信じています。

これもCastle104が考えるミッションです。

メーカーと研究者は十分に心が通じていないと感じるとき

僕はバイオテクノロジーの研究用製品の市場のいろいろな状況をみて、もう少しメーカーと研究者の心が通い合えばいいのにと思ってきました。以下は思いつくままに、そのような例を並べてみました。

  1. 値下げキャンペーン中毒と価格戦争:バイオの業界ではものすごい数の値下げキャンペーンが行われています。そして一部の製品では価格戦争が起きています。もちろん液晶テレビなどでも価格戦争が行われていますし、価格戦争は悪いことではないのは確かです。しかしバイオの業界では本来差別化ができそうな製品であっても、新発売と同時に値下げが行われたりします。僕の分析では、この値下げ中毒の原因は液晶テレビなどで見られる製造技術革新などではなく、単に顧客とのコミュニケーション手段の不足だと見ています。顧客に製品の良さを理解してもらうのが困難で時間がかかるから、値下げするのです。
  2. サポート体制の軽視:メーカーのサポート体制の軽視はここ数年、加速しているように思います。配置しているテクニカルサポートスタッフの人数にしても、日本語翻訳された資料の配布やウェブサイトにしても、以前より悪化しているように聞いています。不思議なものです。研究者は技術サポートの人と話すことを望むケースがほとんどなのに、メーカーはそっちの人数を減らし、逆に営業を増やしたりするのです。心のすれ違いを感じます。
  3. 大きい会社による買収:もちろんすべての大きい会社による買収が悪だとは言いません。ただ小さい会社の場合は全部署が同じお客様を見て、同じお客様のニーズを考えているのですが、大きい会社になるとそこがバラバラになりやすいということです。特に医療診断メーカーや化学メーカーなどが小さい研究用製品メーカーを買収した場合、全社共通の部署(経営陣、法務、物流など)は研究者のニーズを相対的に考えてくれなくなります。ですけど現実問題として、こういう買収が多く行われています。
  4. オマケがいっぱいもらえる学会こんな記事を書かれてしまいましたね。僕もやっていた張本人の一人ですけど。

最後に

最後の方でちょっとメーカーを悪く言っているような感じになりましたが、メーカーに責任があるなんてことは全く思っていないことをここで断っておきます。悪いとするならば、それは資本主義の仕組みが未完成であることに由来するものだと僕は思っています。

世の中ってもっともっと良くできると思います。足らないものは山ほどあります。そういうのを、できる範囲で、一つでも多くなんとかしていきたい。

生活する分のお金は後からついてくる。そう信じて、心を惑わせてもやもやするのではなく、ちゃんと前に進むような2010年にしたいです。

2009年の振り返り

Castle104.comという会社を立ち上げ、バイオの買物.comのウェブサイトを運用し始めておおよそ2年経ちました。そういう2009年という年を振り返りました。雑多ですけど、とりあえず思いつくままに列挙します。

バイオの買物.comの安定した収入が得られ始めました

本当に大した金額ではないし、それほどいいサービスが提供できているという自信はないのですが、とりあえずは安定した収入が入っています。スポンサーになっていただいている企業や、私の背中を押してくれた複数の旧同僚に大変感謝しています。

真のバイオの買物.comを作る準備ができつつあります

これができつつあります。
研究者の皆さんに喜んでもらえるものに仕上がりつつあると自負しています。

new bk

久々に研究者向けに発表することができました

統合データベースプロジェクトのシンポジウムでのポスター発表です。
僕が学生だった頃はポスター発表はまだ主流ではなかったので、どうやってやればいいか分からずに苦労しました。

詳細はこちらのポスト

Twitterを通して、多くの研究者との距離を縮めることができました

これは本当にうれしいことです。当初はバイオインフォマティックス系の方が多かったのですが、最近ではウェットの方もどんどんTwitterをやっているみたいで、今後の展開がとても楽しみです。

いまバイオの買物.comのお手伝いをしていただいている方も、Twitterを通して知り合った研究者です。

英語教育に関わる機会をいただきました

4歳から12歳までイギリスにいて、現地校が長く、日本語をいったん忘れてゼロから学び直した人間として、語学教育には非常に興味を持っていました。今年は縁があって、子供に英語を教えたり、多くの英語の先生とお話をする機会をいただきました。自分の幼少時代を振り返ることもでき、自分の原点を思い出したりもしました。

自分の二人の娘の勉強にも英語を話せるようになってもらいたいので、本当にとってもいい勉強になりました。

次女の誕生を機にコミュニケーションの大切さについて気づかされました

詳しくは述べませんが、上の子がまだ小さいうちに次の子が生まれるというのは思いの他に家庭に負担をかける結果となりました。また物理的には家事の負担を軽減する措置であったものが、夫婦間のコミュニケーションを阻害することなってしまい、結果として問題を大きくしていきました。かなり大変でした。

会社員生活の中でコミュニケーションがうまくいっていない組織に属したことは何回もあります。しかし、コミュニケーションが取れていた状態が崩れていくのは今回始めて経験しました。コミュニケーションが取れている状態が如何に壊れやすいものかを身をもって知りました。

もし作業負担増に合わせて増員したとしても、その結果として今までのコミュニケーションが一部希薄になってしまったら、全体が一気におかしくなる可能性が高いようです。今まで属した組織は、こうやっておかしくなったのだろうなと思いました。この新しい視点で見直すと、今まで気づかなかった点で思い当たることがたくさんあるのです。

今後の人生の参考になると思います。

経済について改めて勉強しました

父親の仕事の関係上、理系でありながらずっと経済学には興味を持っていました。しかしちゃんと勉強したことはありませんでした。昨年からの世界不況をみて、予見できていた経済学者がゼロではないものの主流ではなかったこと、経済学者があまりにもバラバラな意見を言っていることにあきれました。またどう見ても「景気とはそもそも何ぞや」という根本的と思える問題について、だれも解答を持っていなさそうだということにも驚きました。

そこで不景気の経済として知られるケインズ経済学を中心に勉強しました。凄く勉強になりました。特にノーベル賞学者のクルーグマン氏が強く推しているミンスキー氏の経済理論は面白かったです。

勉強不足の中での結論ではありますが、どうも大部分の経済学者は熱力学でいう準静的過程を仮定して論理を構築しているようです。熱力学でもそうですが、経済学が準静的過程を仮定しているのは数学の取り扱いの容易さに起因しているようです。ただ異なるのは、物理学者は準静的過程を仮定することの問題点を理解していて、非平衡の熱力学を構築したりシミュレーションを行ったり、実験を重ねるのに対して、経済学者は問題があることに気づいていないようです。経済学の主流派はシミュレーションもあまり行っていないようですし、実験結果を軽視しているように見えます。ミンスキー氏の場合は準静的過程を仮定していないがために数学的に複雑になりすぎてしまい、自分の理論を数式で説明できなかったそうです。そして数式を重視する今日の経済学の主流から軽視されてしまったそうです。

数多くの人の生活および国の興亡に重要な役割を果たす経済学が、まだ学問としてこのレベルだというのは非常に残念に思いました。

世界と日本の政治に希望が持てるようになりました

もうオバマ大統領の登場は2008年から切望していました。大統領選はずっとフォローしていましたし、終盤になるとアメリカの新聞やテレビ(ポッドキャストを通して)を毎日、複数確認するほどのはまりぶりでした。

ブッシュ・ジュニア大統領のときは、アメリカが主導権を握る世界政治に深く失望していました。それに対して対話を重視し、幼少時代を異文化の中で経験したオバマ大統領の登場は、世界が良い方向に進むかも知れないという希望を与えてくれました。もちろん、掲げている政策も僕の考えと類似点が多いです。

それと、オバマ大統領は冷静沈着なところが大好きです。近年、会社経営などでも「アクション」重視が流行してしまい、時間をかけて冷静沈着に状況判断をすることがないがしろにされる傾向を私は感じていました。共和党のマケイン氏はこんな「アクション」タイプだったんです。それに対してオバマ大統領はどんな状況にも冷静。”No drama, Obama”と言われていたほどです。僕も未熟ですが、冷静さ(とときどきは怒りの演技)を大切にしているのでうれしいですね。

それと日本の政治。自民党政治の一党支配は終焉を迎えました。民主党政権が実際にどのような政治を行ってくれるかはまだ未知数ですが、少なくとも日本政治が大きく舵を切ったのは間違いのないことです。少しだけはっきり言えることは、民主党の政治家の方が一生懸命に見えますし、頭脳明晰に見えます。また弱い人の立場に立った発言も自民党より確実に多いです。

君子に求められるのは弱者を思いやる気持ちだと、僕はずっと信じて生きてきました。政治家からそのような発言が増えているので、難しい状況だけど、僕は日本の未来に希望を持っています。

バイオの買物.comでは抗体以外の製品はどうするの?

理想の抗体検索システムを追求した新「まとめて抗体検索」サービスを始めましたので、ぜひご利用ください。

またこの記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

スポンサーから「バイオの買物.comでは抗体以外の製品はどうするの?」という主旨のお問い合わせをいただきましたので、回答した内容を修正してここに掲載します。バイオの買物.comの今後半年ぐらいの目標が簡単に書いてあります。

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ご質問の件について、お答えいたします。

まず、簡単に結論を申し上げます。
抗体以外の製品についても、バイオの買物.comに掲載する仕組みを現在作成しています。
単なる検索ではなく、各社の製品をカテゴライズしたものを準備しています。
製品の掲載そのものは無償で、御社の製品についてはすでに作業を進めています。
秋頃の公開を目指しています。

次に長くなってしまいますが、詳しい回答をいたします。

実は抗体だけでなく、なるべく多くの製品を掲載することがバイオの買物.comの当初からの目標です。いまのところ抗体検索をメインにしているのは、1)データが比較的規格化されている、2)メーカーからデータを比較的入手しやすい、3)ニーズが既に顕在化している、といった理由によります。

他の製品ではまずデータが規格化されていません。抗体であれば、抗原、交差性や宿主、標識物などのデータによって、抗体の性質を十分に説明することができます。一方でPCR酵素などはどういうデータがあれば良いかが明確でありません。カタログを見てもデータが記載されていなかったり、メーカー内でもデータがそろっていなかったりという状況です。

そこでバイオ百科さんなどは、抗体以外の製品については単純なテキスト検索だけを提供しています。しかし、研究者からすればこれだけではほとんど使い物にならないと私は考えています。研究者がすでに製品名や品番を知っていれば目的の製品を見つけることはできますが、そうでない場合はうまくいきません。

例えばMillipore社のMILLIPLEXの製品を検索する場合、BD社などの類似製品は”FACS Array”と呼ばれていますので、BD社のことしか知らない研究者は例えば”Bead Array”という検索語を使うことになると思います。またOEM元の”Luminex”で検索されてしまうと、コスモバイオ社とフナコシ社の製品しか検索されません。バイオ百科さんの仕組みですと、これではMillipore社のMILLIPLEX製品は引っかかってきません。

つまり単なる検索ですと、使ったことの無いメーカーの新しい商品を研究者に紹介するのはほとんどできないというのが私の考えです。

バイオの買物.comでは、この問題を解決するために http://www.castle104.com/categories/15 のような製品比較表を試験的に運用しています。しかし、これはデータ作成の労力が大きいので、一部の製品に限定せざるを得ませんでした。

秋から予定している新しいサービスは、 http://www.biocompare.com/ のように製品をカテゴライズしたものになります。これなら、ブランド名などに関係なく、製品の特性によって絞り込むことができますので、研究者はまだ使ったことの無いブランドを見つけることができます。ただしBioCompareのカテゴリー分けもいろいろと問題があり、決して使いやすくはありません。そこで、試験的に運用している比較表とBioCompareのカテゴリーをハイブリッドしたようなアプローチを考えています。最終的には 価格.com http://kakaku.com/pc/mac-desktop-pc/se_102/ のような形を目指しています。

なおどのメーカーの製品を掲載するかですが、これについて研究者の利便性を考え、バイオ百科さんやBioCompareさんのように「スポンサーの製品のみ掲載」というアプロートは採らない予定です。逆に価格.comのように、主要メーカーの製品は自社でデータを作成して掲載していくというアプローチを考えています。実は大手メーカー10社強の全製品のデータも取得済みで、現在カテゴリー分けを行っているところです。

カテゴリー分けした製品のページについては、「抗体検索」とは別のアプローチでスポンサーを募集しようと考えています。いまは「キャンペーン」ページと良く似たやり方を検討しているところです。

以上、長くなってしまいましたが、回答をさせていただきました。

新しいサービスが動き出したときにはまたご報告いたしますので、よろしくお願いいたします。

加々美直史

JPGという読者投票型写真雑誌がつぶれたそうです

僕は全然フォローしていませんでしたがJPGという読者投票型写真雑誌が1月5日をもってつぶれるそうです。

これに対して、Robert ScobleというMicrosoft出身のIT評論家がブログを書いています。

そのブログの中には、バイオの買物.comを含め、インターネット広告で食っていこうというウェブサイトすべてにとって重要な教訓が記されています。

以下の状態ならまずいよって結論をしています。

  1. ユーザ層が新しいもの好きの人ばかり。
  2. 広告主に対して伝えられる、明確なユーザ層がいない。単に写真好きを集めたというのでは、十分じゃない。
  3. 製品を買おうと思っているユーザを集めていない。例えば良い写真雑誌のほとんどは、表紙に作品を飾らず、カメラ機材を表紙にしている。そうしていないのなら、道は険しい。
  4. 広告主がユーザとコミュニケーションする方法を提供していない。
  5. 棚スペースが得られていない。ユーザが目にしやすい場所にウェブサイトがプロモーションされてなくて、十分なユーザ数が集まらない。

バイオの買物.comならこのうちの半分ぐらいは何とかなりそうなところに来ています。残りの半分は2009年の課題です。

価格.comの記事

バイオの買物.comがビジネスモデルとして最も参考にしているのは価格.comですが、カカクコム経営企画部広報室長との取材を通して、詳細に紹介している記事がありました (無料登録が必要)。

例によって、僕が感じたポイントを紹介します。

収益モデルその1:小売りサイトへの集客 (Pay Per Click)

価格.comのウェブサイトから、小売業者のウェブサイトへのリンクをユーザがクリックしたときに料金が発生する仕組みです。そのユーザが実際に購入したかどうかは関係ありません。

ちなみに、このモデルにおける事業者の対象は家電製品などを販売する店舗が多く、事業者は商品登録せずにカカクコム側が登録した商品マスターに対して価格登録(入札)する形式になっているのが特徴である(商品マスター自体は、価格.com側が人海戦術で登録しているとのことであり驚きの事実である!)

平成21年3月期 第1四半期決算短信においては売上高は485百万円でした。

バイオの買物.comが現在、抗体検索サイトで運用しているのはまさにこのタイプの広告です。

収益モデルその2:コミッション (Pay Per Performance)

価格.comのウェブサイトから小売業者のウェブサイトにユーザが移動し、実際に製品を購入したときに料金が発生する仕組みです。ユーザが小売業者のウェブサイトに行くだけでなく、実際に購入したときにのみ料金が発生します。

平成21年3月期 第1四半期決算短信においては売上高は752百万円でした。

実際に売り上げの数字を見てもわかりますように、Pay Per Clickよりはこっちの方が広告主にとっては魅力的な広告スキームです。しかし日本のバイオの業界ではインターネット直販がまだほとんど行われていませんので、残念ながらまだこのシステムは使えません。

収益モデルその3:バナー広告などディスプレイ広告

価格.com創業時からの広告モデルです。

平成21年3月期 第1四半期決算短信においては売上高は552百万円でした。

こちらは仕組みは簡単なのですが、広告主にしてみれば効果が見えにくいという欠点があります。また実際に計測してみると、あまり効果がないように見えることも多々あります。売上高としては大きな数字になっていますが、価格.comが深く関係した価格.COM 賢者の買い物という本を読むと、実際にはこの広告システム単独ではそれほどうまくいかなかったようです。というのも、この広告を出していなくても、価格.comではどっちみち最安値の販売店をリストしてくれていたからです。

そこで価格.comがやったのは、広告を掲載してくれなかった小売店は、たとえ価格が最安値であっても、ときどき掲載をしなかったりすることだったそうです。逆に広告を掲載していれば、確実に掲載してあげるようにしていたとのことです。

こういうバナーが大きく効果を上げるためには、そもそものマーケティングプロジェクトが非常に魅力的である必要があります。価格.comでは「少数精鋭の営業要員で直接契約をとっている」とのことですが、そうやって絞った活動をしないとなかなかよい成果が出せないだろうと思います。

バイオの買物.comではまだこのタイプの広告は実施していませんが、検討中です。

収益モデルその4:マーケディングデータの提供

価格.comの集積される口コミ情報などをもとに、メーカーやシンクタンクに情報を提供するサービス。

平成21年3月期 第1四半期決算短信においては売上高は86百万円でした。

日本のバイオの業界ではシンクタンクなどによる情報はあるにはありますが、基本的には全く信用できません。その結果、メーカーはマーケティングのための情報が無くて困っています。そういう意味で、このようなマーケティングデータというのは日本のバイオ業界では重宝されるはずです。

バイオの買物.comでは、これを実施するための準備を行っています。

まとめ

商品マスター自体は、価格.com側が人海戦術で登録しているとのことであり驚きの事実である!

というのがありましたが、このような仕組みだとメーカーや小売業者がただ乗りできてしまい、うまく収益が上がらないのではないかと考えがちです。

価格.comの例は、実際にはそうではなく、むしろこっちの方が儲かることを示しています。もちろん最初に無償で情報を掲載していくという大きな初期投資が必要ですが、それがかえって参入障壁にもなり、永続的な利益の源泉になります。またその初期投資は金銭的なものではなく、人海戦術的なものなので、「がんばり」と「工夫」でなんとかできるところでもあります。

少なくともバイオの買物.comではそうと信じて、すべての製品を載せることにより、将来的にはBioCompareよりも良い製品比較サイトを作り上げたいと思っています。

2008年の振り返り

以前に勤めていた会社を退社し、バイオの買物.comの仕事を始めたのは2007年12月です。ですから、2008年はバイオの買物.comの1年目でした。それがどんな一年だったか、どういうことを学んだかを振り返りたいと思います。

ライフサイエンス業界でインターネット広告だけで食っていけるか

バイオの買物.comを始めるにあたって、目指したのは価格.comのライフサイエンス版でした。一方でライフサイエンスの製品比較サイトとしては米国のBioCompareというものがありますが、これは参考にはするけれども目標にはしませんでした。

この2つのサイトの何が違うかといいますと、一件似ているようで、ビジネスモデルが全く異なります。

価格.comの方は自社の責任において可能な限りすべての製品の情報を掲載しています。少なくとも当初は製品のメーカーあるいは製品を販売している小売りとは全く関係なく、自社で独自に製品情報および価格情報を掲載していました。そして画面にはいくつかバナーを用意して、そのバナーを掲載するのに広告費をもらっていました(価格.COM 賢者の買い物
)。広告費をもらっているか否かに関わらず、「絶対に最低価格を掲載してやる」という使命感で製品および販売店情報を記載していたそうです。収入を得ることよりも、顧客にとって有用な情報を提供することを優先しているのです。

それに対してBioCompare社は、広告費をもらったメーカーの製品しか掲載していません。それが最も顕著に問題になっているのはDNA精製キットのカテゴリーに、業界断然トップのQIAGENの製品がない点です。BioCompare社は顧客にとって有用な情報を提供することよりも、収入を得ることを優先しているのです。

さてバイオの買物.comでは価格.com的なビジネスモデルを採用していますので、掲載料としてスポンサーからいちいち収入を得ることはしません。収入源としてはバナーなどの広告収入になります。問題はこれだけでビジネスが成立するかどうかです。支出をなるべく少なくした従業員一人だけのビジネスであっても、年間1000万円近くの売り上げがないと成立しません。

一年間やってわかったことは、これがなんとか成立しそうだということです。バイオの買物.comを始める前からおおよその試算はしていました。日本のライフサイエンス業界は市場規模が2,000億円程度と見積もられていて、大雑把にその5%が広告宣伝費に回ると計算すると100億円になります。そのうち大半は印刷物と学会に回りますが、それでもインターネット広告に10億円程度は回ってきてもおかしくありません。

そう思ってバイオの買物.comを始めましたが、実際にやってみて、確かに市場ポテンシャルはそれぐらいはあると感じました。現状ではネット広告を掲載するべきウェブサイトそのものが不足していますので、10億円規模には全く届いていません。でも広告を集めるに値するウェブサイトが増えれば、間違いなく10億円、おそらくは50億円ぐらいまでにインターネット広告の市場は膨らむだろうと思います。

GoogleのAdSenseだけで食っていくのは無理

日本のライフサイエンス業界でもインターネット広告で食っていくことは可能だと確認しましたが、ただしGoogleのAdSenseのようなものだけでは苦しそうだということもわかりました。

バイオの買物.comを一年間やった上で推計すると、年間1,000万円の収入をGoogle AdSenseだけで得るためには毎日50,000のセッションが必要そうです。これだけのセッションを集められているライフサイエンス系のウェブサイトはおそらく日本にはないと思います。例えばメーカーの広告を募集していて、30万ページビュー(毎日1万ページビュー計算)が得られていると言っているライフサイエンスのウェブサイトはいくつありますが、ロボットの関係で実際には毎日500セッションしか集めていないことが大部分だと思います。そのことを考えると、絶望的な100倍の差があります。大手のメーカーでも毎日5,000セッション程度だと思いますので、これと比較しても10倍の差です。とても無理な数字です。

インターネット広告だけで食っていくことは可能ではあると思いますが、GoogleのAdSenseを利用するだけでなく、独自に広告のシステムを提供しなければいけなさそうです。バイオの買物.comでは夏頃から独自にPPC (Pay Per Click)の広告システムを作成していますが、これはこのためです。

広告媒体は広告代理店とITの役割も担うべき

ライフサイエンスのウェブサイト、特に日本語ウェブサイトのボリュームと品質は、メーカーごとにかなりのばらつきがあります。一方では印刷版のカタログなどは総じてがんばって日本語化しています。一見すると、一部のメーカーはインターネットを軽視しているのではないかと疑ってしまいます。

一年間活動してみて、そうではないことを僕は感じました。メーカーは決してインターネットを軽視しているのではなく、優れたウェブサイトを作り上げて運営していくためのリソースが不足しているようです。したがってインターネットマーケティングが日本のライフサイエンス業界で浸透していくためには、リソース不足による問題をカバーしてくれる存在が必要そうです。

一般の消費財を販売しているような企業であれば、広告代理店を活用して、インターネットマーケティング戦略の策定と運用をコンサルティングしてもらえます。自社の中にインターネットやITに詳しい人は不必要で、基本的には自社製品の特性を良く理解していれば十分です。しかしライフサイエンスは専門性が高く、この分野を理解できる広告代理店がそもそも存在しません。またあったとしても、メーカーの日本支社は規模が小さいことが多いので、その広告代理店を雇うことがありません。かといって、自社にノウハウがある訳ではないので、結果として何もできなくなってしまうのです。

バイオの買物.comでは、当初からウェブコンサルティングとITサービスの提供をパッケージの一部と考え、インターネット広告掲載までのトータルサポートを目指していました。メーカーのマーケティング部にウェブマーケティングやインターネット広告の面白さを伝え、さらにIT面でもお手伝いをしています。またあらかじめインターネット広告の実際の効果が確認していただくために、無償のデモを提供しています。その反応がかなり良かったです。

一方でメーカー横断的な抗体検索サービスを提供しているウェブサイトとしてはバイオ百科があります。あちらのサービスを利用するためには、各メーカーは自社の抗体データを指定のフォーマットに変換しなければいけません。その作業はメーカーにとってかなりの負担だったようです。バイオの買物.comではこのフォーマット変換を含めてすべて無償でやってあげているのですが、これがやはり好評です。広告を掲載するウェブサイトを用意するだけでなく、ITやウェブコンサルティングを含めたトータルサポートが重要だと感じました。

どれだけの収入が得られたか、得られそうか

上述しましたように、バイオの買物.comでは当初はGoogle AdSenseのような収入だけでどこまでいけるかを検討していましたので、2008年前半の売り上げは微々たるものでした。それこそ何回か外食をすればなくなってしまう程度でした。

2008年後半からは抗体検索を中心に、直接メーカーから広告収入を得ることに注力を行い、それを高いレベルで実施するために独自の広告システムを作るなどをしました。こっちの方はかなりニーズが高く、またクリックスルーが得やすいので、それなりの収入になりそうです。スポンサーあたり、通常は年間百万円程度になりますので決して安価なサービスではないのですが、これをやりたいというスポンサーが近いうちにそれなりの数になりそうです。

2008年はまだまだ積極的なPRというのは行っていません。新しい顧客を開拓することよりも、既存顧客に100%満足してもらうことが先決だと考えているからです。既存顧客を維持することができれば、2009年にある程度の収入が得られる目処がつきましたので、この既存顧客重視の方針は堅持しようと考えています。既存顧客に100%満足してもらえるだけのものができたと思えた時点で、初めて積極的なPRを展開する予定です。

なお、何かが間違って予想以上に収入が得られそうであれば、広告の料金を値下げしようと考えています。金持ちになるのが目標ではありませんし、より多くのメーカーにインターネットを活用したマーケティングを行っていただくことが、何よりも大切だとぼくは考えていますので。

プログラミングの勉強

バイオの買物.comを始めるにあたって、僕が非常に楽しみにしていたことがいくつかあります。ライフサイエンス業界全体と関われること、生まれたばかりの娘の世話ができることなどもありますが、最も大きな楽しみだったのはプログラミングに時間が割けるということでした。

僕が初めて見たパソコンはNECのPC-8001で、僕自身はFM-7などを買ってもらってBASICのプログラムを作成したり、当時発売されていたTHE BASIC MAGAZINEや I/O といった雑誌に掲載されていたBASICのソースコードを手入力していました。プログラミングって面白いなって思いながら、それ以後はあまりやる機会がなく、仕事で本格的に活かすのは2001年頃にバイオインフォマティックスに手を染めたときからです。この頃はPerlで遺伝子配列をBLASTからPrimer3やEMBOSSのパッケージに持っていったりしていました。でも仕事のメインになることはずっとなく、どちらかというと外部に頼むお金がないから自分でやってしまう状態が続いていました。

その一方で、プログラミングと生物学、そして自分が関わりつつあった会社経営やマネージメントの共通性を強く感じるようになっていました。このことについてはこのブログでも何回か取り上げています。僕が注目しているのは、どれもが多数の役者からなる複雑なシステムを取り扱っており、そのシステムをどのように構築し、運用すれば、そのシステムが永く繁栄し得るかを中心的なテーマとしていることです。

生物は極めて複雑なシステムを経験則だけで作り上げました。一方プログラミングは多数の優秀な研究者のおかげでソフトウェア危機を乗り越え、複雑なシステムを効率良く構築するための方法論がいくつか確立されています(構造化プログラミングやオブジェクト指向プログラミングなど)。とても残念なのは、マネージメントがまだ孫氏の兵法や孔子の論語の時代から進歩していないように見えることです。

前置きが長くなってしまいましたが、いずれにしてもプログラミングは僕が人生の中で絶対にもっと深く勉強しておきたいと思っていたものです。

バイオの買物.comのウェブサイトを作成するにあたって、一人でなるべく多くのことをこなしたいと思っていましたので、僕は最も先進的で話題になっているRuby On Rails フレームワークを採用しました。この判断は大正解でした。Ruby On Railsはまず驚異的に生産性を高めてくれました。バイオの買物.comはデータ入力のためのインタフェースがかなり複雑ですが、PHPでこれを構築していたのではとてもじゃないけどやっていられませんでした。それだけでなく、Rubyというそれ自身非常に優れたプログラミング言語が土台となっていますので、先進的なプログラミング技法の勉強になりました。

まだまだ道半ばですが、プログラミングを身につけ、生物学やマネージメントの理解に活かそうという目標に少しだけでも近づいている気がしますので、とても気持ちが良いです。

バイオの買物.comの誕生と今後

バイオの買物.comは2007年の10月ごろからプログラミングを開始し、2008年の2月に一応のβ版の公開を開始しました。この頃は製品比較表に力点を置いていましたので、最初のβ版は製品比較表だけでした。

製品比較表を改良させつつ、アクセスアップや収入アップにつながりそうないろいろなことを試しました。各メーカーの新製品ニュースやキャンペーン情報をRSSで流してみたり、それを別にまとめてみたり、アマゾンの本の広告を掲載したりです。

そしてその中でも抗体検索は、抗体という比較的規格化された製品が非常に多数存在すること、抗体メーカーは一般に中小企業が多く、知名度を高めるのに苦労していることなどの条件が重なり、製品比較サイトとの相性が良いです。そこで友人からの連絡にも勇気づけられ、2008年の後半からはこちらの方に注力をしました。

2009年は年初に各種サービスの整理をしようと思っています。いろいろ試したものでうまくいかなかったもの、ユーザからの反応が良くないものは、今後作り替えるか無くしていく方向で考えています。アマゾンの本については何の意味もなさそうなので、無くしていきます。そして各メーカーの情報についてはRSSを強化し、さらにこのRSSを自動解析しようと思っています。これを使って、僕自身が手でまとめている新製品ニュースやキャンペーンに代えようと考えています。

ビジネスプランは変わるものだというのは起業家やベンチャー投資家のブログにはよく書かれています。バイオの買物.comの当初のビジネスプランは抗体以外の製品の比較表を中心に考えていました。ビジネスプランにはこだわらずに、そのときの状況に合わせて臨機応変にやろうとは思っていましたが、やはりそういう結果になりました。

そうはいっても、基本的な姿勢はまだ貫いています。それは冒頭で紹介しました価格.comとBioCompareの違いの点です。ユーザの視点に立って、スポンサーになっていないメーカーの製品情報を掲載しようというのはまだやれています。

そして2008年は抗体検索にかなり力を入れましたが、2009年はなるべくその他の製品の製品比較表に力を入れていきたいと思っています。これこそがBioCompareでもうまく出来ていないことなので、とてもチャレンジのしがいがあります。

子育て

昨年まで働いていた会社を辞め、自宅でバイオの買物.comを始めた大きな理由のひとつは、2007年に生まれた長女の世話をするためです。

The Smithsという英国のバンドの曲に“Heaven Knows I’m Miserable Now”というのがあります。

その歌詞の中でMorriseyは歌います。

I was looking for a job, and then I found a job
And heaven knows I’m miserable now

In my life,
why do I give valuable time
to people who don’t care if I live or die?

仕事を探していて、仕事を見つけた
それで今は猛烈に惨めなんだ

僕が生きようが死のうが気にとめないようなやつに
どうして人生の貴重な時間をあげなきゃいけないんだ

仕事では上司とウマが合いませんでした。そんなやつのために自分の時間を無駄にして、さらに娘との時間が減ってしまうのは我慢できませんでした。

そして一年間、自宅で仕事をして、娘との時間を増やすという目標は達成できました。それだけでなく、妻は次女も妊娠してくれました。もちろんバイオの買物.comの成功も大切ですが、子育てのことだけを取り上げても、2008年は良い年でした。

まとめ

2008年はバイオの買物.comの1年目で、かなり試行錯誤の中でやってきました。その1年目でいくつかのスポンサーから非常にポジティブな意見をいただき、そして実際に収入の目処も多少ついてきたというのはとても幸運だったと思っています。

まだまだ試行錯誤は続きます。2009年がどのような一年になるのかは正直全くわかりませんが、貯金はまだありますので娘二人との時間が取れることだけは間違いなさそうです。それだけでも良い年になるはずですが、もっともっと良い年となるようにがんばりたいと思います。

ライフサイエンスの分野にはつくづくお世話になっています。2009年は今までできなかった恩返しの年にしたいですね。