タブレット市場についての気になる情報

アップデート:
Ben Bajarin氏が中国市場でのタブレットに使用形態についてもう少し詳細に書いています。結論は同じですが、こちらも参考になります。

タブレット市場っていろいろよくわからないことがあるのですが、いくつか気になる情報があったのでリストアップします。

中国でAndroidタブレットはどのように使われているか?

Benedict Evans氏のブログの中で、Androidタブレットの中で特に売り上げが急増しているのが “unactivated Android” であることが紹介されています。この“unactivated Android”というのは主に中国で売られている$75-$150のAndroidタブレット(Googleから正式に認定されていなく、Google Playとかにアクセスしないタブレット:グラフではピンク色)です。

それでこの“unactivated Android”が何に使われているかというと、ほとんどビデオを見るために使われているそうです。したがってこれらはiPadの競合ではなく、どっちかというとテレビの競合だということです。

Screen Shot 2013 10 23 at 10 42 10 pm

ここから以下のことが類推できます;

  1. AndroidのタブレットのiPadの競合となって来ているという話がありますが、それは違うかも知れません。iPadはPost-PC市場で売られているのに対して、Androidタブレットは全然違う市場で売れているからです。これはEvans氏がブログで述べている見解です。
  2. GoogleのNexusがごくわずかしか売れていません。相当に安価であっても、高性能なAndroidタブレットの市場は小さそうです。存在するのは超安価で性能もそこそこなAndroidタブレットの市場だけ。高性能タブレットの市場はiPadが独占している模様です。
  3. タブレットの販売が急増し、PCを脅かしているという話があります。しかしiPad自体はそれほど売り上げが伸びていません。タブレット市場のうちiPadだけがPost-PCであるならば、まだまだPCは強いよ、それほどPost-PCは強くないよと言えます。ただし、これはiPadの売り上げがどのように展開するか、例えばクリスマスシーズンに大きく売り上げが伸びるかどうかに関わっています。

iPadの2013 Q3の売り上げはまたしてもあまり伸びていない

IDCから3Q13のタブレットの売り上げ推定が出ました。iPadは前年同月比で1%しか伸びませんでした。ただし2Q13のときは売り上げ減でしたので、それよりは若干良い結果です。

2Q13のときはSamsungもAsusも前期比で売り上げを減らしていましたが、3Q13ではSamsungもAsusも売り上げを大幅に増やしています。

新型iPadの発表がなかなか無かったので3Q13の数字が伸びなかった可能性が有り、また売り上げの季節性が非常に強いので、はっきりしたことは4Q13のiPadの数字を見るまでわかりません。

今のところは「騒がれているほどタブレット(特にiPad)は売り上げが伸びていない」とだけは言えそうです。

Androidタブレットはどのように売られ、どのように使われているか

IDCのレポートには、この他、Androidタブレットがどのように売られているか、どのように使われているかを示唆するコメントもあります。

Samsung once again secured the second position with shipments of about 9.7 million units. The company, which owes a measure of its tablet success to its ability to bundle them with other successful Samsung products, such as smartphones and televisions, grabbed 20.4% of the worldwide market.

つまりSamsungのタブレットが売れている(Android陣営の中ではダントツに売れている)理由は、一部にはスマートフォンやテレビとバンドルできるからだというのです。

Samsungタブレットの多くはおまけかも知れないのです。

また“unactivated Android” (white box tablet)については、

“White box tablet shipments continue to constitute a fairly large percentage of the Android devices shipped into the market,” said Tom Mainelli, Research Director, Tablets at IDC. “These low cost Android-based products make tablets available to a wider market of consumers, which is good. However, many use cheap parts and non Google-approved versions of Android that can result in an unsatisfactory customer experience, limited usage, and very little engagement with the ecosystem. Android’s growth in tablets has been stunning to watch, but shipments alone won’t guarantee long-term success. For that you need a sustainable hardware business model, a healthy ecosystem for developers, and happy end users.”

超安価なAndroidタブレットは顧客満足度が低く、あまり使われていないそうです。

不健全なタブレット市場

タブレット市場は劇的に成長していて、PCを脅かしているという話があります。しかし中身を見ると、特にAndroidのタブレット市場はおかしなことが多く、非常に不健全な状態です。iPadも思ったほど成長していません。

この状態で果たしてタブレットはPCに代わる存在になるのでしょうか?本当にPost-PC時代が到来するのでしょうか?それともタブレットもまたnetbookのように、一瞬で消えて無くなる存在になるのでしょうか?

その答え如何でMicrosoftやIntelの運命が変わります。

今後の展開に注目です。

Chromebookは教育現場で売れているのか?

先日のAppleのQ4報告の中でTim Cook氏は

We see Chromebooks in some places,

と述べ、

but the vast majority of people are buying PC/Mac or an iPad.

と語っています。つまりChromebookはほとんど使われていないと言っています。

2013年の2月には“Chromebooks Now Embraced By More Than 2000 Schools”という記事がJason Evangelho氏によって書かれ、Forbesに掲載されました。

さて、アメリカには学校はどれぐらいあるのでしょうか?

National Center for Education Statisticsによると、2009年時点で、アメリカの学校は 公立 98,817, 私立 33,366, 大学など 6,742校あるそうです。計138,925 校です。2,000/138,925 = 1.4%となります。

Tim Cookが述べた “some places” というのはおおよそ1.4%レベルを指しているのだろうと推測されます。1.4%というのはStatCounterによると、アメリカ市場全体におけるLinuxのウェブ使用率に相当します。

2013年10月22日のアップルイベントを見て

2013年10月22日のアップルイベントで新しいMacbookやiPadが発表されました。新しいMac OS XのMavericksやiWork, iLifeも発表されました。

今日は余りブログを書く時間が無いので、特に気になったことを簡単にコメントします。

Mavericksが無料になった

これは結構大きい話です。今までもMacOS Xの価格は非常に安く、Microsoft Windowsよりもずっと手頃でした。例えばMountain LionはUS$19.99でした。初代MacOS X 10.0のCheetahはUS$129で、これも当時のWindowsと比較して廉価でしたが、手頃ではありませんでした。MacOS X 10.4 TigerはUS$129.95。この価格設定はMacOS X 10.5 Leopardまで続き、MacOS X 10.6 Snow Leopardで一気にUS$29になりました。MacOS X LionではいったんUS$69に上がりますが、MacOS X Mountain Lionでは再び下がってUS$19.99になります。

それがMavericksではいよいよ無料になりました。

どうしてそうしたかは簡単です。もともとAppleはハードウェアによる売り上げの方がOSによる売り上げよりずっと多いので、OSを無料にしても売り上げ上は大きな痛手はありません。それよりも、なるべく多くの人がOSをアップグレードしてくれることの方がビジネス上重要だとAppleは判断したのでしょう。

短期的な収益を犠牲にしてでも多くの人にOSをアップグレードして欲しい理由は、iPhoneで非常にはっきり出ています。

  1. ユーザは最新の機能を利用することができ、満足度が上がる。
  2. 新しいOSには開発者にとって便利な機能(API)がたくさん用意されており、より簡単により高度なアプリケーションが開発できる。
  3. 古いOSを使用する人が減れば、開発者は古いOSをサポートする必要が無く、負担が大きく減る。その上、積極的に新しいOSの機能が活用できる。

ただし、上記のメリットが大きな意味を持つためには条件があります。それはOSが進化し続けることです。OSが進化するからこそ開発者は新しいOSの機能を使いたいと考えます。逆に新しい機能が無ければ、開発者は古いOSのサポートの方を優先し、新しいOSの機能を使いません。

まとめると、短期的な収益を犠牲にしてでもOSを無料にする理由は、今後も積極的にMacOS Xに新しい機能をつけていくからです。逆にもしiPadを優先し、MacOS Xを収束させていこうと考えているのであれば、OSを無料にすることは戦略的には矛盾します。むしろMacOS Xユーザから最大限に利益を絞りだそうとするはずです(milking)。

なおGoogleの場合はビジネスモデルが違うので、GoogleがOSを無料化する理由は全く違います。GoogleがOSを無料にすることと、GoogleがOSのイノベーションにコミットするのは全く独立の話です。Googleの場合は、OSを有償にする選択肢がありません。Chrome OSは無料にしないと誰も使ってくれないのです。

iWork, iLifeが無料になった

基本的にはiPadを単にエンターテインメントのツールとしてではなく、クリエイティビティーや生産性を高めるツールとして多くの人に利用してもらいたいのが狙いだと思います。

ただこれは同時にGoogle Docsにとって、ちょっとやっかいな話です。

Google Docsの戦略は基本的にはこうです。

  1. パソコンのユーザはMicrosoft Officeを使っていることが非常に多い。
  2. Microsoft Officeを使う代わりにウェブで同じ作業をしてくれれば、そこにGoogleの広告を掲載することが可能になる。これがGoogle Docs。
  3. Google広告を掲載することにより、Google Docsは無料にできる。
  4. 非常に機能が多いMicrosoft Officeに完全に対応するのは無理なので、Google DocsはMicrosoft Officeの簡略版にとどめる。つまり機能は落ちるけど、無料だからいいやというローエンド製品。

GoogleはAndroidにしてもGoogle Docsにしても、Google Driveにしても、あるいは古くはGoogle Readerでもそうでしたが、普通だと有料なものを無料で提供することによって利用者を増やすと戦略をとります。

一般顧客に有料なものを売るビジネスはGoogleは一回も成功させたことがありません。完全なローエンド戦略です。

そして今回のiWork, iLifeが無料になったというのがなぜ衝撃かというと、Googleよりも安価なコンペティターが出現したからです。しかも品質的にも高級ブランドイメージ的にもGoogleを圧倒しています。

iWork, iLifeにはうっとうしい広告もありません。

Googleとしては、iWorkやiLifeと対抗するのは困難です。でもローエンドで、そしてモバイルで競合するので、放っておけません。

どうするのか、ちょっと読めません。

Appleはすべてが本気だ

企業の戦略を練るとき、しばしばプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントというのをやって、重点製品と非重点製品を分けます。Appleで言えば、iOSが重点製品(花形製品)でMacが非重点製品(金のなる気)ではないかという結論になります。そしてCloudは問題児となります。

しかしAppleはこんな分析を全くしていなさそうです。すべての製品に全力を注いでいるように感じられます。そのおかげでちょっと驚異的な相乗効果が生まれている。そんな様子です。

IE10にアップグレードしているユーザが多くてありがたい話

StatCounter browser version partially combined JP quarterly 201001 201304

IE9が浸透するのも決して遅くはなく、2年間のスパンでIE8のユーザが切り替わっていきました。それに対してIE10はより勢いがありそうだというグラフです。日本に限っていえば、1年間で切り替わりそうです。

ありがたいことです。

IE8のユーザが依然として多いのはWindows XPではIE8までしか動かないのが主因ですが、自分のウェブサイトの分析を見ると、OSがWindows 7でもIE8を未だに使っている人が多いようです。

これも自分のウェブサイトの分析結果ですが、Windows XPでIE8を使っている人は大学関係者にも多いようです。これはおそらくXPしか動かないNetbookなどを使っているためでしょう。一方でWindows 7でIE8を使っている人は圧倒的に企業です。

ウェブ開発者としてはなるべく多くの人に > IE10に切り替わって欲しいです。IE10は本当に良いブラウザです。

本当はIE8のサポートをそろそろやめたいと思っているのですが、微妙なところです。

Microsoftはモバイルの脅威に対応しなかったのではなく、過剰反応したのかもしれない

Windows 8がスタートメニューを無くすなど、大胆なUIの変更を行いました。そして失敗しました。

Windows 8.1ではスタートボタンを復活させると言われています。

一方でAppleがiOS 7を紹介しているプレゼンテーションを見ると、彼らが大胆なデザイン変更の中にも継続性を非常に重視していることがうかがえます。

例えばiOS 7の紹介ビデオの3:28を見ると、Jonathan Ive氏は以下のように語っています。

While iOS 7 is completely new, it was important to us to make it instantly familiar. We wanted to take an experience that people know very well, and actually add to it. To make it more useful. To make it more enjoyable.

大きなデザイン変更をしつつ、使い勝手は継承する。

当たり前のことです。

ではどうしてWindows 8では大胆な使い勝手の変更を敢行したのか?

スタートボタンだけではありません。タイルUIも今までのWindowsには無いものでした。Windows 95以来職場でWindowsを使っていた私でも、スタートボタンとタイルUIは全く理解できていません。Windows 8は“Instantly Familiar”では全くなかったのです。Microsoftはどうしてここまでやらなければならなかったのか?

もちろん真相はわかりません。Microsoft社内でどのような議論が重ねられたかを知らなければ、答えはわかりません。それを理解した上で、少しだけ議論してみます。

Metro UI誕生の仮説

私は以下のように考えています。

  1. MicrosoftはiPhone, iPad, Androidの脅威を非常に感じただろうと思います。一部の評論家はMicrosoftがモバイル対応が遅れたと論じていますが、過去のMicrosoftの行動や古くからWindows CE, Windows Mobileを開発した歴史を考えると、それは決してないだろうと思います。MicrosoftはNetscapeの脅威に対しても、Linux搭載Netbookに対しても、迅速に正面から対応した過去があります。したがってMicrosoftが悠然と構えていたと考えるよりは、Microsoftは迅速に対応しようとしたと考える方が正しいだろうと思います。
  2. Microsoftはむしろ過剰反応をしたのではないかと思います。10年も前からタブレット用のOSを作っていたMicrosoftは、すべてのパソコンがタブレットになる時代を誰よりも早く描いていました。Microsoftにとって、タブレットはパソコンそのものだったのです。したがってタブレット用のOSを別個に作ることは全く考えずに、パソコンのOSをタブレット用に作り替えようとしたのです。AppleのiOS Lionよりも遙かに大胆に、世の中のパソコンを一気にタブレットにしようと考えたのだろうと思います。
  3. 普通のパソコン用のOSでさえタブレット用にしようとしたため、最初に述べた継続性をMicrosoftは軽視してしまったのです。

こう考えると、Windows 8の失敗はタブレットの成功に対する過剰反応だったと言えます。

同時に、脅威に対しては素早く正面から戦うというMicrosoftのファイティングスピリッツは失われていないのだろうと思います。

Windows 8の失敗はMicrosoftがおかしくなったからではなく、MicrosoftがMicrosoftであったが故にやってしまったものだろうと私は考えています。

そうそう、程度の差こそあるものの、Microsoft OfficeにリボンUIを導入したときも、かなりの拒絶反応はありました。それでも敢行したのがMicrosoft流です。

Androidがいつ64bit対応するかでGoogleの戦略が見えてくる

iPhone 5sの64bit対応

iPhone 5sの新機能の一つは64bit化したCPUです。AppleはこれでCPU性能が2倍になるとしています。

これに合わせて、iOS 7も64bitに対応し、開発ツールのXCodeも簡単に64bit、32bit両対応のアプリが開発できるようにバージョンアップされます。

64bit対応は結構大変

64bit化の大きな特徴は、ソフトを書き換える必要があることです。Appleはハード、OS、そしてソフト開発環境のすべてをコントロールしているため、比較的簡単に64bitへの移行ができるはずです。実際、Macを64bit化する際も、非常にスムーズに移行できました。それに対して、ハードやデバイスドライバをコントロールしていなかったMicrosoft Windowsの場合は簡単ではありませんでした(参考に32bitから64bitへの以降に関するFAQをリンクしておきます)。

Samsungはいち早く、自分たちも64bitのスマートフォンを準備していると公表しました。しかし現時点ではAndroidはまだ32bitであり、64bit対応への言及はありません。

64bit対応はハイエンド向け

一方で64bit化のメリットは限定的だという意見もあります。メモリを大量に消費するアプリや大量の計算処理を行う場合は効果があるものの、通常使用ではほとんどさが出ないという考えです。これについてはベンチマークテストを見るまでは結論が言えませんが、いずれにしても64bitはハイエンド向けであるのは間違いなさそうです。

Googleは64bit化を急がない可能性がある

さて、私はこのブログでAndroidがローエンド戦略に舵を切っているようだと推測しています。

Googleの一般的な戦略はローエンドの顧客を含め、なるべく多くの人間を取り込むことです。Chrome BrowserがWindows XPで動作すること、さらに米国の一部の田舎で高速インターネットを提供し始めているのもこの戦略に沿ったプロジェクトです。Andy Rubin時代のAndroidを除いて、Googleは元来ハイエンドにフォーカスしてきませんでした。次期バージョンのAndroid KitKatも低スペックのハードで動作するように最適化されているといわれています。

もし本当にそうであれば、Googleはわざわざ64bit化を急がないだろうと推測できます。作業的には大変だし、ユーザと開発者に負担をかける割にはハイエンドユーザにしか利点がなく、戦略に会わないためです。

ということは、Googleの64bit対応の優劣とタイミングから、本当にローエンドに絞っているのか、あるいは引き続きハイエンドに注力して行くのかが分かるということです。

注視していきたいと思います。

Microsoftはまだまだ巻き返す時間はあるよ、Post-PC時代はまだ当分先だよという話

タブレットの売り上げ台数がパソコンを超えるというIDCの報告がありました。問題はこれをもってポストPC時代の到来、そしてMicrosoft時代の終焉を宣言して良いのかどうかです。

Deloitteという会社が将来のトレンド予想として“The PC is not dead: it’s about usage not units”という記事を書いています。

この中で以下のことを述べています。

  1. 発売台数ではタブレットはパソコンをしのぎましたが、市場に出回っている台数ではまだまだパソコンの方が圧倒的に多い(タブレットは全体の13.5%程度)。
  2. インターネットの使用においては、2013年はまだアクセスの80%がパソコンからで、残りの20%がスマートフォンとタブレットから来るでしょう。
  3. 発展途上国において安価なタブレットが普及すると思われがちだが、結果はむしろ逆。
  4. 若い人を対象にした調査でも、若い人ほどパソコンを主に使用しているという結果になった。

この報告を読む限り、パソコン時代の終焉はまだまだ先のようです。特にAndroidのタブレットはコンテンツの消費や娯楽にのみ注力していて、コンテンツ作成や長いEmailの作成などを全く重視していません。つまり進化の方向そのものがパソコンの代替に向かっていない可能性があり、このままでは永遠に代替できない可能性があります。

Appleはこの問題をおそらく強く認識していて、iOS用のiWork(ワープロ、スプレッドシート、プレゼンソフト)を無料化したのはこのためでしょう。10インチのタブレットに力を注いでいるのも、コンテンツ作成を重視しているためでしょう。

コンテンツ作成、特に事務的なコンテンツ作成に注力しているのはMicrosoftのSurfaceシリーズです。タブレットでのコンテンツ作成に注目が集まれば、Surfaceが人気を集める可能性はまだまだあります。

まとめ

タブレットの売り上げ台数がパソコンを超えたとは言え、タブレットがパソコンを代替し、市場から追い出すという状態には全くなっていない可能性があります。

理由はタブレットがまだまだパソコンに代わるだけのものになっていないからです。

「パソコンにどれだけ近いか」という軸で市場を眺めると、以下のようになります。

Android 7インチ < iPad mini 8インチ < iPad 10インチ < Surface RT < Surface Proその他のタブレットPC

現在のタブレット市場はこの軸の左側に注目が集まっていますが、徐々に右側に移行していく可能性があり、そうしないとタブレットがパソコンを代替するようにはならないでしょう。

なおムーアの法則により半導体の処理能力が上がると、Surfaceなどの価格が下がり、市場の中心が右側にシフトするように動くでしょう。一方でパソコンの処理能力が上がっても、画面サイズの制限により、7インチがパソコンを代替する方向には進化しないでしょう。

つまりMicrosoftにまだまだチャンスがありそうだということです。

Androidのフラグメンテーション

Chris Lacy氏がAndroidのフラグメンテーションについてGoogle+で語っています。

要点は以下の通り;

  1. フラグメンテーションは無い方が良い。
  2. しかし、フラグメンテーションを受け入れる代わりに、柔軟性と自由と巨大なシェアを獲得できたのである。
  3. 柔軟性と自由と巨大なシェアに比べれば、フラグメンテーションは大きな問題ではない。
  4. 実際、ウェブはめちゃくちゃにフラグメンテーションしている。しかしすごく広がっているし、発展している。

Chris Lacy氏のコメントはもっともです。

ただし一つだけ制限があります。

フラグメンテーションが問題になるのは、最先端のぎりぎりのすごいことをやるときです。例えばウェブで言えば、ブラウザサポートが不十分な最先端のHTML5, CSS3を使うときはフラグメンテーションが大きな問題になります。一方でInternet Explorer 8でもサポートしているような普通のHTMLとCSSだけを使うのであれば、フラグメンテーションは問題になりません。

また細部にこだわったデザインを行うときもしかりです。ウェブで言えば、デザイン性に非常にこだわったウェブサイトは固定幅でデザインされていることが多く、レスポンシブ・ウェブ・デザインはしていません。ブラウザウィンドウのサイズそのものは変更できませんが、ページの大きさそのものを固定して、レイアウトが崩れないようにしています。

実際のどれだけの開発者がここまでこだわったアプリ作りやウェブサイト作りをしているかはわかりませんが、Appleの方針はこだわる人をサポートすることです。可能な限り最高のアプリケーションを開発しようという人、iOSデバイスの新しい可能性をとことん追求しようという人をサポートすることです。理由は簡単です。

Because the ones that are crazy enough to think they can change the world, are the ones who do.

もっと具体的にいえば、Appleが大切にしたい開発者というのは、iOSの限界にチャレンジし、圧倒的に優れたアプリをiOSのためだけに開発し、iOSプラットフォームの差別化に寄与してくれる人たちです。ですから彼らの挑戦をAppleは大切にしています。

普通の開発者にとってはフラグメンテーションは問題にならないかも知れませんが、こだわりのある開発者にとっては問題になるのです。

ドコモのiPhone発売報道を受けて

ドコモがiPhoneを発売することになりそうだという報道が出て、やっとドコモがあきらめたかと思いました。いずれiPhoneを発売するしかないだろうというのは数年前からきわめてはっきりしていて、ようやく「ツートップ戦略」の空回りを受けてあきらめたのかなと思います。

さてドコモがiPhoneを売れば、国内市場がiPhoneだらけになるのはかなり明白です。そして国内の携帯メーカーが大きな打撃を受けることも間違いありません。それはそれで、誰もが予想できることなのであまり話すことは無いと思います。

興味があるのは、今回のことがどれぐらい世界の携帯電話事情に影響を与えるかです。

スマートフォンは今や先進国だけでなく、中国やインド、インドネシアなど、人口が多い途上国でも浸透してきています。ドコモがiPhoneを売るようになっても、世界のスマートフォン シェア争いには大きな影響はありません。

しかしスマートフォンアプリの市場、特に有料アプリの市場は未だに先進国で占められていて、発展途上国はあまり有料アプリを購入していません。しかも有料アプリ市場は、おそらくオンラインゲームの人気により、日本が世界で一番大きいのです。したがってドコモがiPhoneを発売することで、有料アプリ市場の大きなシフトがおこる可能性があります。

この辺りは以前の書き込み、「Android Google Playの収益の危険な地域性(その3)」でも紹介しました。

日本はドコモがiPhoneを販売していないのにもかかわらず、iPhoneのシェアが高くなっています。したがってドコモが仮にiPhoneを販売し始めれば、日本のiPhoneのシェアが激増し、Androidのシェアが激減する可能性があります。これは日本内でのGoogle Playの収益が激減することを意味します。日本の寄与が大きいだけに、日本一国での収益減少により、Google Playの全世界での収益性が減少に転じる可能性があります。

携帯電話は24ヶ月縛りがありますので、実際に数字に影響が出てくるのはこれから1年後ぐらいからだろうと思いますが、Google Playが大きく失速し、結果としてAndroidプラットフォームの将来性を疑問視する声が大きくなる可能性があります。

Steve BallmerとInnovator’s Dilemmaをはっきりさせる

Horace Dediu氏が“Steve Ballmer and The Innovator’s Curse”という題で、Innovator’s Dilemmaの視点からSteve Ballmerを擁護しています。

具体的には、既存の製品からの利益を最大化する経営戦略、つまり経営者に通常期待される戦略そのものがMicrosoftをInnovator’s Dilemmaに陥れたということです。したがってもしもSteve BallmerがInnovator’s Dilemmaを避けるようなことをしたならば、むしろその方が早くクビにされたのではないかと述べています。

Clayton Christensen氏のInnovator’s Dilemma理論を深く理解していないと得られない視点です。一般的な考え方と逆なので。

Horace Dediu氏は抽象的に議論していますが、私なりに具体的に考えたいと思います。

Microsoft ascended because it disrupted an incumbent (or two) and is descending because it’s being disrupted by an entrant (or two). The Innovator’s Dilemma is very clear on the causes of failure: To succeed with a new business model, Microsoft would have had to destroy (by competition) its core business. Doing that would, of course, have gotten Ballmer fired even faster.

まずはMicrosoftがトップに躍り出たのは、既存の企業を破壊的イノベーションで押しやったからだとしています。この場合、「既存の企業」というのはIBMを指し、破壊的イノベーションというのは「パーソナルコンピュータ」を指すでしょう。個人用のパソコンを所有することが現実的となるぐらいに、そして普通の個人がパソコンを操作できるぐらいに簡単にしたのはMicrosoftです(アップルは操作は簡単にしましたが、値段を下げなかったので不十分でした)。これでIBMのオフィスコンピュータ、メインフレームのビジネスを破壊しました。

Microsoftが特にパソコンの値段を下げるのに成功したのは、ハードウェアをコモディティーにしたからです。ソフトウェアを広く供給し、普及させることで、パソコンメーカーは差別化ポイントを失います。そしてハードウェアの価格競争に巻き込まれます。

一方Googleはソフトウェアをコモディティーにする戦略を立てています。Cloudを利用することでソフトウェアに広告を配信するビジネスモデルを確立し(まだ収益の柱ではありませんが)、ソフトウェアを無償で利用できるようにしています。MicrosoftがGoogleのビジネスモデルを追従しようと思うと、今までのソフトウェアでの収益を犠牲にする必要があります。普通の経営者であればこの選択はしません。

またiPhoneが登場した背景には、最先端のハードウェアと優れたソフトウェアを組み合わせたことがあります。Microsoftはソフトウェアを広く供給することがビジネスモデルですので、最先端のハードウェアじゃなくても動作するソフトを供給しようとします。幅広いハードをサポートするようにします。したがって時代を先取りしたハードを必要とする製品はなかなか開発できません。特定のハードウェアメーカーをひいきして、密に組んで革新的なハードを開発するのはなかなかできません。Microsoftは早い段階からモバイルに着目していましたが、斬新なハードを作るのはビジネスモデルに合わず、Palmのそっくりさんの作る方がビジネスモデルに合っていました。

Tablet PCについては、Microsoftはパソコンの存在を脅かすものを作るのではなく、パソコンの進化形を作ろうとしていました。ですから、パソコンプラスアルファをデザインしていました。当然値段もパソコンより高くなります。一方、Appleは引き算でiPadをデザインしました。パソコンからマルチタスク、マルチウィンドウを取り除き、キーボードを外しました。Flashを外したのはむしろかわいい方です。引き算と引き替えに、低価格、長持ちする電池、簡単な操作性を手に入れました。iPadだとデバイスの単価は下がりますので、Microsoftの利益は減る可能性があります(Netbookの時と同じように)。Tablet PCにしていけば、利益は変わりません。

If anything, Steve Ballmer avoided The Innovator’s Curse. Being successful with new market innovations would probably have led to an even shorter tenure. Destroying prematurely the pipeline of Windows in favor for a profit-free mobile future would have been a fireable offense. Where established large companies are concerned, markets punish disruptors and reward sustainers.

MicrosoftはWindowsとOfficeが収益の柱です。MicrosoftにとってのCloud戦略にしてもMobile戦略にしても、あくまでもWindows/Officeの売り上げを増すようにデザインされていました。モバイルOSのWindows CEはあくまでもパソコンのアクセサリーであって、パソコンとWindowsに変わるデバイスではありませんでした。そしてWindows TabletはWindowsに変わる低価格製品ではなく、付加価値をつけたより高級な製品でした。

このようにMicrosoftの失敗の原因は、かなりの部分、ソフトウェアに価値の中心をおき、ハードウェアをコモディティーとして扱うビジネスモデルに由来します。

それでMicrosoftは立て直せるのか?

さて問題は、Microsoftを脅かしている現在進行形の破壊的イノベーションはどこまで進むかです。そしてTabletの北米の売り上げが鈍化しつつあるというデータを見ると、Tabletに関しては思ったほど早くは進まない気がします。またスマートフォンの売り上げの伸びに比べて、Androidスマートフォンの利用のされ方が限定的で、フィーチャーフォンの代わりに利用されているだけということも多いようです。騒がれているほどにはMicrosoftは窮地に立たされていない印象です。

MicrosoftにとってAndroid Tabletが普及してPCを代替するのが一番の脅威です。しかしAndroid Tabletは売れているものの、利用は余りされていないというデータが多数あります。特に企業には浸透していません。

今後のMicrosoftにしても、ヒステリックな方向転換をしない限り、継続してWindowsとOfficeを中心においた戦略を立ててくるでしょう。しかし世の中は完全にMobileに目が向いていますので、WindowsとOfficeの利益を確保することではなく、WindowsとOfficeの強い立場を利用してMobileを立て直そうとするでしょう。一旦はWindows 8やSurface RTで既存のWindows/Officeと縁を切るような大胆な戦略を試みましたが、これは失敗に終わっています。IntelのCPUも持ち直していますので、Windows/Officeの強みに乗っかった戦略がたてやすくなっているはずです。

破壊的イノベーションが成功するかしないかの最大のポイントは、既存のトップ企業が、まだ間に合ううちに反撃に出るかどうかです。間に合うかどうかというのは、新興の企業・製品が十分に既存製品を代替できるところまで進化しているかどうかにかかっています。つまりスマートフォンとTabletが十分にパソコンを代替できるかどうかです。十分に代替できるところまで来ていれば、Microsoftは反撃のしようが無くなります。しかしそうでなければ反撃が効きます。

Tabletについては、まだまだパソコンを代替できていません。特にAndroidは7インチに偏っていて、娯楽に完全にフォーカスしています。Tablet市場がパソコンを使って仕事をする方向に向かっていません。これではなかなかパソコンは代替しないでしょう。

反撃にいったん出れば、既存のトップ企業はそうそう負けるものではありません。Microsoftの場合、まだ間に合う気がします。