Androidタブレットの現状についての考察

かなり前からiPadのマーケットシェアに関するデータが気になっています。

iPadのマーケットシェアは68%?

2012年9月のAppleのプレゼンでiPadのタブレッド市場のマーケットシェアが68%だったというデータが紹介されていました。タブレット市場のマーケットシェアに関する情報は複数の調査会社が公開していて、おそらくそのどれかを使ったのだと思います。ただしタブレットの売り上げ台数を公開しているメーカーはAppleだけで、例えばSamsungはスマートフォンもタブレットも売り上げ台数は公開していないので、この市場調査委資料はかなり推測が含まれています。

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iPadの使用台数シェアは91%?

それに対して実際にインターネットにアクセスしたタブレットの数、つまり実際に使用されているタブレットのシェアを見ると全く様子が違います。91%がiPadであるというデータが出ています。これはおそらくはChitikaというネット広告会社が出しているデータを元にしているのだろうと思います。これも方法論的に難しいことがあるので、100%正しい数字ではなく、ある程度のバイアスがある数字だと考えることができます。

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いずれにしてもこの2つのデータの違いは相当に大きくて、いずれもそこそこ正しいと仮定するならば以下の結論しか合理的にあり得ません。

「Androidのタブレットを購入した人は、その後ほとんど使っていない」

以下、一部データを補足しながら、どうしてAndroidのタブレットは余り使われず、それに対してiPadは多く使われるのだろうかについて考察したいと思います。 Continue reading “Androidタブレットの現状についての考察”

コンテンツの消費をビジネスにするAmazon、コンテンツ制作をビジネスにするApple

Amazonの新しいKindle Fire HDの発表を見て、AppleとAmazonが今後覇権を争うようなことを言っている評論家がインターネット上にたくさんいましたが、僕はあまりそう思いませんでした。

確かにAppleとAmazonはかぶるところが多いのですが、両者のイノベーションの方向が根本的に違うのです。

AppleはIT技術を通して、コンテンツを制作するツールをプロ及び大衆に提供する会社です。これは昔ではDTP、そして最近ではiLife, iBooks Authorなどで見ることができます。iPod発売前にiTuneが出た当初も宣伝コピーは”Rip, Mix, Burn”であり、単に音楽をPCで消費するのではなく、Mixという創作活動に大きなウェイトが置かれていました。

AmazonはタブレットPCをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置づけていて、その意味においては確かにコンテンツを握っていることが市場で非常に大きな力になります。

AppleはiPadをコンテンツ配信・閲覧ツールとして位置ていません。近い将来にはPCに代わるデバイスとして位置づけています。iPhotoやiMovieで音楽やビデオを編集することができますし、Garage Bandで音楽を作ることができます。スケッチをしたりするためのアプリケーションもサードパーティーからたくさん提供されていますし、Pagesをはじめとして文章を書くためのアプリも充実しています。

Amazonは世の中の見る価値のあるコンテンツは市場で発売されているものであり、それはAmazonを通して買ってもらいたいと思っています。

対してAppleは、創造力は誰にでもあり、誰でも高品質なコンテンツが作れるようにすることを一貫して会社の使命と考えています。

Appleもコンテンツを消費するためのツールはあり、そこはAmazonとかぶります。iTunes, iPodとApple TVです。iPadは違います。

個人的にはAppleのようにメディアの可能性をとことん追求して、新しいチャレンジをどんどんしてくれる会社がうれしいです。メディアの可能性はたくさん残っています。Amazonにように既存コンテンツの消費方法だけに注力するのは、世の中全体としては実にもったいない話です。

スマートフォン市場の異常さ

先日のApple vs Samsungの訴訟を受け、またそれに対するいろいろなリアクションを見ながら、スマートフォン市場の特殊性について考えてみました。

以下、メモ;

  1. iPhoneは一夜にして携帯電話市場をがらりと変えました。携帯のデザインを一変させたばかりではなく、携帯にできること、ウェブを見ること、メールを読むこと、アプリを買うことの状況を一変させました。ユーザインタフェースを一変させました。当時はAndroidですらキーボード中心のBlackberryのような製品を想定したOSでしたが、iPhone後は方向を180度変えてタッチインタフェースを真似ました。
  2. 他の会社が注力していなかったタッチインタフェースを早い段階から研究開発していたAppleが、数多くの特許を独占できたのは自然なことです。タッチインタフェースを発明したのはAppleではないのですが、それを実際に製品に応用していくところの特許は圧倒的にAppleが保有していて、独占状況に近いです。こうなったのはひとえに他社が注目していない頃にタッチインタフェースを突き詰めたからです。
  3. それまでの携帯電話はパソコンと比較して大きく見劣りしていました。性能はもちろんのこと、ソフトウェア面でも圧倒的に単純なものでした。iPhoneはその状況を一変させます。iPhoneのOSであるiOSは、土台がMacOS Xと同じです。そしてMacOS Xで初めて導入された数多くの先進的な技術が含まれています。例えばグラフィックスやアニメーションの描写などがそれです。iPhoneは初代Macintoshから数えて20年余の技術の上に立つ製品です。パソコンで蓄積された技術を携帯に持ち込んだ製品です。しかしパソコンの世界では一般消費者向けのオペレーティングシステム技術はたった2つの会社しか持っていませんでした。AppleとMicrosoftだけです。このことが何を意味するかというと、iPhoneにまともに対抗できる製品を作れるのは基本的にMicrosoftしかなかったということです。GoogleがAndroidを開発できたのはJavaをハイジャックしたりiPhoneを真似たからであり、自社技術を積み重ねてつくることはできなかったのです。かなり近道をしているので、特許を数多く侵害したのは自然なことです。
  4. NokiaはAndroidの携帯を開発しませんでした。そうではなくWindows Phoneに賭けました。なぜかというとAndroidでは差別化は不可能と考えたからです。これについてはCNETの記事で紹介されています。実際に現時点でのAndroidの状況を見ると、Androidスマートフォンで儲かっているのはSamsungだけで、他のメーカーは差別化に苦労し、高い価格で製品が売れずに儲かっていません。(もちろん一番儲かっているのはAppleですが)
  5. SamsungだけがなぜAndroid陣営の中で儲けることができているか?もちろん社内に高い技術力を持っているのは有利だとは思いますが、むしろ大きいのは、ハードもソフトもiPhoneに似せたからではないかと思われます(SamsungはAndroidを改変して、よりiPhoneに似せました)。つまりスマートフォン市場の中では、ほぼiPhoneに似ているか似ていないかだけが差別化につながっていると言えます。

以上をまとめると、a) 知的所有権ではマーケットリーダー1社が圧倒的な有利な状況があります、 b) スマートフォン市場での差別化ポイントは、現時点ではマーケットリーダーの製品に似ているか似ていないかの1点に絞られています。これがこの市場の特殊性です。

MicrosoftのWindows Phoneが売れていけば、a)の問題は解決されます。Microsoftはパソコン関連の知的所有権をたくさん保有していますし、その一部はiPhoneでも使われているでしょう。MicrosoftはAppleとクロスライセンス契約をしていると言われていますので、Windows PhoneはAppleに訴えられる可能性がぐっと少ないです。

b)の差別化についてははっきりわかりません。NokiaはMicrosoftと早い段階からパートナーになることによって、他社のWindows Phoneでは得られないような差別化ポイントを手に入れようとしています。パートナー契約の内容に依存しますが、確かにそうなるかも知れません。Windows PhoneはiPhoneとはかなり違うユーザインタフェースなので、現在の差別化ポイントの一極集中は解消していくでしょう。

そうなればスマートフォン市場も多少はまともなものになっていくかも知れません。

AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと

SamsungがiPhone, iPadのデザインを真似たとしてAppleがSamsungを訴えていたアメリカの裁判は、2012年8月24日に、Appleの勝訴でひとまず幕を閉じました。

その内容をカバーした記事はネットにあふれています。特に良いと思ったのはAllThingsDの特集でしたので、詳細を知りたい方は英語ですがご覧ください。

今回の裁判は一般人による陪審員裁判でしたので、特に興味深いのは判決の理由です。
陪審員の一人とのインタビューが紹介されていますので、ご覧ください。

陪審員の人が判決の中で一番重視した証拠を聞かれて、こう答えています;

The e-mails that went back and forth from Samsung execs about the Apple features that they should incorporate into their devices was pretty damning to me. And also, on the last day, [Apple] showed the pictures of the phones that Samsung made before the iPhone came out and ones that they made after the iPhone came out. Some of the Samsung executives they presented on video [testimony] from Korea — I thought they were dodging the questions. They didn’t answer one of them. They didn’t help their cause.

彼が言及しているのは以下の証拠と思われます。

  1. 「iPhoneとGalaxyを比較するとGalaxyのここがいけていない。よってiPhoneに似せるべし」というサムスンの内部資料。
  2. グーグルとのミーティングでグーグル側が「アップルとソックリすぎだからちょっと変えた方がいいんじゃないか?」と言ったというメール。

この判決に対する印象は様々ですが、私の印象は「相当に常識的な判断が下された」というものです。

この判決でAppleの力が強大になり、競合を閉め出し、結果としてイノベーションが停滞するのではないかという議論があります。特にネット関連の評論をしている記者やブロガーの多くがこの主張をしています。私は決してそうは思いませんが、彼らの言っていることは一理があることは否定はしません。

ただ陪審員が下した結論はもっと単純明快で

他の会社が何年もかけて苦労して開発した画期的な技術を、悪意を持って意図的に真似てはいけませんよ!

ということだと感じました。

良い判決だったと思います。

さて今後どうなるか。以下ではこっちの方を大胆に予想してみたいと思います。 Continue reading “AppleがSamsungに勝訴したのを受けて思うこと”

Steve Wozniak on Siri “search engines should be replaced by answer engines”

Siri heroSteve Jobsと共同でアップル社を創設したSteve Wozniak氏が好んでLos Gatos, CaliforniaのApple storeの前に並び、徹夜でiPhone 4Sの発売を待ったそうです。

ただでもらえるのに、いつまでも子供心を忘れないとても素敵な人です。

彼が最も引かれているのは”Siri”。並んでいるときに受けたインタビューで以下のように答えています(3:40頃)。

To Siri I could say what are the prime numbers greater than 87. Google doesn’t understand “greater than”, but Wolfram Alpha does. So I would get the right answer. And that’s what I really want in life. I don’t want all these, you know, get me to the way to the answer, to the books that have the answer, get me to a web page that has the answer. I don’t want that. I say search engines should be replace by answer engines.

私がバイオの買物.comで目指しているのも同じことです。

Googleのおかげで検索エンジンが劇的に良くなったとはいえ、ライフサイエンスの研究用製品を探したり調べたり比較したりする方法としてはGoogleは全く不十分です。

単純な検索機能だけを提供しているいろいろな研究用製品ポータルは同じかもっとレベルが低いです。検索しか無いと言うのは、少なくとも研究用製品に関してほとんど役に立たないと同義です。

Siriのような人工知能は必要ないと思っていますが、人間がキュレーションしたデータセットはSiriと同様に必須です。データセットをがんばって作り、そして自然言語解析は無理だとしても、非常に工夫されたインタフェースで答えを提供していくこと。バイオの買物.comはそういうことを目指しています。

AndroidがEUで意匠権侵害で販売仮差し止めになって思うこと

GoogleのモバイルOS Androidが特許を侵害しているとして非常に多くの訴訟に巻き込まれ、またSamsungがGalaxy TabおよびGalaxy S IIで意匠権を侵害しているとして販売差し止めの訴えをAppleより起こされていることは、このブログで何回も取り上げています。

8月9日にはEUでSamsung Galaxy Tab 10.1がEUで販売仮差し止めになったということが報じられ、8月1日には同様の判断がオーストラリアでもくだされましたヨーロッパではMotorola Xoomも同じく意匠権で販売差し止めの訴えを起こされているようです。

一方でGoogleはこのような特許訴訟がイノベーションを阻害しているとブログで訴えています。ただGoogle自身が強力な特許に守られながら大きくなった会社であることや、特許以外の知的所有権に対するGoogleの姿勢にも甚だ疑問があることなどをあげて、Googleは単に自分に都合の良いことを言っているだけではないかという意見もあります。

携帯電話やソフトウェアに関する特許は確かに複雑なようで、各製品には多数の特許が含まれ、メーカーは互いに複雑なクロスライセンスをしているという現状はあるようです。そもそもソフトウェアには特許を与えるべきではないという議論もあるようです(私自身はその根拠が理解できませんが)。

さて私自身は製薬企業にいるときに、間接的に出はありますが、1990年代の半ばの遺伝子特許の問題を見てきました。この時代はシーケンス技術の発達のおかげでヒトゲノムプロジェクトなどが本格的に開始された時期です。それまでの時代と大きく変わったのは、A) 生命現象があって、それからその原因となっている遺伝子を特定するという研究のやり方に変わって、B) まずはシーケンスを闇雲にやり、遺伝子を片っ端から解読し、配列から有望そうだと推定されたものについて生命現象との関係を探っているというやり方が台頭してきたことです。いわゆる逆遺伝学(reverse genetics)と呼ばれる手法です。

しかしB)のreverse geneticsを行う際に、最後まで遺伝子と生命現象との関係を見つけるのは意外に困難です。1990年代半ばはRNAiもまだ知られていませんでしたので、ほ乳動物の細胞で遺伝子を欠損させるにはノックアウトマウスを作るしかなかった時代です。したがって現実的にせいぜいできることは、細胞に遺伝子を強制発現させることぐらいでした。遺伝子はいくらでも見つかるのに、その機能がわからないというものが山ほど出てきました。

それでも製薬企業にいる以上、見つかった遺伝子の特許が早く取りたいのです。でも特許は「有用性」が言えないといけません。そこで遺伝子配列からバイオインフォマティックスで導かれた推定機能だけで特許を申請してしまう企業も多く現れました。

果たしてそんないい加減な特許(つまり「有用性」がしっかり書かれていない特許)が成立してしまうのか。法律の世界は簡単に白黒がつくものばかりではないので、企業としては非常に不安でした。多分成立しないと思うけど、成立したら大変なことになってしまう。関係者はそんなことを案じていました。

なぜそんなに不安になるかというと、遺伝子配列そのもので特許を取られてしまうと、特許を所有している企業が非常に有利になると考えられていたからです。特許を申請するときは可能な限り多くの権利(クレーム)を書くことが当たり前のことですが、当時の遺伝子特許には i) その遺伝子配列から生産されたタンパク質はもちろんのこと、ii) そのタンパク質に結合する他のタンパク質を免疫沈降などで発見する実験、iii) そのタンパク質と結合する化合物(医薬品候補)をスクリーニングする実験さえもクリームされていました。したがって遺伝子配列の特許を持っていれば、他の製薬企業がそのタンパク質に作用する医薬品を発見したとしても(それがどんな方法で見つけたにせよ)、ほぼ特許侵害で訴えることができる訳です。

実際に遺伝子特許問題がどのように収束したかは、私もほどなくしてその分野から去ってしまいましたので詳しくは知りません。まだいろいろな問題が残っているという印象は受けています。

ただそういう問題を見てきた人間として感じるのは、ソフトウェア特許以外にも特許制度は非常に難しい問題を抱えているということです。もちろん独創的な発見やイノベーションを行った個人や企業は多いに奨励されるべきですし、特許のような強力な独占権を与えることも場合によって必要だとは思います。しかし科学技術の発展が速いだけに、また様々な利害関係が対立するだけに、法律が時代に追いつくのは難しいのです。そういう状況を考えれば、特許制度は決してベストが実現可能ではなく、「無いよりかなりマシ」ぐらいの存在であるような気もします。

遺伝子特許を議論していた印象からすると、Googleがやった行為が問題になるのはきわめて当たり前ですし、もしあれが許されるのであれば製薬企業やベンチャーが基礎研究をする価値はほとんど失われてしまうとさえ思えます。ベンチャーにとっての最大の資産が特許ということも珍しくないでしょうから、特許侵害まがいの行動が許されてしまったら、製薬産業のイノベーションの構造が覆されるでしょう。

私はそういう目でAndroidの訴訟を見ていますので、どうしてもAppleだとかMicrosoft, Oracleの側に立ちます。

イノベーション理論から見るIntelのビジネルモデルの問題

Microsoft Windows 8がARMをサポートするというニュースがありました。

Clayton Christensen氏のイノベーションに関する一連の理論に照らし合わせて、これが一体どういう意味を持つのかを、Horace Dediu氏が解説していました。

“Who killed the Intel microprocessor?”

以下その中の議論を元に、自分の意見をいろいろ述べたいと思います。

ARMとIntelの違いは何か

ARMはCPUのライセンスを提供し、NokiaとかAppleがBluetoothや音楽デコーディングの回路をCPUと同じ半導体上にデザインし、SOC (System on a chip)と言われるものを設計します。何を組み込むかは最終的な製品に合わせて、Appleなどが決定します。そしてSOCのデザインを元に、Samsungなどがこの半導体を製造します。

すなわちARMのライセンスは、最終製品に最適化された、統合された半導体のデザインと製造を可能にします。

それに対してIntelはデザインから製造までをすべて自社で行い、最終製品を販売します。どのような付加的な回路を組み込むかを選択することはできません。Bluetoothや音楽デコーディング用の回路を組み込むか否かはIntelが決め、変えることができません。

どうして今、Intelのビジネルモデルが失速しているのか

IntelのようにCPUに関わるすべてを自社で行うことは大きなメリットがあります。最高に高性能なCPUが作れるというのがそれです。製造工程を含め、CPUに関わるすべてのコンポーネントを最適化できます。例えばトランジスタ数が増やせるような製造工程の改善が行われれば、コア数を増やしたりキャッシュを増やしたりして性能の向上に役立てることができます。

しかしもはやCPUの性能だけが問題ではなくなっています。逆にCPUの性能はそこそこでも、デバイス全体の消費電力が低いことだとか、サイズが小さいことだとか、カスタムの回路を自由に組み合わせられるということの方が重要になってきています。

特にiPadやiPhoneに代表されるデバイスでは、サイズと電池の寿命が一番重要であり、まだまだ十分なレベルまで達していない、未解決の課題として残されています。このような状況では、それぞれのコンポーネントを互いに最適化させ、統合し、最後の一滴まで性能を搾りとることが優先されます。ARMのように、CPUを含めて統合が可能なビジネスモデルが好まれるのはこのためです。

垂直統合型のApple社が成功しているのは、自らIT市場にイノベーションをもたらしたから

Apple社の垂直統合モデルが成功するのか、Wintel連合の水平分業モデルが成功するのかという議論があります。多くの評論家は最終的には水平分業モデルが勝つという意見を持っているみたいですが、この人たちの理屈は決まってApple社の成功を説明できていません。Apple社の成功の理由を理解できずに、それでも水平分業が勝つと言い切っているのは、いつ聞いても不思議です。

Christensen氏の理論を理解するとApple社が成功理由は簡単です。

Apple社は既存の技術ではギリギリ作れるか作れないかという製品を世の中に提案し、それを消費者に新しい夢を見せ、消費者に渇望させ、垂直統合によるギリギリの最適化でそれを実現しています。常にレベルの高いものを消費者に提案することによって、垂直統合が栄えやすい土壌を作り上げています。

iPhoneは全く新しいコンセプトでした。同時にiPhoneはソフトウェアもさることながら、ハード面では電池消耗とCPU性能はギリギリのバランスでした。電池がギリギリ一日持つようにCPU性能は制限されていましたし、当初はマルチタスク等が出来なかったのは単純にこのためでしょう。

iPadは業界筋の大方の予想の半分の価格で市場に出ました。あれが10万円する製品だったらあれだけ話題にならなかったでしょう。大部分のネットブックを下回る4万円台で発売されたことは大きな意味がありました。iPadではARMデザインのA4 CPUにより性能の部分と電池の持ちはクリアできていましたが、価格がギリギリです。一年経って現れた競合ですら、価格では全く勝てていません。この価格を実現するために、不必要な部分を削る様々な最適化が行われたことでしょう。

遡ってApple IIのディスクドライブの話に戻ります。これもApple社の垂直統合が大成功した例です。このときSteve Wozniakが天才的なデザインでディスクコントローラを作り上げたおかげで、フロッピーディスクの容量を拡大しつつ、安いコストで製造することに成功しました。フロッピーディスクの容量がまだ90 kilobyteだった時代に、コントローラの改善で113 kilobyteに引き上げたのです。しかも半導体の数を数分の一に減らして、コストを下げています。

こう理解すると、Apple社の垂直統合が経ち行かなくなり、水平分業の方が勝つのはイノベーションが行われなくなったときだと言えます。コンポーネントによってもたらされる性能の向上に比べ、消費者の渇望を高めることが出来なくなったときです。こうなると垂直統合による最適化をしなくても、コンポーネントを普通に組み合わせるだけで顧客の用途を満たすだけの性能が実現できるようになります。水平分業でも十分な製品が作れるようになるのです。

Intelとしては、デバイスのイノベーションが盛んに続くだろうここ数年間は何をしても復活することは無さそうです。Intelのビジネスモデルがもたらす価値が市場に必要とされないからです。市場での影響力が低下するのは避けられそうにありません。

2011年にはAndroid携帯が衰退していく理由

GoogleのAndroid携帯は最近、日本でも大変盛り上がってきました。Samsungが製造しているGalaxy TabをNTT DoCoMoが大々的に宣伝したり、あるいはAUがようやくAndroid携帯を発売したりしています。SoftbankはiPhoneがありますので、本来はAndroid携帯を売る大きな理由はないと思いますが、それでも一応売っています。

世界でもAndroidは非常に良く売れているようです。

しかし2011年はAndroidが衰退していく年になるだろうと私は思います。

理由は非常に簡単です。特許です。

NewImage.jpgAndroidがここまで人気が出たのは、iPhoneに遅れて3年で技術的に同等なものが作れたからです。iPhoneというのは非常に革新的で全く新しい携帯電話でした。それを3年でほぼ真似ることができたというのは大変なことです。Appleが米国でAT&Tとの独占キャリア契約をしてきたのは、有力な競合がしばらく出て来ないことを想定したものだったと思いますが(つまりキャリアに対して圧倒的な交渉力を維持できる)、Androidの躍進はAppleの想定よりもずいぶんと早かったのだろうと思います。

開発が早かった理由はGoogleの技術者が優秀だったということもあるかもしれませんが、多分それだけではありません。あっちこっちの特許を侵害する形で近道をしたというのもありそうです。

Androidの特許周りを総括しているブログ、FOSS PATENTS : Android caught in a crossfire of patentsでは以下のように書いています。

While I’ve been following patent disputes in our industry for some time, I can’t remember that any software platform has ever been under pressure from such a diversity of patents — held by several powerful competitors — as Android.

Given the well-known strength of the patent portfolios of Apple, Oracle and Microsoft, and considering those companies’ vast resources and expertise, the latter scenario (all patents valid, all of them infringed) is certainly a possibility. Even a fraction of that could already have meteoric impact.

Androidの特許を取り巻く環境はとりわけ厳しく、Androidが無傷で特許紛争から逃れることはまずあり得そうにないという話です。

I said before that if all those complaints succeed (even just the ones that have already been filed), Android would be reduced to uselessness. That’s because the patents asserted cover an impressive diversity of technologies that define the user experience — and, therefore, customer expectations — in today’s smartphone market.

Androidが侵害していると既に訴えられている特許は非常に広範な技術をカバーするそうです。Java VM、UI、電力管理、ネットワーク接続、フラッシュメモリ管理、プログラミングテクニック関係、データのシンクロ関連などなどです。一部だけでもAndroid側が敗訴すると、Android携帯はほとんど使い物にならなくなるそうです。

Googleの対応と2011年の予想

Googleがどのような対応を取りそうか、それはOracleからの訴えに対する反論にもあります。

Google, メーカーを訴えてくれ:AndroidのJava特許侵害

そうじゃないとしても、Apple, Microsoft, OracleがGoogleではなく、携帯メーカーのHTCやMotorolaを訴えるのは全く自由です。Googleが積極的に和解金を払いながら問題を解決していくとも思えませんので(そもそもAndroidは無償で提供していますし)、2011年は引き続き多くのAndroid関連訴訟が起こされるでしょう。

携帯メーカーとしては非常に困ったことです。こんな訴訟に巻き込まれるようなOSを使い続けるよりも、他に使えるものがあるのならぜひ使いたいというのが本音でしょう。訴訟が怖いのでAndroidは使いたくないのに、残念ながらいままでは選択肢がなかったのです。

しかしようやくその選択肢が登場します。2011年にはWindows Phone 7が本格的に売り出されていきます。Windows Phone 7はまだ未完成ではあるものの、かなり有望だというレビューも多く(他にここも)、訴訟を警戒するメーカーはかなり積極的に使うはずです。最悪でも訴えられたときのバックアップとして、各メーカーはWindows Phone 7をラインアップに加えるでしょう。そしてWindows Phone 7が徐々に完成度を高めていってくれれば、携帯メーカーがAndroidに投資し続ける理由はなくなってきます。

OracleとMicrosoftそしてAppleを同時に敵に回すよりは、Microsoftの傘の下でビジネスをやる方がよっぽど賢明そうです。

2011年はそういう年になっていくと思います。

Google TVのレビュー記事

New York TimesのDavid PogueによるGoogle TVのレビュー記事がありました。

“Google TV, Usability Not Included”

要点は

  1. Google TVは機械好きの人には面白いかもしれませんが、一般の人には向きません。
  2. キーボードはSonyの場合はXBoxコントローラーとキーボードの組み合わせ、Logitechの場合はトラックパッド付きのフルキーボードとなっています。
  3. 使い方が分かり難い。
  4. 大手のTVネットワークはGoogle TVがウェブページに接続するんをブロックしているので、Google TVからオンラインの番組が見られません。それなのにこれらの番組はGoogle TVのテレビ番組一覧に表示されてしまっています。

かなりぼろぼろに書かれてしまっています。

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Apple TVが今度こそ売れそうな気配

Apple TVが今度こそ売れそうな気配がしています。

僕のTwitterのTLでもApple TVを買って、ビデオレンタルを早速している人がいます。これは日本での話。

また一番はっきりしているのがついさっきからインターネット上で話題になっているニューズ。

Amazon.comの電子機器のカテゴリーにApple TVが12-13位で登場したという話題です。もちろん米国での売上げの話です。

まだまだ勝負はこれからですが、広告を全然流していない段階でこれなので、もっともっと期待できるのではないでしょうか。