「ネットの匿名は信用できない」は方便だけど、それはそれでいい

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「ネットの匿名は信用できない」–ユニクロ柳井会長がFacebookを選んだ理由

ユニクロがFacebookと連動するファッションコミュニティサイト「UNIQLOOKS」を公開しましたが、Facebookと連携して理由についてユニクロ代表取締役会長の柳井正氏は以下のコメントをしたそうです。

「Facebookはアクセス数でGoogleを超えた。世界最大のコミュニティがそこにはある。どうせお店を出すなら世界最大の市場がいい」

Facebookは個人対個人で、しかも匿名でなく実名。これは責任を取れる情報をお互いに交換するということ。それが可能なのは、いまだとFacebookが一番」

「特に日本ではそうだが、インターネットの匿名制は信用できないと思う。本当に参加したとはいえない。単純に意見を言っただけで責任がないからだ。『自分はこう思う』と言ってほしいが、やっぱりそれは実名でなければいけない。Facebookは一番正確に情報を発信したり、受信したりできる媒体で、いまのところアクセス数は世界最大」

日本のインターネットは匿名主義だとか、あるいは実名主義にしていかなければならないという意見はいろいろありますが、そういうイデオロギーはとりあえず考えないことにしましょう。ここではイデオロギーは無意味ですから。

単純なことです。ウェブサイトを所有しているのは企業であり、そのウェブサイトに参加する資格があるのは誰なのか、それを決める権利は企業にあります。企業のウェブサイトに無責任なネガティブコメントが書き込まれれば、企業の収益にマイナスになります(UNIQLOOKSの場合はモデルの容姿に対するコメントにもなるので、無責任な誹謗中傷はモデルにとって特に堪え難い)。だからそういうネガティブコメントを封じつつ、ポジティブコメントが集めやすい仕組みがあれば、企業がそれを選択するのは当然のことです。

Facebookはそういう企業にとって魅力のあるユーザを多数かかえているので、企業はFacebookと連携したがるのです。

善くも悪くも、資本主義社会である以上、企業が世の中を引っ張っていく側面は強くあります。ユニクロをはじめとした各企業がFacebookのユーザ限定のいろいろな企画をすれば、Facebookの実名ユーザが増えます。それはまたその企業のプラスにもなりますので、ポジティブな循環が生まれます。

やはりFacebookの実名主義は強いです。匿名主義ではここまでビジネスを動かせません。そしてそれはインターネットがリアルな社会と結びついていく上でとても良い方向だと思います。

このブログでもFacebookは何回か取り上げていますし、バイオの買物.com公式ブログでもFacebookを論じていますが、こういうのをバイオの業界でも活用できたらと思っています。まだ乗り越えなければならないハードルがたくさんありますが。

Facebook, Twitter, Mixiのデモグラフィックを見てみる

Facebookが日本で普及し始めていることを受けて、斉藤 徹さんがブログ”In the looop”に書いた記事を先日紹介しました。

Facebookの実名主義がとても大切な理由

昨日は斉藤さんの記事に対する反論というか別の見方を「もとまか日記」が書いていました。

Facebookが楽々と世界で普及していった本当の理由

どっちもそれなりに良い指摘はあるのですが、いずれも大切なことを忘れている気がします。それはマーケティングでとても重要な顧客のセグメンテーションです。いずれも顧客のセグメンテーションをせずに、インターネットを利用している人はこうだ!とあたかも一つのセグメントかのように議論しています。

そのもっとも顕著な例が後者のブログに書かれていたこの言葉。

「旧知の友人を探しやすい」
と言っても、昔の友人を探さなければならない人が
そんなに多いとも思えないしね・・・。

日本の人口の大半は、大学時代までインターネットも携帯も使っていない

何を言いたいかというと、日本人の大半は旧知の友人のメールアドレスも知らないし携帯番号も知らないということです。私の場合だと、大学の体育会はOB会がしっかりしているので卒業後にメールアドレスを確認していましたが、それ以外の学生時代の友人でメールアドレスを知っているのは少ししかいません。

日本の人口ピラミッドを見れば一目瞭然です。

日本でインターネットが普及したのは1995年ごろからですが、そのときに大学を卒業した人はいま37歳前後です。日本人の平均年齢は45歳ですし、人口ピラミッドを見ても37歳以下の成人は全体の1/4ぐらいです。

友人同士のコミュニケーションツールとしてのインターネットおよび携帯電話の活用度合いについては、恐らく37歳前後で大きな違いがあるはずです。そして旧知の友人とインターネットでコミュニケーションできていない人は、むしろ大幅に多数を占めていると考えられます。

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DoubleClick Ad Plannerに見るデモグラフィックの違い

各ウェブサイトを利用しているユーザのデモグラフィックを見るツールとして、Google提供のDoubleClick Ad Plannerがあります。ここのデータの信憑性はハッキリ分かりませんが、他の方法では入手しがたい有益なデータが得られます。FacebookのデータMixiのデータ

例えばFacebook.comの人気上昇ぶりを見てみましょう。ここ半年間で急にアクセスが増えていることがわかります。

Facebook access trend

ではデモグラフィックとして年齢構成をfacebookとmixiとで比較しましょう。なお、このデータは日本からのアクセスのデータで、ガラパゴス携帯電話からのアクセスやアプリからのアクセスは含まれていないと考えられます。

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ハッキリとした違いがあるのは、Facebookのユーザに45歳以上が多いことでしょう。Mixiは30歳から44歳までのセグメントが多くなっています。

どうもこの45歳前後(私が言っている学生時代にインターネットがあったかどうかの境目あたり)がFacebookとMixiの人気の分かれ目のように思います。

恐らく斉藤 徹さんの意見は45歳以降の世代の考えを代表していて、「もとまか日記」さんの意見はそれより前の世代の考えを反映しているのではないでしょうか。お互いの意見が異なるように見えますが、単に違う世代、違うデモグラフィックについて語っているだけのように思えます。

それでFacebookは日本で人気が出るの?

最後に結論ですが、もし斉藤 徹さんの意見が45歳以降の動向を正確に見極めたものであるならば、日本の人口構成を考えたとき、間違いなくFacebookはMixiに迫るかもしくは追い抜く存在になるでしょう。

若い世代にとってはMixiを手放す理由がないのは「もとまか日記」さんの言う通りです。でも実名主義のFacebookは日本のSNSの空白地帯が狙えるのです。それはデモグラフィックを見て初めて分かります。

Facebookの実名主義がとても大切な理由

斉藤 徹さんがブログ”In the looop”でFacebookの実名主義の効果を解説していました。

なぜ、Facebookだけが、キャズムを楽々と超えるのだろうか?

私はほぼ完全に同じ意見です。

私の理解するところでは、要点は以下の通りです:

  1. Facebookがこれだけ普及する理由は実名制。実名制ソーシャル・ネットワークだからこそ可能となる「人物探索機能」と「メッセージング機能」にポイントがある。
  2. Facebookでは、実名制だからこそ、旧知の友人などをすばやく探し出すことができる。これはmixiやTwitter、さらにはGoogleでも非常に難しい、つまり今までのWebサービスでは困難だった。
  3. 「メッセージング機能」は友人に限定されているのではないので、インターネット「住所録」「電話帳」のように使える。これが充実することによって知人を探しやすくなり、連絡を取れるようになる。

ただしもう少しキャズム越えの戦略について、顧客セグメントを掘り下げた議論さあっても良かったと思います。

Facebook mask

顧客セグメントから考えた解釈

このブログでも紹介されているキャズム思考は、キャズムを越えるために採るべき戦略は顧客層を限定した選択と集中です。狙うべきマーケット(顧客層)をしっかりと定め、これに“whole product”(顧客のニーズを満足させるまとまったパッケージ)を提供することです。

したがってFacebookの実名主義と関連機能が、どの顧客層のニーズを満たし、かつどのようにしてwhole productになり得ているかを見る必要があります。

ほとんど斉藤氏の意見の焼き直しですが、こうまとめられると思います。

  1. ターゲット顧客層:旧知の友人を含めた、リアルな友人とのつながりを深めたい人。年賀状しかやり取りしないぐらいの友人と、実はもっとこまめに連絡をしたい人。
  2. ターゲットじゃない顧客層(匿名性):ネット上のバーチャルな友人関係を広げたい人。ネット上で自分の意見を公開してぶちまけたい人。これらの人は匿名性が維持でき、誰でもフォローできるTwitterなどを使うのが良い。
  3. Facebookが提供するwhole product:旧知の友人を探し出す機能。つながりを意識できるようにする機能(「いいね」とか)。連絡が取れるようにする機能(メッセージ)。

ただこのターゲット顧客層をターゲットする場合、デフォルトのFacebookのアプリケーション以外はあまり重要ではない気がします。例えば写真とかTwitter連携のアプリは大切ですが、ゲームなどのアプリは関係ない気がします。

斉藤氏も述べている通り、Facebookには他にもいろいろな機能があり、例えば企業やアーティストがFacebookページが作れることも大きな特徴です。ただ、Facebookに企業ページがあり、それが見たいという理由でFacebookに参加する顧客はほぼ皆無ではないでしょうか。Facebookにそもそも参加する理由はやはりリアルな友人とつながりたいからで、これらの顧客に対してマーケティングを行いたいから企業ページがあるのです。これが順番です。

日本のインターネットは本当に匿名性が重要なの?

これもマーケティングで行われる顧客セグメントで考えることができます。今までの日本のインターネットでは匿名性が重視されていたのは、これは事実です。問題なのは、「今まで日本のソーシャルインターネット」を利用していた顧客層と「これからの日本のソーシャルインターネット」を利用する顧客が同じかどうかです。

「今まで日本のソーシャルインターネット」を引っ張ってきた人は、情報を発信するように人たちであったと思います。キャズム理論で言えば「イノベーター」や「アーリーマジョリティー」に属する人たちです。これらの人は、インターネットやそこで行われてきたやり取りに興味を持っている人たちで、「インターネット」がやりたい人たちです。これらの人がリアルな社会とインターネットを別の空間と考え、インターネット上では匿名でやりたいと思うのはごく当たり前のことです。

それに対して「これからの日本のソーシャルインターネット」を考えるとき、「インターネット」そのものには興味がない人を対象にしなければなりません。例えば2chをただの怪しい存在としか思っていない人、SNSを時間の無駄としか思っていない人、自分のことをネットで公開すると危ないと思っている人(匿名であろうが実名であろうが)。このような人が「アーリーマジョリティー」を形成しているのです。

「アーリーマジョリティー」はリアルな生活に関心があるのであって、ネット上の生活には多少は興味はあるものの、はまり込む理由がありません。そうなるとインターネットのソーシャルサービスが成功するか否かは、リアルな生活にとってどれだけ有益かということになります。そのためにはリアルな生活とつながる必要があります。これは日本でも欧米でも同じはずです。

実名主義が可能にするのは、インターネットとリアルな生活をつなげることです。日本で匿名性が大事だとされていたのは、いままでのソーシャルインターネットの利用者たちがインターネットとリアルな生活を分けていたからでしょう。インターネットがリアルな生活に役立つと考えている人が少なかったからでしょう。単純にそれだけだと思います。

匿名性を重視していた日本のソーシャルインターネット利用者と、これから利用するであろう「アーリーマジョリティー」は同じではありません。インターネットに対する考え方および使い方、リアルな生活との関係、そして年齢にしても、相当に違う人たちの集団です。これを無視して「日本人は匿名性を重視する」というのはナンセンスです。

Facebookが日本で普及していけば、旧知の友人とつながるという大きな価値がインターネットでますます実現していきます。そうしてインターネットがリアルな生活に役立っていきます。こうなれば、日本人であっても匿名性をことさらに重視することはなくなるでしょう。

それだけです。

ソーシャルメディア(TwitterやFacebookなど)を使う上での注意点

NewImage.jpgここ数日、ある代理店とあるメーカーのTwitter公式アカウントで不正確なツイートがありました。私がその点を指摘したところ、ツイートはいずれも削除されましたので、詳細は省きます。ただこれらの「問題ツイート」がどうしてマズイのか、そしてこれをやらないようにするためには何を注意すれば良いのか、自分なりの考えをまとめたいと思います。

続きはバイオの買物.com公式ブログにアップしました。

ライフサイエンス研究用試薬・機器メーカーのFacebook利用状況

表記の記事をCastle104公式ブログにアップしました。

ライフサイエンス研究用試薬・機器メーカーがどのようにFacebookを活用し、顧客とコミュニケーションを計ろうとしているかを調査しています。

結論としてはClontechの一人勝ちです。Facebookの活用を考えているメーカーはぜひClontechのやり方を勉強してください。

ちょっと力が入った記事ですので、ぜひご覧下さい。

バイオのウェブサイトのビジターあたり売上げはどんなもんだろうか

以前に「ウェブサイトへのアクセスと売上げの関係」のブログ記事を書きましたが、そこで僕が出した結論は、試薬メーカーのウェブ訪問者数と売上げが驚くほどに相関しているということでした。

もちろん相関があるという言っているだけで、因果関係があるかどうかは全く別です。ウェブ訪問者数と売上げがよく相関していると言っても、ウェブサイトに訪問したから売上げが増えている側面はあるでしょうが、同時に製品が良く売れているからウェブサイトの人気があるという側面もあります。恐らくはこの2つの側面が両方ともに絡み合っていて、その結果としてこのような良い相関が見られるのだと思います。

webvisitors vs revenue.png

さてこのグラフを見ると、ビジターあたりの売上げを計算することができます。このグラフを見ると、大雑把に年間100億円のあるメーカーは60,000ユニークビジター/月があると言えそうです(これはビジターの効果を一番低く見積もった線ですが)。この数値を使うと {100億円 / 12 (月間売上げ)} / 60,000 (ユニークビジター) = 1.38 万円/ユニークビジター になります。つまり、月間ユニークビジターあたり1.38万円の売上があることになります。

ビジターあたり1.38万円の売上ってすごいですよね?

なんだかとても高い数字です。ライフサイエンス研究支援の試薬の単価が高く、低く見積もっても一品が平均2万円ぐらいだというのは確かにあります。またウェブを見ないで製品を購入しているケースもそれなりにあるはずです(繰り返し同じものを買うとき等)。

ビジター数についてもちょっと考えてみたいと思います。例えば年間で20億円の売上を出している中堅メーカーであり、平均単価が2万円だとすると、年間で10万製品を出荷していることになります。毎月8,300製品を出荷していることになります。先ほどの相関ですと年間20億の売上げのメーカーのウェブサイトは毎月12,000のユニークビジターがいることになりますので、ウェブサイトのユニークビジター数と出荷製品数はだいたい同じ程度と言うことになります。この数字だけでは因果関係が出てきませんのではっきりしたことは言い難いのですが、製品の購入とウェブサイトへのアクセスはやはりかなり関係がありそうな雰囲気です。

なお毎月8,300製品の出荷というのはかなり少なく、平均的なコンビニに大きく負けています。コンビニの顧客単価は¥600弱らしいので、平均日販を60万円とすると毎日1,000人、月間で30,000人に物を売っていることになります。同じ土俵で語ることではないのですが、いまだにメーカーと代理店が注文伝票をFAXでやり取りしていられるのも(そう、電子化されていないのがまだほとんどです)、そもそも取り扱っている数が少ないからです。

いまのところバイオの買物.comを経由して、毎月数千のビジターがメーカーのウェブサイトを訪問しています。仮に5,000のビジターを誘導していると計算し、先ほどの1.38万円をかけ算すると、バイオの買物.comで月間6,900万円の売上貢献をしていることになります。ものすごい我田引水的な計算で恐縮ですが。

まぁ実際のところ、まだその1/100も稼いでいないのですが、将来的にちゃんとしたビジネスが構築できるのではないかという勇気がわいてくる計算です。

ちなみに最近のインターネットで話題になっているSNSのMixiやGREEやモバゲー。これらは様々な形で収入を得ていますが、会員あたりの月間売上げは¥63-¥256のようです。なんだか1会員あたり1,000PVしているという計算になっているのですが、これもすごいですね。同じインターネットでの商売だし、何かのインスピレーションにならないかなと思ったりもするのですが、やっぱりバイオの買物.comがやろうとしていることとはとても比較できないと痛感します。アクセス数はもちろん何桁も違いますが、アクセスあたりの価値もライフサイエンスの場合は桁違いに大きい気がします。

Grouponの割引を見て、バイオ業界のキャンペーンを考える

Grouponという会社やそのビジネスモデルが最近非常に話題になっているらしく(ただそういう僕もつい最近知ったのですが)、確かに面白いと思うのですが、その割引率が結構すごいんです。

Grouponについてはこのブログがたくさん書いていて、リンクした記事以外にも多くの記事があります。

それで実際にGrouponのウェブサイト(シカゴ)に行ってみると、何に驚くかというと割引率のすごさに驚きます。50%引きはまさに当たり前で、それより少ない割引率はほとんどありません。Grouponの日本法人のサイトを見てもやはり割引率はすごくて割引率は50-90%の間。多いのは50%強の割引のようです。

groupon.pngバイオの業界でも結構大きな割引が横行しているのですが、さすがにここまではなかなか割り引きません。少なくとも公に行う割引キャンペーンは50%までです。

Grouponのような大幅な割引を行うことの危険性についてはOPEN Forumの“To Groupon or Not to Groupon: The Cost of Offering Deep Discounts”という記事がありました。この記事ではRice Universityが行った調査を引用していて、Grouponを利用した1/3の企業にとっては利益面ではプラスにならなかったと紹介しています。

それでGrouponをうまく活用するためのアドバイスが紹介されていて、例えば

  1. リピート顧客が取れるようにキャンペーンをデザインしなさい
  2. 新規の顧客層が狙えるようにしなさい
  3. 新規顧客に限定しなさい
  4. 空いている時間やリソースを埋めるように使いなさい

個人的にはあまり賛同しないアドバイスもありますが、50%以上の割引をするときは確かにいろいろな注意が必要でしょうね。

バイオの業界で割引キャンペーンを担当していた僕としては常に意識していたものばかりではあるのですが、よくまとまった記事だと思います。バイオの業界で割引キャンペーンをやってうまくいくと通常より2-3倍ぐらいは売れるのですが、この程度では利益面ではプラスになりません。というか、確かにバイオの試薬は粗利が多いのが一般的ですが、それでも30%引きして利益が増えるほどではありません。

僕なんかが割引キャンペーンを割と盛んにやっていたのは、どちらかというと広告宣伝費という気持ちからです。バイオの業界は広告宣伝が未発達で、効果がしっかり出そうな広告媒体はありません。しかもほとんどが代理店を介して研究者と接しますので、分かりやすい割引キャンペーンでもやってチラシを用意しておかないと、代理店の担当者はメーカーのことを紹介してくれないのではないかと心配してしまいます。新製品はまだいいのですが、古いけど良く売れている製品は影が薄くなりそうなのです。

また財布の問題もあります。広告を打つときは、年初に割り当てられた広告宣伝費を使うことになります。これはしばしば削減の対象になってしまいますので、あまり余裕のないところです。それに対して割引キャンペーンを実施するときの損失分(利益を失った分)は、最終的な利益にならないというだけの話ですので、年初に予算化されて固定された上限がある訳ではありません。それぞれの会社の考え方や予算管理の仕方、目標設定の仕方にもよると思いますが、少なくとも僕がいたところだと同じ金額を消費するにしても、広告宣伝を行うよりも割引キャンペーンを実施する方がよほど簡単でした。そういうこともあって、本来ならば値引きせずにバラエティーのある活動を行って製品をPRしたかったのですが、経費として使えるお金がないので仕方なく割引キャンペーンを良くやりました。

まとめ

確かに割引キャンペーンは一時的に有効なことが多いのですが、割引率を大きくしないと注目してもらえなかったり、利益が下がったり、リピート顧客が獲得できなかったり等といった問題をたくさんはらんでいます。紹介した記事にはいくつかアドバイスはありますが、それに沿うぐらいでは解決できない問題もたくさん残っています。

それでもバイオの業界でキャンペーンが多いのは、ひとことで言えばメーカーの無策なのですが、実際にはそうせざるを得ない業界構造や社内の構造(これは日本だけでなく世界的に)があって、メーカーがそれに流されているだけという側面があります。

バイオの買物.comのようなサイトがそういう業界構造を変革し、より幅広いPR活動が行われるようになればいいなと考えています。まだまだ先の話ですが。

ライフサイエンス分野での携帯ねたの続き

まだ気になって、考えてしまっています。他の仕事をしないといけないのにもかかわらず。このブログを書いて、区切りにしようと思います。

そもそも、どうしてもこんなに気になってしまうのだろうとも考えてしまいます。おそらくは、携帯電話の使い方については世代間や性別間のギャップがありすぎるからだと思います。いろいろな意味で中年の僕にとって、携帯サイトというのは実感として全く理解できない世界なのです。携帯サイトについて勉強したり人に聞いたりしても、自分の実感に照らし合わせたとき腑に落ちないのです。ですからいつまでも成仏できない幽霊のように、僕の頭の中で考えがさまよっているのでしょう。

勉強してみた結果、考える上で大切だと思えるポイントがいくつかありました。

くつろぎの時間に使われることが多い

佐野正弘さんという方がMarkeZineに掲載している記事が非常に参考になりました。まずは携帯が使用されるのは移動中よりも自宅がメインという記事です。もう、実はここから既に僕の実感とデータが乖離してしまっています。PCサイトヘビーユーザについては移動中に携帯電話を使用することが多いということなのですが、逆にPCサイトのライトユーザでは自宅でくつろいでいる時間、特にテレビを見ているときに使うことが多いというのです。しかもテレビで見た製品を、直感的に、一点買いすることが多いというのです。

これをライフサイエンスのマーケティングに当てはめますと、以下のことが言えるかと思います。

「キャンペーンのチラシにはQRコードをつけて、携帯サイトと連動させた方が良い」

どういうことかと言いますと、メーカーが研究者にまき散らしている(もとい、配布している)チラシはお茶机付近においてあって、休憩でお茶を飲むときにチラチラ見ることが多いかと思います。これは研究室にいるとはいえ、家でテレビの前でくつろいでいる状態に少しは近い場面です。もちろんチラシには十分に内容を書いているつもりかもしれませんが、QRコードをチラシにつけて、追加の情報を携帯サイトから見られるようにすると面白いかもしれません。

最低でも、レスポンスがどれぐらいあったかを把握することはできるでしょう。PCのサイトはチラシを配布しなくても訪問者が多く、効果測定をする目的ではノイズが高くなってしまいます。またチラシを見た人がわざわざ自分のデスクに移動してURLを打ち込むことに比べれば、QRコードを読み取る操作は簡単です。ですから高いS/N比でチラシの効果を測定できると僕は思います。

じっくり調べるより、思ったときにすぐに決める

これも佐野正弘さんの同じ記事に書いてあった内容ですが、PCのショッピングサイトの場合はまとめて5商品を購入する利用者が多いのに対して、携帯サイトの場合は1, 2商品が圧倒的に多いそうです。また、思い立ったときにすぐに起動できるという特徴も大きいと佐野さんは述べています。そういった特性を考えると、高額の商品を買ってもらうよりも、既存顧客のファン意識を高めるために利用するのが良いとも述べています。

ということは、製品を購入してもらうよりはもうちょっとユルいことに向いていると考えていいかもしれません。

例えばメルマガへの登録というアクション、セミナー参加というアクション、資料請求というアクションなどは無料でできるものばかりなので、潜在顧客が思いつきでやれてしまうものです。携帯サイトはこういうことに強みを発揮するのかもしれません。そしてアクションを起こしてもらうきっかけとして、キャンペーンチラシにQRコードをつければ良いのだろうと思います。

つまりマーケティングの流れとしては、1) キャンペーンチラシに、対象商品説明とは別に、資料請求やセミナー、メルマガ登録をするためのQRコードを載せておきます 2) こうやって、潜在顧客との関係をリフレッシュします 3) その関係を維持拡大し、将来の購買につなげます。

まとめ

画面が小さくて情報が載せられないなど、一見すると研究者向けのマーケティングにあまり活用できなさそうな携帯サイトではあります。しかし、まだ全く開拓されていないアイデアが多いような気もしてきました。

携帯サイトが活用されていけば、研究者がくつろいでいる時間に企業と顧客の関係作りがされていくようになるかもしれません。それができれば、とても良い方向だと思います。

バイオメーカーの日本語ウェブを作るために必要なインフラ

昨日、「PNE(蛋白質核酸酵素)」という日本語雑誌の廃刊休刊と、そもそも日本語で書かれたライフサイエンスの学術誌が必要かという議論がされていました。僕はメーカーにいた経験から、英語で書かれた情報よりも日本語で書かれた情報に圧倒的に反応がよいという経験を紹介しました。

似たような話として、バイオのメーカーがカタログ、ウェブや使用説明書などを日本語翻訳するべきかどうかという議論があります。

僕自身は帰国子女だということもあり、研究をしていた頃は日本語の情報は不要だと考えていました。しかしメーカーで勤務するようになると、逆に日本語化の重要性を認識するようになりました。日本語化の重要性のポイントはざっと以下の通りです。

  1. 実際に種々の販促活動をしていると、英語の情報よりも日本語の情報の方が圧倒的に顧客の食いつきがいい。
  2. 特に企業では研究アシスタントの方がむしろメインで実験していることが多く、この人たちは英語は読めない。
  3. 研究者の多くも英語が楽に読めるとは限らない。極端な例としては臨床医が学位を取るために研究しているケースで、この人たちは研究を続ける訳ではなく、英語論文を頻繁に読むとは限らない。また一般的の研究者でも、英語力は実際にはピンキリ。
  4. メーカー営業および代理店担当者も製品情報を見て勉強している。この人たちは総じて英語力はない。したがって英語のままだと、営業の人が製品を積極的に顧客に紹介してくれない。
  5. 米国の倍以上の値段で製品を販売していることも多いのだから、それぐらいの努力はしようぜ!(これは必要性云々よりも良心の問題)

ただし実際に翻訳の活動を行っていると、多くの問題点もあります。

  1. 翻訳の手間が大変。生命科学に精通している翻訳家というのは珍しいため、外部に委託するととんでもない翻訳になってしまうことが多い。そのため、結局はメーカーの学術などが翻訳作業をかなり担うことになる。
  2. バージョン管理がされていない。英語の資料は不定期に黙って更新されることが多く、どこが更新されたかも教えてくれない。そのため、日本語翻訳した資料が気づかないうちに古くなってしまうことが多い。最初の日本語か作業の大変さよりも、この更新作業がうまくいかないために苦労していることが多い。
  3. すべての製品を一気に日本語化するのは現実的でないことが多いので、翻訳できているものは日本語を表示し、翻訳できていないものは
  4. ウェブの場合は、そもそも日本語が使えないシステムになっていることが多い。最近は米国を中心にウェブカタログを電子購買システムと連動させていることが多くなっているが、投入した開発費をまかなうために、日本独自で開発したウェブをやめさせることが多くなっている。しかし米国で開発したシステムは多言語対応になっていないことがほとんど。

じゃー、どうすればいいんだという話です。

僕もこれを実際にできたという訳ではないのですが、今までの経験から以下のようなインフラがあれば、少なくともウェブぐらいは比較的少ない負担で日本語化できるのではないかと考えています。いずれかはこういうのを作りたいという気持ちと、誰かがこれを参考に作ってくれればうれしいという気持ちを込めて、メモ程度に記します。

  1. まずは英語のウェブから情報を取り込むシステムが必要。このためには、自動的に英語ウェブを巡回して、すべてのページをとってくるプログラムが必要。
  2. 次に、英語ウェブでどのような更新があるのかを分かりやすく表示するためのシステムが必要。前項で巡回したデータを使って、差分をとっていけば分かるはず。
  3. 日本語の翻訳を管理するためのシステム。翻訳支援ソフトでは翻訳メモリというのがあるが、こういうものでかなり省力化できるはず。各メーカーは似たような製品をたくさん扱っているので、繰り返し何度も使われているフレーズが多くあるはず。
  4. 日本語の翻訳のバージョン管理システム。誰がいつどのような変更を加えたかを記録するシステム。多数の人が関わって作業をする場合、こういうのがないとうまくいかない。
  5. 英語ウェブサイトで使用しているシステムが日本語にも対応していて、訪問者の国によって表示が切り替わるものになっていればいいのだが、ほとんどのメーカーではこのようになっていない。通常は英語しか表示できないシステムが使用されている。そこで別途、日本用にシステムを作る必要がある。
  6. 前項のシステムは、自動的に英語ウェブサイトの情報が取り込み、日本語の翻訳が用意されていないページについては英語を表示するようになっている必要がある。

こんな感じのものを統合したシステムであれば、ウェブの日本語化はかなり楽に、きっちりできると思います。ただ、ここのところ日本のバイオのマーケットが伸び悩んでいるので、こういうシステムを作るだけの投資ができる会社もなくなってしまっているのが、悲しい現実のようにも思います。

JPGという読者投票型写真雑誌がつぶれたそうです

僕は全然フォローしていませんでしたがJPGという読者投票型写真雑誌が1月5日をもってつぶれるそうです。

これに対して、Robert ScobleというMicrosoft出身のIT評論家がブログを書いています。

そのブログの中には、バイオの買物.comを含め、インターネット広告で食っていこうというウェブサイトすべてにとって重要な教訓が記されています。

以下の状態ならまずいよって結論をしています。

  1. ユーザ層が新しいもの好きの人ばかり。
  2. 広告主に対して伝えられる、明確なユーザ層がいない。単に写真好きを集めたというのでは、十分じゃない。
  3. 製品を買おうと思っているユーザを集めていない。例えば良い写真雑誌のほとんどは、表紙に作品を飾らず、カメラ機材を表紙にしている。そうしていないのなら、道は険しい。
  4. 広告主がユーザとコミュニケーションする方法を提供していない。
  5. 棚スペースが得られていない。ユーザが目にしやすい場所にウェブサイトがプロモーションされてなくて、十分なユーザ数が集まらない。

バイオの買物.comならこのうちの半分ぐらいは何とかなりそうなところに来ています。残りの半分は2009年の課題です。