日本の試薬・機器はなぜ米国より2-3倍 高かったりするか?

ライフサイエンス研究支援の試薬や機器を日本で買うと、米国より2-3倍高いというのは割と一般的に言われています。実際には製品やメーカーによる違いが大きく、ものによっては米国より安い値段で売っていたりするのですが、古くからある製品についてはおおむねその通りです。

どうしてこうなってしまうのでしょうか?

日本と米国の流通システムの大きな違いは代理店の存在です。日本では顧客である研究者とメーカーの間にほぼ必ず代理店が入っています。代理店は研究者からの注文を受け、メーカーに発注し、製品が届いたら研究室に届けにいきます。それに対して米国では研究者は直接メーカーに発注し、メーカーから直接製品が届けられます。

日本と米国の違いは代理店の存在だから、代理店のマージンの分だけ価格が2-3倍になっているに違いない。そう思っている研究者も多いと思います。

しかし実際には代理店は平均で高々10%ぐらいしかマージンを取っていないと思います(希望小売価格に対しては20%以上のマージンが設定されていても、値引きしたりすると10%も残らないことが多いと思います)。特に大都市圏の研究施設であれば複数の代理店がしのぎを削っていますので、競争の結果マージンはかなり薄くなっています。製薬企業の場合は購買部ががんばっていることが多く、代理店が赤字すれすれでやっているケースも珍しくありません。

ようするに代理店が間にあるのは確かに日米の大きな違いですが、日米価格差の大きな要因にはなっていないということです。どちらかというと無視してよいぐらいの要因だと思います。

それでは内外価格差を生んでいる原因はどこでしょう?

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ライフサイエンスの受託サイービスについて思うこと(ビジネス視点)


アップデート
私は5年前に、ビジネスについてまだまだ知識不足だったときに下記の考えに至った訳ですが、調べてみると経営者なら誰でも読んでいる(と思っていた)ポーターはファイブフォース分析でこの問題を口酸っぱく言っているんですよね。その後もビジネスにいろいろ関わりましたが、ファイブフォース分析をしている人ってまず見たことがありません。「経営を学んだと言っている人は、実際、いったい何を学んできたのだろうか」と真剣に不思議に思いました。いまでもそう思っています。

どこからが新しい受託サービスを始めたということで、今朝チラチラとそのホームページを見ていました。そうしたら5年ぐらい前のことがdéjà vuのようによみがえってきたので、ここに書き留めます。

過当競争

誰しもが分かっていることだと思いますが、研究者向け受託サービスの業界は過当競争です。過当競争が起こる原因は単純です。

  1. 会社設立に十分な資金が集めやすい: 国家の研究開発ベンチャー支援とか、あるいはバイオと言えばお金が集まるというブームのおかげ等で、小規模のバイオ関連企業を立ち上げることが簡単でした。
  2. 技術が立ち上げやすい: 例えば受託のDNAシークエンスサービスの大半は、ABIなどの製品を使い、それにちょっとしたノウハウを加えることによって実現が可能です。また抗体作成にしても、そういう仕事をたくさんやっている研究室は多いし、そこの技術をもってくれば基本的に問題なしです。一部少数の人だけが持っている技術というのは特に必要なく、社内で研究開発を重ねる必要もなく、技術的にはかなり立ち上げやすいものです。
  3. 労働力が安い: 大学や公立の研究機関の給料はバカ安いので、一流研究室で腕を磨いてきたテクニシャンが年間300万円程度でも雇えてしまいます。

こういうことの結果として、研究者向け受託サービスは参入障壁がすごく低くなっています。その気になれば、かなり多くの人が立ち上げられる程度の難易度です。

参入障壁が低ければ、大小を問わずたくさんの企業が参入してきます。大企業はある程度の利益が出ないと撤退する傾向がありますが、小さい企業の場合は赤字ぎりぎり(あるいは赤字のまま)でもその市場から逃げません。競争はかなり激しくなります。

競争があっても、差別化戦略があれば価格競争に飲み込まれずに利益を確保し続ける企業が出てきます。しかし先ほどの2項目目に書きましたように、受託サービスの技術の肝はほとんどがABIなどのメーカーが握っているのです。DNAアレイ受託であればAffymetrixという感じです。受託サービスを実施している企業が提供している付加価値は、全体のバリューの中ではあまり大きな位置を占めないのです。ですから差別化戦略はかなり困難で、結果として価格競争しか方法がなくなります。

研究者が受託サービスに頼む理由

そもそも研究者が受託サービスに頼む理由を考えてみるのも大切です。

  1. 実験のための設備が高価。しかも共同研究先等で貸してくれそうなところもない。
  2. その実験を行うためのノウハウが自分にはない。共同研究先も機械は貸してくれるけど、実験まではやってくれない。
  3. 受託サービスの方が安い

比較的裕福な研究室であれば、通常は実績もたくさん出しているし、共同研究先を探すのに大きな苦労はないと考えられます。したがって1)という問題には当たりませんし、2)というのも大丈夫そうです。つまりお金持ちの研究室が受託サービスをお願いする理由は主に3)になります。ただし例外は医学部等です。医学部では研究実績とは別に、お金で研究成果を買うという側面があります。

結論として、お金がある有名研究室というのは一般に高価な受託サービスを頼むことが少ないと考えられます。ですから受託サービスは限られた予算しかない研究者を相手に商売をすることになります。悪い言い方ですが貧乏人相手の商売ですので、必然的に価格競争になる訳です。

ただしDNAシーケンスやオリゴDNAのように、スケールメリット等の影響で受託に出した方が、ランニングコストだけ見ても安いというケースもあります。こういったサービスならお金持ち研究室でもどんどん使うでしょう。

医薬開発受託サービス (CRO)の場合

研究用の受託サービスの場合は、このように産業構造上、価格競争になる宿命にあると私は当時は思いましたし、いまも根本的な差はないと感じています。その一方で同じ研究用受託サービスとはいえ、医薬開発向けの受託サービスの場合は大きく事情が異なります。

まず、差別化が可能だという点です。基礎研究向けの受託サービスの場合、どのメーカーのどの機器を使うかが肝で、実験の腕や企業ノウハウそのものは大きな差別化ポイントにはならないと私は先程述べました。しかし医薬開発用受託サービスの場合は、企業ノウハウとその企業の信頼性が大きな差別化ポイントになります。

医薬開発受託サービスで得られたデータはそのまま新薬申請のデータになったりしますし、何十億円、何百億円の臨床開発を継続するかどうかの判断に使用されます。また新薬は年間何百何千億円という売上げを残すことが期待されていますので、研究開発の遅れ、つまり市場投入の遅れによる損失は、一日あたり億円単位に上ります。また使用しているサンプルもかなりのコストをかけて集めてきた臨床サンプルだったりします。たとえ無料で受託サービスをやってくれるという会社があっても、信用できなければ製薬企業はそこには頼まないでしょう。

ですから医薬開発受託サービスは利益が出ます。新規参入しようと思っても、そう簡単にはできません。産業構造上そうなっているのです。

教訓

私は基礎研究向けの受託サービスをしばらくやって、結果としてうまくいかなかった経験をしています。そして上に書いたことを思った訳です。結果として得た教訓は次の通りです。

簡単なことに手を出すな。難しいことをしろ。
他人がやらないこと、やれないことをやれ。

簡単なことは他人にとっても簡単です。ですから先行者利益がある間は良いけれども、すぐに儲からなくなります。価格競争の飲まれて、つらい思いをするだけです。

そうではなく、他人がやらないこと、やれないことをやらないといけません。自分だけができて他人ができないこと。ただ人間は生まれながら基本的に平等なので、自分しかできないことを実現するためには他人がやらない努力を積み重ねるしかありません。

そういうのを意識しながらバイオの買物.comをやっています。

ライフサイエンス分野での携帯ねたの続き

まだ気になって、考えてしまっています。他の仕事をしないといけないのにもかかわらず。このブログを書いて、区切りにしようと思います。

そもそも、どうしてもこんなに気になってしまうのだろうとも考えてしまいます。おそらくは、携帯電話の使い方については世代間や性別間のギャップがありすぎるからだと思います。いろいろな意味で中年の僕にとって、携帯サイトというのは実感として全く理解できない世界なのです。携帯サイトについて勉強したり人に聞いたりしても、自分の実感に照らし合わせたとき腑に落ちないのです。ですからいつまでも成仏できない幽霊のように、僕の頭の中で考えがさまよっているのでしょう。

勉強してみた結果、考える上で大切だと思えるポイントがいくつかありました。

くつろぎの時間に使われることが多い

佐野正弘さんという方がMarkeZineに掲載している記事が非常に参考になりました。まずは携帯が使用されるのは移動中よりも自宅がメインという記事です。もう、実はここから既に僕の実感とデータが乖離してしまっています。PCサイトヘビーユーザについては移動中に携帯電話を使用することが多いということなのですが、逆にPCサイトのライトユーザでは自宅でくつろいでいる時間、特にテレビを見ているときに使うことが多いというのです。しかもテレビで見た製品を、直感的に、一点買いすることが多いというのです。

これをライフサイエンスのマーケティングに当てはめますと、以下のことが言えるかと思います。

「キャンペーンのチラシにはQRコードをつけて、携帯サイトと連動させた方が良い」

どういうことかと言いますと、メーカーが研究者にまき散らしている(もとい、配布している)チラシはお茶机付近においてあって、休憩でお茶を飲むときにチラチラ見ることが多いかと思います。これは研究室にいるとはいえ、家でテレビの前でくつろいでいる状態に少しは近い場面です。もちろんチラシには十分に内容を書いているつもりかもしれませんが、QRコードをチラシにつけて、追加の情報を携帯サイトから見られるようにすると面白いかもしれません。

最低でも、レスポンスがどれぐらいあったかを把握することはできるでしょう。PCのサイトはチラシを配布しなくても訪問者が多く、効果測定をする目的ではノイズが高くなってしまいます。またチラシを見た人がわざわざ自分のデスクに移動してURLを打ち込むことに比べれば、QRコードを読み取る操作は簡単です。ですから高いS/N比でチラシの効果を測定できると僕は思います。

じっくり調べるより、思ったときにすぐに決める

これも佐野正弘さんの同じ記事に書いてあった内容ですが、PCのショッピングサイトの場合はまとめて5商品を購入する利用者が多いのに対して、携帯サイトの場合は1, 2商品が圧倒的に多いそうです。また、思い立ったときにすぐに起動できるという特徴も大きいと佐野さんは述べています。そういった特性を考えると、高額の商品を買ってもらうよりも、既存顧客のファン意識を高めるために利用するのが良いとも述べています。

ということは、製品を購入してもらうよりはもうちょっとユルいことに向いていると考えていいかもしれません。

例えばメルマガへの登録というアクション、セミナー参加というアクション、資料請求というアクションなどは無料でできるものばかりなので、潜在顧客が思いつきでやれてしまうものです。携帯サイトはこういうことに強みを発揮するのかもしれません。そしてアクションを起こしてもらうきっかけとして、キャンペーンチラシにQRコードをつければ良いのだろうと思います。

つまりマーケティングの流れとしては、1) キャンペーンチラシに、対象商品説明とは別に、資料請求やセミナー、メルマガ登録をするためのQRコードを載せておきます 2) こうやって、潜在顧客との関係をリフレッシュします 3) その関係を維持拡大し、将来の購買につなげます。

まとめ

画面が小さくて情報が載せられないなど、一見すると研究者向けのマーケティングにあまり活用できなさそうな携帯サイトではあります。しかし、まだ全く開拓されていないアイデアが多いような気もしてきました。

携帯サイトが活用されていけば、研究者がくつろいでいる時間に企業と顧客の関係作りがされていくようになるかもしれません。それができれば、とても良い方向だと思います。

バイオメーカーの日本語ウェブを作るために必要なインフラ

昨日、「PNE(蛋白質核酸酵素)」という日本語雑誌の廃刊休刊と、そもそも日本語で書かれたライフサイエンスの学術誌が必要かという議論がされていました。僕はメーカーにいた経験から、英語で書かれた情報よりも日本語で書かれた情報に圧倒的に反応がよいという経験を紹介しました。

似たような話として、バイオのメーカーがカタログ、ウェブや使用説明書などを日本語翻訳するべきかどうかという議論があります。

僕自身は帰国子女だということもあり、研究をしていた頃は日本語の情報は不要だと考えていました。しかしメーカーで勤務するようになると、逆に日本語化の重要性を認識するようになりました。日本語化の重要性のポイントはざっと以下の通りです。

  1. 実際に種々の販促活動をしていると、英語の情報よりも日本語の情報の方が圧倒的に顧客の食いつきがいい。
  2. 特に企業では研究アシスタントの方がむしろメインで実験していることが多く、この人たちは英語は読めない。
  3. 研究者の多くも英語が楽に読めるとは限らない。極端な例としては臨床医が学位を取るために研究しているケースで、この人たちは研究を続ける訳ではなく、英語論文を頻繁に読むとは限らない。また一般的の研究者でも、英語力は実際にはピンキリ。
  4. メーカー営業および代理店担当者も製品情報を見て勉強している。この人たちは総じて英語力はない。したがって英語のままだと、営業の人が製品を積極的に顧客に紹介してくれない。
  5. 米国の倍以上の値段で製品を販売していることも多いのだから、それぐらいの努力はしようぜ!(これは必要性云々よりも良心の問題)

ただし実際に翻訳の活動を行っていると、多くの問題点もあります。

  1. 翻訳の手間が大変。生命科学に精通している翻訳家というのは珍しいため、外部に委託するととんでもない翻訳になってしまうことが多い。そのため、結局はメーカーの学術などが翻訳作業をかなり担うことになる。
  2. バージョン管理がされていない。英語の資料は不定期に黙って更新されることが多く、どこが更新されたかも教えてくれない。そのため、日本語翻訳した資料が気づかないうちに古くなってしまうことが多い。最初の日本語か作業の大変さよりも、この更新作業がうまくいかないために苦労していることが多い。
  3. すべての製品を一気に日本語化するのは現実的でないことが多いので、翻訳できているものは日本語を表示し、翻訳できていないものは
  4. ウェブの場合は、そもそも日本語が使えないシステムになっていることが多い。最近は米国を中心にウェブカタログを電子購買システムと連動させていることが多くなっているが、投入した開発費をまかなうために、日本独自で開発したウェブをやめさせることが多くなっている。しかし米国で開発したシステムは多言語対応になっていないことがほとんど。

じゃー、どうすればいいんだという話です。

僕もこれを実際にできたという訳ではないのですが、今までの経験から以下のようなインフラがあれば、少なくともウェブぐらいは比較的少ない負担で日本語化できるのではないかと考えています。いずれかはこういうのを作りたいという気持ちと、誰かがこれを参考に作ってくれればうれしいという気持ちを込めて、メモ程度に記します。

  1. まずは英語のウェブから情報を取り込むシステムが必要。このためには、自動的に英語ウェブを巡回して、すべてのページをとってくるプログラムが必要。
  2. 次に、英語ウェブでどのような更新があるのかを分かりやすく表示するためのシステムが必要。前項で巡回したデータを使って、差分をとっていけば分かるはず。
  3. 日本語の翻訳を管理するためのシステム。翻訳支援ソフトでは翻訳メモリというのがあるが、こういうものでかなり省力化できるはず。各メーカーは似たような製品をたくさん扱っているので、繰り返し何度も使われているフレーズが多くあるはず。
  4. 日本語の翻訳のバージョン管理システム。誰がいつどのような変更を加えたかを記録するシステム。多数の人が関わって作業をする場合、こういうのがないとうまくいかない。
  5. 英語ウェブサイトで使用しているシステムが日本語にも対応していて、訪問者の国によって表示が切り替わるものになっていればいいのだが、ほとんどのメーカーではこのようになっていない。通常は英語しか表示できないシステムが使用されている。そこで別途、日本用にシステムを作る必要がある。
  6. 前項のシステムは、自動的に英語ウェブサイトの情報が取り込み、日本語の翻訳が用意されていないページについては英語を表示するようになっている必要がある。

こんな感じのものを統合したシステムであれば、ウェブの日本語化はかなり楽に、きっちりできると思います。ただ、ここのところ日本のバイオのマーケットが伸び悩んでいるので、こういうシステムを作るだけの投資ができる会社もなくなってしまっているのが、悲しい現実のようにも思います。

参入障壁の無いビジネスの危険性

2006年で少し古いのですが、参入障壁の無いビジネスの危険性について紹介してる記事がありました。

ぼくは昔、バイオのための研究受託(DNAアレイ解析受託をはじめとした分子生物学実験の受託)を実際に担当していましたが、そのときの経験とこの記事で書いてある内容は共通するところが多いです。研究受託もまさしく、この参入障壁が少なく、ABIなどメーカーばかりが儲かるビジネスの典型ではないかと思います。

記事ではウェブ用のレンタルサーバビジネスの変遷について語っています。実際に運営している人のブログです。

レンタルサーバのビジネスと経済学

10年前のレンタルサーバは非常に高価でした。コンピュータ関連機器が安くなったこと、それとネットワークのコストが下がったことが原因です。この結果、参入障壁が完全になくなりました。$300とクレジットカード、そしてLinuxのマニュアルがあれば3ヶ月間の運転資金になりました。激しく価格を削りながら、数多くのレンタルサーバ会社があっという間に生まれました。

$68あれば、見栄えのするウェブサイトテンプレートも購入できました。おかげでプロフェッショナルなサービスを提供しているところとアマチュアなサービスを提供しているところが表面だけでは区別ができなくなりました。

この結果、面白いことがいくつか起こりました。

1)品質の良いレンタルサーバを探すのが難しくなりました

2)レンタルサーバが「自宅で簡単にできて儲かる副業」として紹介されるようになりました

3)レンタルサーバ用を運用するためのツールが儲かるようになりました

コントロールパネルや請求システムなどです。

バイオの研究受託の場合

バイオの研究受託の場合も、非常に参入障壁が少なくなっています。オリゴDNA合成ビジネスが悲惨な価格競争になってしまっているのもこれが原因です。

考えてみれば、研究室で簡単にできるような実験ですから、参入障壁が低いのは当然です。どこかのメーカーから機器を購入すれば大部分の作業は自動ですし、自動ではなくてもキットになっていますから、習熟度が高くない技術職でも作業ができます。また結構技術力のある人でも大学でひどく安く雇われていますから、この人たちを引っ張ってくれば作業員は簡単に手に入ります。

そういう事情もあって、DNAアレイ受託もあっという間に価格競争になりました。

日本のバイオベンチャーの多くは受託研究を短期的なビジネスの柱にしています。受託研究は非常に始めやすいビジネスなので、その気持ちはわかります。でも3匹の子豚で最後まで生き残ったのはレンガの家を建てた豚です。ワラの家を建てた豚は、すぐにオオカミに食べられてしまいました。

一方で面白いのはCROです。CROとはContract Research Organizationの略で、製薬会社の研究を受託するビジネスを指します。こっちの方は非常に成長している産業で、過酷な価格競争にさらされているという実態はありません。同じような実験の研究受託なのに、全く利益構造が異なる(ちゃんと儲かる)ビジネスになっています。

製薬企業の研究開発ではデータの信頼性とサービスの信頼性が非常に重視されます。成功する薬は日本国内だけで年間に数百億円を売り上げますし、その売り上げの大部分は利益です。しかも特許の有効性が切れると売り上げが大幅に落ち込みますので、なるべく早く発売開始して、一日でも長く、特許の有効期間内で売りたいのです。国内の売り上げだけで、一日一億円の価値があります。

ですから製薬企業の場合は、信頼性の高いデータを短期間で確実に出してくれるCROに価値があります。そしてそれだけのサービスを提供することは非常に難しいので、新規参入は非常に難しい訳です。

ほとんど教科書とも言えるポーターの本に書いてあるので、少しでもビジネスを勉強したことのある人ならわかってないといけないのですが。

経営者でもわかっていない人が多いのはガッカリなことです。

次世代シークエンサーは結局ABIか

The Scientistという雑誌でTop Innovations of 2008が発表され、ABIのSOLiDシステムが一番になりました。

さて、僕は市場に最初に出た454 Life Sciences社の次世代シークエンサーをロシュ経由で国内で発売開始するときに多少関わっていました。そこでそのときの社内の雰囲気を紹介しながら、お金でベンチャーを買っただけではなかなかトップの会社には勝てないことを話したいと思います。またトップの会社が入れ替わるようなイノベーションについて研究していることで有名なClayton Christensen氏の理屈を簡単に紹介したいと思います。

ただし、僕は最近の次世代シークエンサーの動向はほとんどフォローしていませんので、現時点でどの技術が勝ちそうかは全く判断がつきません。予めご了承ください。ただ、どの技術が勝つかということと、どの会社が勝つかというのは全く別だということにも注意してください。

ロシュが454 Life Sciences社の次世代シークエンサーを導入し、一気にDNAシークエンシング市場に乗り込もうとしたのは2005年の中頃です。また2007年の3月には454 Life Sciences社を1億4,000万ドルで完全に買収しました。454 Life Sciences社の従業員167名も完全統合しました。この167名は大部分が研究開発に関わっていたと思われますが、当時のロシュのバイオサイエンス部門の研究開発部門は大きくなく、454 Life Sciences社の統合でR&Dの人員は最低でも2倍に、僕の推測では3倍になったと思います。

プレスリリースにも書かれていますが、454 Life Sciences社の技術は確かに革新的なものでした。2005年にはウォールストリート・ジャーナル紙の2005年度トップ技術革新賞(top Innovation Award for 2005)を受賞し、2006年には米国技術情報誌「R&D」選による、最重要技術製品賞を受賞しました。

一方でABIのSOLiDはまだ製品化されておらず(受注開始は2007年10月)、IlluminaのGenome Analyzerは出て来たばかりでした(Solexaが一般に販売を開始したのは2007年)。

そのような状況の中、2005年および2006年のころのロシュの雰囲気はイケイケどんどんでした。「ABIの社員はもうがっかりしていて、アメリカではロシュに転職したがっている」とか「ABIには次世代シークエンサーの戦略がなさそうだ」とかいう話がしょっちゅうされていました。そしてロシュこそがDNAシークエンス市場でトップシェアを奪うだろうということが、経営者レベルでは言われていました(現場では違います。現場は世間知らずではありませんでした)。

そもそもロシュが454 Life Science社の技術導入をした背景には、DNAシークエンス市場の大きさがあります。DNAシークエンス市場は単独分野としてはライフサイエンスで最大のものであり、世界で1000億円規模です。ライフサイエンスで一番大きな市場でナンバーワンにならなければならない。そういう意識がロシュの経営者にあったと私は感じていました。

ロシュのライフサイエンス製品の大部分はベーリンガーマンハイム時代から引き継がれたもので、研究者に非常に愛用されているものが多くあります。しかし個別分野で見れば世界で高々100億円規模のものがほとんどで、ロシュのような巨大企業からみればアリのように小さなものです。製薬部門が絶好調で資金が余っているロシュとしては、ここで大きく出たかったのでしょう。DNAシークエンサー市場の1000億円のうち、将来的に最低でも半分の500億ぐらいは年間に売り上げたい。そう思ったに違いありません。

ちなみに製薬企業であれば従業員一人当たり、5,000万円以上を売り上げるというのが一般的だと思います。したがって454 Life Sciences社の167名を抱えるだけで、80億円を売りたいという計算になります。実際にはR&D費は全売上の高々20%というのがライフサイエンス業界では一般的ですので、ロシュの期待としては400億円程度を売り上げたかったのではないでしょうか。つまり40%の市場シェア。非常におおざっぱな計算ですが。

しかしSOLiDがTop Innovations of 2008に選ばれることなどからわかりますように、ロシュと454 Life Sciencesのテクノロジーは徐々に影が薄くなってきています。最近では真っ正面からのマーケティングスローガンではなく、固有のスペックに絞った宣伝文句になってきました。僕自身、技術動向に詳しい訳ではないので断言はできませんが、ロシュの当初のもくろみのような大きなシェアは、結局は奪えないのではないかと予想されます。最後はやはりABIというところで落ち着きそうな気がします。

ではどうしてこうなったのか、この結果は最初から予想できたかを考えたいと思います。そのときにはClayton Christensen氏の理論が大いに役立ちます。Clayton Christensen氏はThe Innovator’s Dilemmaという本で有名になり、イノベーションがどのように市場を変えていくか、どういうときに市場がひっくり返るかについて深く考察しています。

非常に興味深いのは、イノベーションが市場シェアをひっくり返すかどうかは技術の革新性によるのではなく、マーケットリーダーが反応できるかどうかにかかっているとしている点です。またマーケットリーダーが反応するかどうかは経営陣の有能さにかかっているのではなく、市場の力学によるのだとしています。そして市場をひっくり返すようなイノベーションは通常、低価格帯から高価格帯にシフトしながら起こると説いています。

例えばパソコンなどが良い例です。パソコンが出現する前はIBMなどが大型コンピュータをビジネス用に販売していて、競争相手を全く寄せ付けないほどの強さを誇っていました。そしてパソコンが出現してもなかなかそれに投資しませんでした。なぜかというとそんな低価格なものを売って大型コンピュータの代替をさせるより、大型コンピュータの性能を次から次へと高めて、これをたくさん売った方がよっぽど儲かるからです。IBMがMicrosoftの巨大化を許したもの、IBMがパソコンのプロジェクトにほとんど投資せずに、当時まだ非常に小さかったMicrosoftにアウトソーシングをせざるを得なかったからです。

気づいたときにはパソコンやUNIXのワークステーションの性能がどんどん高まって、大型コンピュータを代替できるレベルに達していました。しかし時は既に遅く、パソコンの覇権はIBMではなく、CompaqやMicrosoftに移ってしまっていました。IBMはパソコンやサーバを販売しているその他大勢の会社の一つに成り下がり、そしてついにはパソコン部門を中国のLenovoに売ってしまったのです。

それに対して、イノベーションが市場をひっくり返せない例もChristensen氏は紹介しています。航空会社です。格安の航空会社は何十年も前からたくさん出現しています。一部はある程度の成功を収めていますが、いまだにトッププレイヤーとなったことはありません。

Christensen氏は、これは主要航空会社が迅速に反応するためだとしています。航空会社の利益は搭乗率をいかに高めるかに関わっているため、高級化・高性能化で利益を高めていくことができません。格安航空会社が出現して乗客を失えば、搭乗率はたちまち低下して利益が下がってしまいます。お金持ちの高級志向の顧客をいくら引きつけて、彼らに高い料金を払ってもらっても、搭乗率が低ければ儲からないのです。実際に、主要な航空会社は格安航空会社の出現に反応し、トッププレイヤーは価格競争に参戦し、そしてどちらかが破綻するまで骨肉の争いを続けています。

Christensen氏によれば、既存のトップシェアの企業がこのように反応すれば、どのように革新的なイノベーションであっても市場をひっくり返すにはいたらないとしています。実際、どんなに特許でイノベーションを守ろうとしても、体力のある既存企業が本気で開発をすれば必ずまねをされてしまいます。重要なのは技術の革新性ではなく、トッププレイヤーが本気になるかどうかです。

DNAシークエンシングの場合、ロシュはいきなりABIのメイン顧客、超ハイスループットの顧客を狙いました。ABIとしても、これは最も収益があがる、何よりもメンツに関わる顧客層です。ABIとしては絶対に無視できない、絶対に奪われたくない顧客です。大幅な赤字を出してでも、また大量の研究開発資金を投じてでも守ろうとする顧客です。だからABIは多少時間はかかりましたが、確実に反応しました。そしてABIが本気になってしまえば、454 Life Sciences社の技術がどんなに優れていようと結果は見えていたのです。

まとめるとこういうことです

新規参入で成功したいのであれば、既存の企業が反応しないような参入の仕方をしなさい。通常、これはローエンド市場から入ることを意味します。そしてこのローエンドは、既存のトッププレイヤーとしては捨ててもいいと思っているローエンド市場でなければなりません。既存の企業が高級化路線で逃げられるようにしておきなさい。そしてローエンド市場で十分に力を蓄え、初めてメインストリームの市場に参入するべきです。

思えば日本の自動車メーカーが米国で成功したのはこのシナリオです。小さくて、パワーがなくて、壊れやすい車しか作れなかった日本のメーカーは、ビッグ3には軽蔑されながらも、それでも少しずつ力を蓄えました。その間に、小さい車を買う顧客なら魅力を感じるような低燃費技術を開発しました。ビッグ3はダイレクトに日本メーカーと戦うよりは、高い金で大型車を買う顧客に集中した方が儲かると考え、低燃費技術に本気になりませんでした。世の中が変わって、低燃費が重要になってしまったころにはもうビッグ3は対抗できなくなっていたのです。

札束にものを言わせて、いきなりトッププレイヤーを引きずりおろそうとしても、そうは簡単にはいかないのです。背面から攻撃を仕掛けないと、力のあるプレイヤーにはなかなか勝てません。

長さは重要です!454シークエンサーの面白い広告

Roche Applied Scienceの454シークエンサーの広告。

“Size Matters”というのはアメリカではよくあるギャグで、男性の下半身の大きさへのこだわりを意味しています。

そして “Length Matters”。

lengthmatters.png

バイオ百科で抗体検索:僕が使いにくいと感じるところ

以前のブログで、バイオ百科の抗体検索が使いにくいとお話しました。

僕もいちおう科学者の端くれですので、方法および結果をちゃんと紹介し、皆様も追試できるようにしました。実際に僕が問題にぶち当たっているところをビデオにしましたので、ご覧ください。

インターネットで抗体を探す方法:抗体検索サイト vs. Google

理想の抗体検索システムを追求した新「まとめて抗体検索」サービスを始めましたので、ぜひご利用ください。

またこの記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

あなたは抗体を探すとき、抗体検索サイトに行きますか?それともGoogleでダイレクトに検索しますか?

日本国内の抗体検索サイトについては以前のブログで紹介しましたが、今回は抗体検索サイトを利用せずに、ダイレクトにGoogleで検索する方法について話したいと思います。

ここでいうGoogleで検索する方法というのは、つまり “CD4 抗体”もしくは”CD4 antibody”のキーワードでGoogleすることを指します。

面白いことに、コスモバイオのウェブサイトなどをを利用して抗体を検索するのと、Googleで直接検索するのとでは、全く異なるのです。例えば “CD4 抗体”でGoogle検索すると、Beckman CoulterのサイトやMiltenyi Biotechのサイトは出てくるのですが、コスモバイオのサイトはやっと3ページ目に、あまり関係がないと思われる「Tregマーカー 細胞表面にある4型葉酸受容体抗体:コスモ・バイオ」というページが出てくるだけです。コスモバイオが取り扱っているCD4 抗体のページは出てこないのです。

どうしてそうなってしまうのかという技術的な問題については、後で機会があれば詳細に解説したいと思います。今日はとりあえず、Googleで直接検索する人がどれぐらいいるのかを分析したいと思います。利用するのはAdwordsのキーワードツールです(Adwordsアカウントがないと、フルバージョンは使えません)。

いくつかの抗原で、”[抗原名] 抗体”もしくは”[抗原名] antibody”のGoogleでの検索回数を表にまとめました。数字は月間の平均検索回数です。

抗原名 “抗体”と組み合わせ “antibody”と組み合わせ
annexin 不明 390
Calcineurin 不明 91
Raf 不明 12
Ras 36 480
Caspase 不明 58
myc 170 91
CD20 170 不明
CCR3 不明 73
CD133 91 390

各抗原について、非常に乱暴ですが、平均で月間100回の検索が行われると想定しましょう。また抗原の種類は、割と知られているものだけでも数百はあるでしょう。仮に500種類あるとします。そうすると、直接Googleで抗体の検索を行うのは、月間50,000回あると計算されます。平日だけを考えますと、毎日2,000回の検索が行われている、非常におおざっぱに言えると思います。

そもそも「抗体」というキーワードだけだと165,000回の検索が行われていますし、antibodyだと27,100回の検索が行われています。「抗体」で検索しているのは、研究者以外の人が多いと思われますので、僕らの目的からすると、antibodyの27,100回の方が意味があると考えています。ちなみに「コスモバイオ」は6,600回、Googleで検索されています。

‘antibody’は27,100回検索されていますが、この数を先に推定したGoogleでの直接的な抗体検索回数、月間50,000回と比べますとかなり近い数字です。そこで、論理的にはかなり乱暴ですが、インターネットで抗体を探している人はかなり高い割合で、Googleでの直接検索を行っていると言えると思います。

そう考えると、Googleで直接検索を行うユーザは多いので、彼らを対象とした対策が必要になります。しかし、極一部のメーカーを除いて、これをしっかりやっている会社はかなりの少数派のように見受けられます。

残念な話です。

収益モデルがウェブサイトの使い勝手を決める例:バイオ百科

理想の抗体検索システムを追求した新「まとめて抗体検索」サービスを始めましたので、ぜひご利用ください。

またこの記事を含め、ライフサイエンス研究用製品メーカーのウェブサイトのあるべき姿について書いた記事を特集ページにまとめました。あわせてご覧ください。

アップデート
バイオ百科で僕が実際に抗体を検索して、使いにくくて困っているビデオをアップロードしました。

バイオの買物.comを含め、ウェブサイトの運営資金は広告収入を当てにしていることはとても多いです。

優れてウェブサイトを作り、多くにユーザが訪問してくれれば、広告収入が増えるという形です。

しかし広告料金のプラン(つまり収益モデル)を上手に設計しないと、ユーザにとって優れたウェブサイトが作りにくくなることがあります。ユーザの要望に応えるウェブサイトにすることと、収益を得るということが、互いに矛盾するケースが生まれてしまうのです。

その例として、「バイオ百科」というウェブサイトを見ていきたいと思います。

バイオ百科は抗体メーカー(商社)数社の製品をデータベースに登録し、限定的ではありますが、横断的な検索を可能にするウェブサイトです。特に抗体を探すときに有用です。登録しているメーカーが少ないので、BioCompareの抗体検索に比べれば抗体の網羅性は低いのですが、コスモバイオとフナコシの抗体が入っているので、小さいメーカーはかなりカバーされています。

しかしこのサイトで非常に残念なのは、検索インタフェースの使い勝手です。

「CD133」で検索を行った例で解説します。

biohyakka1.png

まず気付くことは、製品が全くランダムに並んでいることです。製品名で見ても、メーカー名で見ても、包装サイズで見ても、価格で見ても、全く何で見てもランダムに並んでいます。
並べ替えるには再度検索を行う必要があるのですが、検索条件のメニューは以下の通りです。

biohyakka2.png

ユーザが一番望むであろう「価格順」というのが無いのです。

どうしてランダムに製品を並べるのか。どうして価格順に表示させないのか。

さてここからは想像になりますが、ユーザにとって不便なインタフェースのままになっている理由を考えたいと思います。どうしてバイオ百科は不便を承知で、ランダムな表示順にしたり、価格順の並べ替えを用意しなかったりしたのか。

製品を掲載するにあたり、バイオ百科ではまず比較的高額なセットアップ費用を支払う必要があります。そして小額ではありますが、毎月の固定料金を支払います。

僕はこの料金システムがバイオ百科の自由を束縛し、ユーザ本意のウェブサイトを作りにくくしていると考えています。

まずは高額なセットアップ費用です。高額な費用を支払った以上、広告主であるメーカーはバイオ百科に対して強い発言権を持つようになります。自社に都合の悪いサイトの改良をしようとすれば、拒否できるだけのパワーを広告主は持つことになります。すべての広告主が納得するような改良は簡単にはできないでしょうから、サイトの改善スピードが遅くなってしまいます。

一方、もしバイオ百科がセットアップ費用を取っていなかったとします。そのとき、広告主に都合は悪いけれども、ユーザにとっては便利な機能(例えば価格順の表示)を追加しようと考えたとします。その結果として一部の広告主の反感を買ったとしても、その広告主に外れてもらうようにするだけでいいのです。文句を言う広告主の製品は載せてあげませんよと。広告主もセットアップ費用を支払っているわけではないので、損はありません。それに対して広告主がすでに高額なセットアップ費用を支払ってしまっていると、広告主はもとをとろうと考えますので、簡単には外れてくれません。広告主は引き下がらずにしつこく文句を言う可能性がありますし、仮にそうではなくても今後のビジネスにしこりを残すことになります。

月額の固定料金も問題です。広告主は一定の費用を毎月支払うわけですから、各広告主の製品をなるべく均等に表示する義務が発生します。メーカーのアルファベット順に並べてしまうと、いつも同じ会社が上位に表示されてしまうので、広告主間で不公平が生まれます。製品名のアルファベット順に並べても、同様の問題が発生する可能性があります。価格順に並べた場合は、安売りメーカーが優先して表示されるので、高い品質とブランド力を持っていて価格を高めに設定しているメーカーは広告を出してくれなくなります。

バイオ百科で製品をランダムに表示しているのは恐らくこのためでしょう。

一方GoogleのAdwordsのように、訪問者がリンクをクリックする回数に応じて課金するシステムであればこの問題はかなり軽減されます。並べ替えの関係でたくさん表示されるメーカーは多くの広告費を支払いますし、少ししか表示されないメーカーは広告費をあまり支払いません。したがって広告主間の不公平感は生まれません。価格順に並べても問題ありません。真に高い品質とブランド力を持っているメーカーであれば、検索条件で指定してもらえるはずですから、表示してもらえるはずです。検索条件で指定してもらえないメーカーは、実はブランド力が思ったほど無かったという、それだけのことです(もちろん、ウェブサイト側は検索条件でメーカーを指定しやすいように工夫していることが前提ですが)。

また月額の固定料金の場合は、バイオ百科自身のインセンティブが低くなることが言えると思います。ユーザにとって便利なサイトを作ることよりも、広告主にとって都合のいいサイトへと重点が移ってしまう可能性があります。事実、今回紹介したもの以外にも、バイオ百科にはびっくりするような不便なところがありますが、なかなか改善されません(CD4を検索してみてください)。

以上、自分のバイオの買物.comを棚に上げて、他のウェブサイトの悪口を言ってしまいました。でも言いたかったのは悪口ではありません。

言いたかったのは、収益モデルをよくよく考えておかないと、広告主に自社の自由を束縛されてしまうということです。そして本当の顧客であるウェブサイト訪問者からフォーカスが外れてしまって、使いやすいウェブサイトが作れなくなってしまう可能性がありますよということです。

そういうことに注意しながらデザインしているバイオの買物.comの収益モデルについては、また別の機会に紹介したいと思います。